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【皆んな】 #506


「また『皆んな』で集まろうねっ」

 
そう言っている女子がいる

賛同する女子がいる

それをニコニコして見守る男子がいる


しかし
ココには僕はいない




高校生によるショートフィルムのコンクールを募集している
というのをネットで見つけた


僕は映画が大好きで
時間があれば映画館へ行き
家にいてもNetflixなんかで映画を観ている

とにかく映画が大好きだ

心の中で
いつか自分も監督になって
映画を撮ってみたいと思っていた

そんな中でのこの募集

僕は飛びついた

すぐに友達のヨシオくんにLINEをした
ヨシオくんは映画の話をする仲良しの友達である


ヨシオくんもすぐに飛びついた

ヨシオくんと作戦を考え
誰を巻き込む
誰を誘う
どんな作品にする
など色々と盛り上がった


早速次の日に
ヨシオくんと僕は
しかるべき人たちに声をかけて回った
賛同してくれる者
嫌がる者
恥ずかしいと言って逃げる者
色々いて
計画も二転三転したが
なんとかスタッフも役者も揃った



僕は作品の監督と脚本をした
ヨシオくんはロケハンと編集
機材はカメラを担当する金持ちの息子であるタニマンにお願いした


締め切りまで2ヶ月


僕は一所懸命に脚本を書き
1週間で仕上げた
細かいところはその都度修正すれば良い


ヨシオくんのおかげで素晴らしいロケ地も見つかった

撮影もこれまたタニマンのおかげで素晴らしいモノが撮れた


初めての割には
最高の出来だと思った
役者の『皆んな』も
最初こそぎこちなかったが
どんどん慣れていき
最後の方はもう殆ど撮り直しも無かった



全ての撮影が終了し
後は編集作業をするだけとなった


「ヨシオくん
ココはもう少しカットして欲しい」

「ヨシオくん
ココさぁちょっとスローにできない?」

「ヨシオくん
ダメだよそんな繋ぎ方」

「ヨシオくん
だからそーじゃなくて…」

遂にヨシオくんはキレた

「もういい加減にしてくれよ
ある程度僕に任せてくれないか
君の脚本や
監督している事で
僕だって
ううぅ〜んって思ったりする部分もあったさ
だけどさ
この企画は君のだし我慢してたんだよ
なのに
編集
こんなんじゃ僕は単なる作業員じゃないか

もう君が自分でやれば良いよ」

そう言って僕の部屋から出て行ってしまった

仕方なく後半は僕一人で編集作業をした

そして遂に完成した


『皆んな』に集まってもらい
試写会をタニマンの家で行った


粗削りではあるが
なかなかの作品に仕上がった
『皆んな』も喜んでいた



3ヶ月後の結果発表
 
残念ながら
なんの賞にもかすらなかった


結果をヨシオくんにLINEした
ヨシオくんはネットで見て既に知っていた


実を言うと
あの編集でもめてから
ヨシオくんとは一切話をしていなかった
試写会の時も

『皆んな』に集まってもらって
今回の事を報告しようとしたが
誰も都合がつかず
学校で個々に伝えるか
LINEで伝えるかに至った



僕が知らない間に
僕抜きの
お疲れ様パーティーが
タニマンの家で開催されていた
その幹事はヨシオくんだと後で知った


パーティーでは
もう一度映像を観て
その後はタニマンのお母さんの
美味しい料理で楽しんだ
らしい


僕は全く知らない



数年後
社会人となり
僕は営業先の会社で偶然ヨシオくんと再会した

僕は嬉しかったが
ヨシオくんはなんだかよそよそしかった

強引にランチに誘い話をして
その全てを知った


僕はあの映画で
『皆んな』に嫌われてしまったそうだ
理由は簡単で
僕が独裁的に命令をして進める事に
『皆んな』が反感を持ち
その度にタニマンとヨシオくんがなだめていた

その時に言ってくれりゃ良かったのに…

そう言うと
ヨシオくん


「何度も言ったさ
なのに君は聞く耳を持たないどころか
僕の言う通りにしてさえいれば
金賞は取れる
素人は口出しするな
君はそんな事をしょっちゅう言ってたんだよ
そんなの誰だって良い気はしないよね」


僕は何も言えなかった
というか
反論も弁解もできない

店を出て
別れ際に


「ゴメンな」


それしか言えなかった




それから更に数年後
なんとヨシオくんは脱サラして
映像の世界に入り
今では若手人気監督の一人となっていた


最新作の試写会に
あの時の映画に参加した
『皆んな』が招待され
試写会の後
飲み会が開催された



女子は口々に言う

「また『皆んな』で集まろうねっ」

そして賛同する女子

ニコニコ見守る男子とヨシオくん




そこには
もう僕の入る
『皆んな』は存在しない





ほな!

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