超短編『たとえばなし』
うどんってどう作っているのだろうか。それが気になって仕方がなくなってしまった僕は、ふと、香川県に出かけた。うどん好きでも旅行好きでもないのに。
その地で出会った人たちはとても親切だったというわけではない。普通にうどんを作って、普通に生計を立てて、普通にうどんを好んで食べていた。
僕は気になった。なんでうどんに飽きないのだろうと。だから、うどん作りを教えてくれていたおばちゃんに聞いてみた。
「んー、何でだろうねえ。もうDNAとかその辺りから染み付いてるんじゃないかしら。」
うどんの作り方を話すときは淡々としていたのに、突然、病み上がりに冷たいざるそばを食べる時のような笑顔で言った。
「そういうもんなんですね。」
「そうねえ、でもねお兄さん、香川県民は蕎麦も食べるのよ。」
蕎麦も食べるのか、そうか。
「蕎麦も食べるんですね、そうなんですか。」
「夫ばかり愛する訳にもいかない歳になってきたもの。」
うどんを作っている時に蕎麦のことを考えてしまうようなものだろうか。