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とある妊婦の脳みそ【10】甘いものをめぐる終わりなき闘い―妊婦と寒天とおから

前回は妊婦とクラウドソーシングというマジメな話に熱を入れてしまい、あぁ、なんだか疲れてしまった。

というわけでこの連載(?)ももうじき終わりなのだけれど、その前にちょっと、ひとやすみ。

えぇ、甘いものでもいかがですか。

今回は妊娠後期、体重制限と闘いながらも甘いものが食べたすぎて試行錯誤を繰り返していた私の、それはそれは些細な、とるにたらない脳内記録である。

あぁ〜、甘いもの、食べたい。

*  *  *

振り返ってみればつわり時期、気持ち悪さを必死にこらえ、まるで苦行のような思いで、食べても食べても、みるみる減っていた体重。

あれは……、夢であったか?

中期になれば食欲は徐々にもどり、当初は「意外と増えないものだな〜」と余裕をかましていた体重も、後期に入るころからみるみる増えはじめた。

体が何でも栄養を取り込もうとするからなのか何なのか、とにかく、おもしろいくらいに、食べたら食べたぶんだけ、てきめんに増える。

特に臨月になれば「空気を吸っているだけで体重が増える」というウワサもまことしやかに飛び交っているほど。

それを見聞きして、“いやいやいくらなんでも大げさな……”と思っていた中期の私、コノヤロウ(笑)。いざ臨月になってみれば、これまではある程度自分でコントロールできていた体重のコントロールが見事に効かなくなり、食事に気をつけて、運動をしても、体重だけはどんどん増えていく(!)。

体重制限と地味にたたかっている妊婦さんは、実は多い。

*  *  *

これも、自分が妊婦になるまで知らなかった情報のひとつなので補足するが、最近の妊婦というのは、体重制限がけっこう厳しいのだ。

もちろん適正な体重増加は必要だけれど、そのラインを越えて増えすぎてしまうと、産道に脂肪がついて赤ちゃんが通りづらくなり、難産になるからだと産院で説明を受けた。

指導するかしないかは産院の方針によって異なるが、クチコミサイトを見ても、同世代の知人に聞いてみても、体重制限について医師からなんらかの指示を受けているケースは少なくない。

私が通う産院でも、体重の増減がまだ気にならなかった中期ごろ、全員に説明している内容として「妊娠前から10kg増えたら強制的にマタニティビクスに通ってもらうから気をつけてね」と言われてしまった。

その後、数値上では適正範囲で体重増加していたにもかかわらず、後期には赤ちゃんが大きめということもあって「もうあまり体重増やさないで。炭水化物と甘いものは控えてね!」と個人指導までされてしまった。

ああ。妊婦だから2人前食べないと、なんて昔の話は、どこへやら。

はやりの炭水化物ダイエット生活となんらかわりはないじゃないか!

いやむしろ、人をお腹の中で育てている以上、他の栄養素(特に鉄やカルシウムなど)は妊娠前より多く摂取しなければならないので、食事はバランスよくきちんととるのが基本。

“栄養は常時より大幅に増やしてね、でも体重は増やさないで!”。

こりゃ普通のダイエットより、キビシイわ……。

*  *  *

糖をとりすぎてはいけないということで、炭水化物は、夜に主食を食べないことでなんとかバランスをとっていた。

うん、できる、まあ、がんばれる。野菜は好きだし、野菜とタンパク質はきちんと食べてさ、うん。大丈夫。

けれど私にとって、どうしても我慢できないのが、甘いもの。

これがまた、食べるなと言われると、よけい頭に描いて、食べたくなる。

ケーキ食べたい。シュークリーム食べたい。エクレア食べたい。チョコ食べたい。クッキー食べたい。パンケーキ食べたい。メロンパン食べたい。チーズケーキ食べたい……、

きりがない。

だがご存知の通り、たいていの洋菓子には大量のバターやおそろしい量の砂糖、生クリームなどが用いられている。言わずと知れたカロリー爆弾だ。

そして、クリーム勢に対して一見おとなしい顔をしているクッキーやパンケーキ、シフォンケーキにパイ生地なんかも、原料はほぼ小麦粉。炭水化物+砂糖、のかたまり、すなわち糖質爆弾だ。

