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仮に「なでしこジャパン」が優勝しても日本の女子サッカー発展には繋がらない

『なでしこジャパンが4大会連続の決勝T進出!』
『決勝T進出を決めたなでしこJの好連係を英紙が称賛!』
『なでしこ19歳・藤野あおば、最年少弾!』

『ピッチ内外で誇るべき存在 なでしこがコスタリカ戦後のロッカーの様子をアップ』
etc…

サッカーの女子日本代表(なでしこジャパン)が真冬のニュージーランドで素晴らしい戦いを見せている。
大会出場全チーム中、4番目に平均年齢の若いフレッシュな選手たちの、ノビノビとしたプレーには、思わず喝采を送らずにはいられない。
時を同じくして、日本のスポーツメディアにも、外国人に褒められたとか、ロッカーの使い方がキレイとか、そういう「ニッポンすげえ!」的なのまで含め、なでしこジャパンを称える記事がならぶ。
私はそれらを眺めていると、これまでと全く変わらぬメディアの報道姿勢に辟易としてくる。

藤野あおば(ベレーザ)10代の日本代表選手がW杯でゴールしたのは初めて

12年前の栄光


だってそうではないか?
この光景は12年前、もっと大規模に繰り広げられていたのだから。

2011年。なでしこジャパンが女子W杯で優勝という快挙を挙げると、一夜にしてチームは日本中から注目される存在となり、メディアは日々、その一挙手一投足をトップニュースで報じた。
なにしろチームは時の宰相から国民栄誉賞を授与されるほどの存在となり、年の瀬には「なでしこジャパン」が流行語大賞を受賞する。

当時を改めて思い起こすと、もうこれ以上ないくらいに「なでしこジャパン」は世に溢れ、果ては男子の日本代表チームの人気を凌駕してしまうのでは?と思えてくるほど「消費」された。


猶本光(浦和)コスタリカ戦で素晴らしい先制点、そしてMVP獲得

日本女子サッカーの現状

12年後の今、あの優勝騒ぎは何だったのか、全く検証もされないまま、日本の女子サッカー界は厳しい状況に変わらず立ち続けている。

日本サッカー協会(JFA)が把握するところの、女子の登録選手数(※1)は、W杯に優勝した2011年の後、一時的に増加傾向を見せ30,000人を超える。それに乗じたJFAは、女子登録選手数を2023年までに20万人まで増加させるという目標を立てた。しかしながら世の「なでしこ景気」も長くは続かず、2022年の女子登録選手数は27,906人と、ここ数年は2011年以前のレベルにすら達することなく推移している。

2020年には女子サッカーのプロリーグとして「WE.リーグ」が開幕するも、11チームでスタートしたリーグ戦の会場はどこも集客に苦慮し、損益分岐点から逆算し設定されたリーグの観客動員目標「1試合5,000人」を大幅に下回り、初年度は1試合平均の動員数1,715人。コロナウイルスの感染症対策による影響をほぼ受けなかった2年目のシーズンは、初年度よりさらに動員数を減らし、1試合あたりの平均動員数が1400人台まで落ちてしまった。

日本の女子サッカー界に起きたこの2つの事柄からだけでも、12年前にあれだけ大騒ぎし、その代表チームは、国民にとっての栄誉とまでされたのにも関わらず、女子のサッカーが日本社会に与えるインパクトの大きさは、世界女王になる以前とほとんど変わらぬどころか、むしろ後退傾向を見せているのだ。
だからこそ言える。
真冬の南半球で、仮になでしこジャパンが2度目の栄光を勝ち取ったとしても、日本の女子サッカー界の本質的発展には決して繋げられないし、その役割を当たり前のように、選手やチームに担わせるのもナンセンスだ。


宮澤ひなた(仙台)ザンビア戦で2ゴール MVP獲得

世界の女子サッカーの方向性


そんな寂しい女子サッカー事情が日本にある一方で、この2023年に開催されている女子W杯では、今後、世界の女子サッカー文化がどのような方向へ発展していく可能性があるのか、それを示唆するいくつかの大変革があった。

