『詩人の落とし物』
よく晴れた冬の午後だった
公園の落ち葉の上に
詩人の落とし物
バス停に立っていた黒いコートは
詩人だったのか
自転車で走り去った あの女性が
詩人だったのか
子供とキャッチボールをしていたあのお父さんこそ
詩人だったのか
とにかく詩人は
風に吹かれて
どこかへ消えた
残されたのは
詩人の落とし物
交番へ持っていけば
受け取ってくれるだろうか
あるいは
このままそっとしておけば
いつか詩人が戻ってくるか
あるいは
このまま雨に濡れて
土に帰るか
しばらく考えて詩人の落とし物を
私は
家に持ち帰った
あれから20年
未だに私の引き出しには
詩人の落とし物がある
<!-- 僕の影は
まるで泥棒のように
長く伸びていた -->