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映画『AKIRA』感想

予告編
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PG-12指定


 2020年に、4Kリマスター・IMAX版としてリバイバル上映されていた際に観に行きました。その当時の感想文なので、今の時勢・時節とはズレた内容も含まれていますが、何卒ご容赦をば……。


不朽、伝説、至宝…どれだけ言葉を並べても足りない


 「まさかの……!」という書き出しで始めようかと思っていましたが、よくよく考えてみれば、いつかはこうなる気がしていたんです……いや、“期待していた” の間違いかな笑?

 2020年東京五輪、そして「中止だ!」の声までをまるで予言していたんじゃないかということで、今年改めて話題となった本作には、生半可な「大好き」の気持ちじゃ決して敵わないほどズブズブで生粋の『AKIRA』ファン、或いは大友克洋ファンが居るので、本作で描かれる曖昧模糊とした表現の数々には言及せず、ただひたすらに個人的に好きな部分のみを語っていこうかと。


 まず何より、映画館で、しかもIMAX(おまけに4Kリマスター)で『AKIRA』を観られるだなんて、それだけで最高だよ。「IMAX規格じゃない映像なのに?」と思われる方も居るかもしれませんが、IMAXの個性は映像だけじゃなくて音響も魅力の一つ。とにかく本作は音の魅力が詰まりまくっているから、音の形を感じさせてくれるようなIMAX版で本作の音に浸れたことが嬉しいのです。

 個人的に一番好きなのがセリフ。プレスコ(収録された音声に合わせて映像を作成する手法)だからこそ生み出されるセリフ音声と口元のアニメーションのリップシンクロ、特に母音とのリンク感と、日本のアニメ作品特有(特に一昔前に多かった気がする)のセリフ回しとの相性が抜群。この良さを活字だけで説明するのは骨が折れますけど、例えば、「カネダァァアアッ!」「“さん” を付けろよデコ助野郎ォォオオッ!」のとこ。大袈裟に言えば「クァ・ヌェ・ドゥァァァアアッ!(=カネダァァアアッ!)」のように、感情が昂ってまるで一文字一文字に “こぶし” を効かせているかのような、若く荒々しい喋り方をアニメーションで表現してくれているから母音が際立ち、セリフの格好良さをより一層味わえる。


 音という点で言うならBGMも大好き。登場人物の心情に “寄り添い過ぎない” 感じが印象的。映画音楽は感情の潤滑油としての側面が取り沙汰される印象が強いですけど、僕はむしろ、登場人物の感情の表現・体現はミニマルに収め、作品の世界観やそのシーンの雰囲気を彩ることに特化したBGMの方が好きなんです(無論、どっちも大好きですけども)。鑑賞後の余韻に浸ろうとリピートして聴くのは大概、そういったタイプのサントラ。本作の音楽が醸し出すあやしさ、不気味さは、公開から三十年以上経った今なお色褪せず、新鮮にすら感じてしまいます。


 「特にどこが?」と問われるとこれまた困ってしまいますが、冒頭のバイクでの疾走シーンから既に心を掴まれているのは間違いなさそうです。劇場の音響で味わうエンジンの回転音、走り出したと同時に伸びるテールランプの残光、そしてここで流れ始める打楽器のような導入部分から始まる音楽が、心の早鐘を打つかのように「来た来たーッ!」と興奮させてくれる。整備されたインフラ、スタイリッシュなバイクが際立ちながらも、グループ同士の抗争、鉄パイ プによる殴り合い、奇天烈なネオン等、ハイテクとローテクが混在した不都合な近未来感もまた、作品のセンスを象徴しているようで大好き。近未来感が前面に出ていながらも、どこかの民族楽器や伝統音楽かのような音色やコーラスが違和感を生み出し、このギャップが、本作で描かれる “異次元の何か” ——神?大覚?AKIRA?——を匂わせているのではないか、とすら想像させられるんです。

 ここの一連の映像も、先述の不気味さに負けず劣らず、令和になった現代でも未だに色褪せない。もっと言えば、「ドンッー……!」という鈍く重い音が響いたと同時に映し出される『AKIRA』のタイトルバックも最高のオープニングアクトの一要因。まるで “得体の知れない、けれど恐ろしく強大な何か” をイメージさせているようにすら感じます。

 そんな最高の掴みで始まる本作は先述した通り “音” が魅力的だからこそ、逆説的に “無音” までもが武器になっていたように思います。その瞬間を浮き彫りにしたりするのは普遍的な無音の扱い方の一つですが、もはや無音がテーマ曲のように用いられる瞬間さえある。この寒暖差は観る者全てをドキッとさせてくれこと請け合いです。


 それと、映像表現、特に超能力描写も見どころの一つなのは言わずもがな。個人的に、厨二の王道、或いは頂点と感じている本作の超能力描写——気合や意思のようなもので自身を中心に球体状にエネルギーのような何かが広がったり、衝撃波を起こしたり、重力、圧力をかけたり、他にも予知や第六感のような超感覚等——は、それまでの超能力描写を超え、アニメーションや漫画における超能力の表現を一つ上の次元に押し上げた(と言われているんだとか)。そんな超能力が暴走し始める直前に、旧世代の超能力表現(手をかざしただけでコップが動く)シーンを比較させるかの如く挟み込むことで、文字通り次元を超えた超能力の凄まじさを浮き彫りにしているのも面白い。


 本作のタイトルにもなっている “AKIRA”。それが何なのかは明確には描かれていません。登場人物それぞれが様々な呼称をし、解答と言うにはあまりにも抽象的なまま映画は終わる。その真意が気になるならネットで調べるなり有識者に聞くなりすれば良いんじゃないかな。本項の序盤で、細かいことについて “言及しない” と述べたのは、(有識者の意見ももちろん良いけど)シンプルに映像コンテンツとしても楽しめるから。御託や能書きは嫌われそうだからさ。……今更か。


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