FIFAは女子サッカーに新たなマーケットとしての価値を見出し、施策の上でも今大会に向け大きく舵をきったのだ。
その主たるものが「選手に対する報酬水準の向上と放映権の高額設定」であり、これらの施策は決してFIFAの暴走によるものなどではない。

今大会でも優勝候補とされる米国女子代表チームは、男子代表チームより報酬が低いのは差別に当たるとし、男子と同じ水準の報酬を求めアメリカサッカー連盟を相手に裁判を起こした。これは、世界的なジェンダーレス推進とリンクする取り組みで、実際この裁判はサッカー連盟側が和解金を支払うという形で解決。
欧州に目を移しても、あのカンプ・ノウを満員にしてしまう、スペイン女子サッカーの動員力を生み出しているのは、かの国のジェンダーレス推進に対する国家的な取り組みがあってこそ、とした評もある。
また、2005年から世界経済フォーラム(WEF)が発表している「ジェンダーギャップ指数ランキング」を見てみると、女子W杯の黎明期と言える1990年代より強豪とされてきた北欧の国々はどこも軒並み上位ランク国であり、近年では南米や東南アジアの国々などもランクが上昇し、それが女子W杯参加国の顔ぶれにも確実に表れてきている。

このように、ジェンダーレスという概念が「女性によるスポーツ」の価値を再認識させる上で、欠かせない要素となっていることが、ほぼ間違いないというのが、現時点での私の認識である。
『女子によるサッカーには価値がある!いや、価値を上げていくべきなのだ!』
ざっくりと言えば、FIFAが今回の女子W杯開催に向けた取り組みの中に見られるスタンスであり、同時にグローバルな価値基準においてもトレンドなのだ。
こうしたことからも、女子W杯の放映権料は、今後も確実に高騰してくはずであり、それが示しているものは、世界の女子サッカー文化、さらに言えば、女性のスポーツ文化発展の方向性なのだろう。

「女性がサッカーをしにくい国」


この論点について日本の現状を見てみると、わが国のジェンダーギャップ指数は先進国の中でも最下位レベル。お隣の韓国や中国よりも下位であるのが実情で、同等レベルにあるのは非民主国やイスラム教国ばかり。しかも他の国がジェンダーレスを推進しポイントを挙げていくため、相対的にどんどんランキングを下げている。(2023年は146か国中125位)
要するに日本は、グローバルな視点で見ると「女性だと生きにくい国」であり、米国やスペインや北欧の国々と比べれば、これを以て「女性がサッカーをしにくい国」と解釈してしまっても、飛躍しすぎとは言えぬだろう。

故に

なでしこジャパンが女子W杯で優勝しても、チームは日本中の誰もが知るところになり、国民栄誉賞をもらっても、流行語大賞に選ばれるほど一世を風靡しても、それでも女性でサッカーをする人が増えなかったのは、日本が「女性がサッカーをしにくい国」だったからであると、私はここで結論づけることにする。

2022年のデータ。女子の選手登録者数27,906人に対し、男子のそれは817,375人。桁違いどころか!とも言うべき圧倒的な差。
これがせめて男子の4分の一くらいの規模で、女子のプレイヤーが生まれていればと言うのが、JFAによる「登録選手数20万人目標」だったのだろうが、仮にそれが実現するとして、その時の日本は「女性がサッカーをしにくい国」ではなくなっているだろう。きっと、環境面も、人材面・経済面においても、日本サッカー界全体に与えるインパクトは計り知れない。
そして何よりそこには「女性でも生きやすい」新しい社会の姿があるのだろう。
そう「女子サッカーの発展」はきっと「日本社会の発展」でもある。
あらゆる立場にある人が、活躍を制限されずに、生き生きと充実した日々を送り、それが許容される社会。
それを本気で実現しようとしたとき、日本の女子サッカーは勿論、日本社会を長らく包んできたあらゆる閉塞感も解消されるはずだ。

女子の登録選手数(※1)ここで採用している値は女子チームに所属する女子選手の数を表す。


『フットボールでより多くの人々の生活に彩りを生み出せたら』 と考える、フットボールライター(仮) 2017年、25年続けたフラワーデザイナーの仕事に別れを告げ、日本サッカーの為に生きることを決めてしまったが、果たしてその行く末は!?