ああ、なんてこった。

*  *  *

そんなわけで、後期に入ると、「とある妊婦の甘いものを求める闘争」がはじまった。

一時期はまっていたパウンドケーキ作りなど、小麦粉主軸の手作りスイーツから舵をきり、今度は低カロリーなおやつ、ダイエットスイーツづくりに精を出す。

そこで私を助けてくれたのが、寒天とおからだった。

まず寒天は、まだ暑さの残る季節にかなりお世話になった。砂糖を入れずにただ煮溶かして固めれば完成。たくさん作って冷蔵庫にストック。

サイコロ状に切り分け、たっぷりのきなこと(気持ち控えめ程度の)黒蜜をちらっとかけてよく食べていた。

低カロリーはもちろん、動物性のゼラチンとは違って寒天は原料が海藻なので、食物繊維も豊富。便秘に悩む妊婦にはもってこい。ついでにきなこは大豆が原料なので、栄養豊富、妊婦にはかかせない鉄分も含まれている。

黒蜜の糖分は多めにみるとして、小麦粉と砂糖と油分からできた洋菓子に比べれば、妊婦の救世主であるといえるだろう。

*  *  *

とはいえ、秋も深まってくると、寒天を食べ続けるにはちょっと寒い。

そしていかにがんばって否定しようとも、やっぱりケーキみたいな“ザ・スイーツ”だって食べたいのだ、正直。

そんなときに次なる救世主として現れたのが、おから。豆腐を作るときに豆乳を絞りとった、残りかす。よく卯の花などで食すアレである。

つまり、大豆の搾りかす。

炭水化物も含まれているけれど、食物繊維たっぷりで便秘対策にもなり、妊婦が多く摂取すべき鉄やカルシウムも豊富。

さらに腹持ちがよくて、余分な脂肪の吸収も抑えてくれるらしいとあっては、活用しない手はない。

*  *  *

これもパン作りのとき同様、インターネット上には数多くの先人たちが、おからスイーツのレシピをいくらでも公開してくれている。

おからのチーズケーキやおからのココアケーキ、おからクッキー、などなど。小麦粉や片栗粉と混ぜて使うレシピもたくさんあるが、ちゃんと探せば粉を足さず、おから100%のレシピもある。

ただ、販売されているおからの水分量にはかなり差があるらしく、レシピ通りにつくっても全然うまくいかない、ということも。

とあるレシピでは、水分量を変えて2度挑戦したけれどついにレシピで言われているような味にはならず、「はい、僕、おからでーす!」と主張が激しいおからケーキ……、というよりは“ケーキの形をしただけのおから”、ができたりもした。

かと思えば、ときには人に出しても「美味しい! おからってわからない」と言ってもらえるくらい、満足できるおからケーキができることも。

こちらはココアパウダー入りで、食べた印象としてはチョコレートケーキに近い。砂糖の量は控えていても、「スイーツを食べた」満足感を味わえて、気持ちもかなり満たされる。

試行錯誤をしては成功例に味をしめて、何度もリピートしてしまった。

*  *  *

おからスイーツや寒天のレシピページでは、日本全国から「妊娠中のおやつに作りました」「授乳中のおやつに作りました」という声があふれている。

そう、母乳で育てるなら授乳期もまだアルコールや甘いもの、油分などの食事制限はつづく。

妊娠中や授乳中、「お酒を飲んではダメ」というイメージは昔の自分にもあったけれど、まさかこんなに甘いものに飢えるとは思いもよらなかった。

寒天よ、おからよ、そんな私に希望を与えてくれてありがとう。

でも、でもね。

私、やっぱり。

バターたっぷり、クリームたっぷり、なんなら洋酒もたっぷりのあの味を、何も気にせず、めいっぱい頬張って……、食べたぁぁぁぁい!(笑)。


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追伸:

リアルタイムでは臨月の今、赤ちゃんが下がってきて足の付け根が圧迫され、突然、足のむくみがMAXに。

すると産院では「糖に加えて、塩分も控えて!」とのこと。

ええっ。子どものころから「あなたはほんと薄味好きね〜」と母に突っ込まれながら育ち、普段も質素な食生活をしている身としては悲しいやらなんとやら。アイデンティティどこいった。

鉄はいくら食べてももっとトレと言われ、糖や塩はさほどとっていないのにトルなと言われ……。本当に妊婦ってダイエッターです。

気をつけても気をつけても、わが体重軽くならざり、じっと手を見る。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。