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猟奇

あの日は乃木坂で仕事を終えて、明治神宮前駅で千代田線から副都心線へ乗り換えた。
家に帰ったらやるべきことを、あれこれとシミュレートしながら電車を待つ列にならぶ。
やってきた電車にはちょうど2席分の空席があって、列の先頭にいた僕と、2番目に位置していた男性が隣どうしに座った。

僕と同じくらいの年齢で、全身黒色のコーディネート(どうして全身黒色って無条件に洗練されているように見えるのだろう?)。僕より二回りくらい恰幅よく、噴き出た汗と高い湿度のせいで髪の毛はやる気なく頭皮の上に寝ていた。

彼はリュックサックからスケッチブックを取り出した。電車に乗っている人をスケッチするのかと思い、僕は興味深くなって、そのスケッチブックの中身を横目で見た(ごめんなさい)。

すると、そこには女性の写真がたくさん貼られている。写真には不特定多数ではなく、いつも決まった女性が写っていて、5枚に1枚くらいの割合で全身黒色の彼が女性の隣にいたから、僕はすぐに「ああ、この二人は恋人同士なんだ」と納得はした。でもそのスケッチブックには妙な違和感があった。おそらく写真の貼り方なんだと思う。それらはページの面積にたいして多すぎるほど貼りつけられていて、ちょうど足立区の住居密集地を上空からのぞいたようだった。

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363字
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