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続けてごらん。いつか伏線が回収されるから。

――結局人生は「伏線を張ること」と「伏線を回収すること」の繰り返しで、そのワンセットを「物語」とするならば、人生は物語だし、物語るために生きていくという結論に至ります。


人生は物語。
どうも横山黎です。

大学生作家として本を書いたり、本を届けたり、本を届けるためにイベントを開催したりしています。

今回は「続けてごらん。いつか伏線が回収されるから。」というテーマで話していこうと思います。


📚9年越しの伏線回収をした「相棒」

僕は小学生の頃からドラマ「相棒」のファンでして、毎年「相棒」だけは欠かさず観ています。中学生以降からは「警視庁捜査一課9係」とか「刑事7人」とか他の警察ドラマにも手を伸ばすようになったので、警察ミステリーにはまったきっかけともいえます。

小学校から帰るとちょうど夕方の4時くらいから「相棒」の再放送が始まります。5年生、6年生の頃からは頻繁に見るようになって、それを機に夜の放送もリアルタイムで観るようになった気がします。

僕が見始めた頃は、ちょうど3代目の相棒の成宮寛貴さん演じる甲斐亨の時期でした。前代の神戸尊の最終回をリアタイした記憶はなく、甲斐亨の初回はリアタイした記憶があるので、シーズン10からシーズン11の間にものすごくはまったんだと思います。

甲斐亨はシーズン11からシーズン13まで相棒だった人で、最後には「ダークナイト」という犯罪者だったことが明かされて終わりました。悪事を働いても罰せられなかった人を罰していく正義の鉄槌を下していたのです。結局、右京さんに見破られて逮捕されます。今もなお服役中の身です。

当時は賛否両論で、いや、正直「問題作」と評する視聴者の方が多かったんじゃないかなと思いますが、とにかく甲斐亨の幕引きにはあまりよくないイメージがついていました。僕も衝撃を受けたし、あの回をきっかけに正義について思案して、自分なりに正義の定義をしたものです。

さて、あれから9年。

なんと、先日放送された元日スペシャルで描かれたのは、甲斐亨の話でした。

甲斐亨の恋人とその子ども、兄、父親が登場したのです。さらに、事件の鍵を握るのは甲斐亨の引き起こしたダークナイト事件でした。再登場はしませんでしたが、過去のシーンが何度か挿入され、古い記憶が呼び起こされたものです。

相棒制作サイドに、というより、ずっと脚本を書いている輿水さんのなかでは相棒の世界はずっとつながっていて、相棒が代わってもひとりひとりその世界で生きているし、必要があれば再登場させる気持ちがあるんですよね。初代相棒の亀山薫が、5代目相棒として14年ぶりに復帰したように。


📚新作『大学』を執筆していて……

僕はそろそそ新作の本を出そうと思っていて、もうすぐ大学卒業だし、集大成のような作品を出版したいと考えていました。そこで今まで書いたものを1冊の本にしようと思い至ったわけです。

その本の名は『我楽多だらけの宝箱』。

せっかくだし新作も収録しようと思い、僕は『大学』という作品を書くことにしました。僕が大学4年で経験してきたことの詰め合わせです。

ひとつの節は本当に短くて、下手すれば二行だったりします。長くても、見開き1ページってところ。自分でもこれは小説なのか詩なのかエッセイなのかよく分かっていませんが、書いていて楽しいし、短いけれど深いことを言っていたりするし、一年生のエピソードが四年生につながっていたりする。そういう伏線回収が少なくないので、「やっぱり人生は物語だなあ」と思うのと同時に、「大学生を続けてきてよかった」と思いました。

続けていなかったら、伏線回収される瞬間に出逢うことはなかったし、この『大学』を書こうとも思いませんでした。続けてきたからこそ語る意味が生まれて、僕にとって残す価値が生まれたのです。


📚いつかは伏線が回収されるから

僕がnoteを毎日投稿する理由もそう。今も変わらず作家の道を追求しているのもそう。もちろん自分が興味あることだしやりたいからやっているけれど、続けることにこそ価値があると思っているから続けています。

結局人生は「伏線を張ること」と「伏線を回収すること」の繰り返しで、そのワンセットを「物語」とするならば、人生は物語だし、物語るために生きていくという結論に至ります。

「自信を持てない今」があるのは、「自信を持つ未来」を迎えるため。

「夢が叶わない今」があるのは、「夢を叶える未来」を迎えるため。

甲斐亨が事件をダークナイトになったのは、今年の元日スペシャルの物語を描くためだし、僕が今の大学に進学したことを間違いだと思っていたのは、この道で正解だったと捉え直すため。今、『大学』を書くためだったんです。

いつかは伏線が回収されるから、とにかく続けてみることって大事だよねという話でした。せっかく紹介したので、『大学』の一部を載せておきます。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

20240103 横山黎


「大学」

       6

 COVID-19の影響で高校の卒業式は簡略化され、大学の入学式は無くなった。コンパもサークル紹介行事も文化祭も合唱祭も消えた。この道は間違えですと言われているようだった。

       7

 ズーム飲み会、リモートワーク、ソーシャルディスタンス。
 それでも抗うように、希望を探すように、僕らは新しい生き方を見つけていった。
 前期の授業が全てオンラインになったから、同じ学科の顔合わせは画面越しで行われた。
 初めまして……から来ました……です……よろしくお願いします……サークルは……まだ決めてません……よろしくお願いします。
 みんな同じ声に聞こえた。

       8

 大学一年の五月から六月にかけて、僕らはまだつながる意志があったから、オンライン交流会と題して学科のみんなとコンタクトを取っていた。何回かやって分かった。集まるのはだいたい同じメンツで、最後までいるのもだいたい同じメンツだった。
「え、これまでさ、何人と付き合った?」
 日付を超えれば暗がりに恋の花が咲く。その花を撫でながら、僕は学んだことがあった。
 こういうときのために、僕はちょうどいい人数の人と付き合ってきたんだと。
 十人でもなく、誰とも付き合っていないでもなく、三人。そのうちひとりは小学生の頃の、友達に毛が生えたような関係だから、実質、二人。
 遊んでいるわけでもなく、固いわけでもないと伝えられる。
 当時の僕らにとって、センター試験の成績と恋愛経験が名刺代わりだった。センターの点数が高ければあいつは頭が良いとされ、付き合ってきた人の数が多ければ恋愛経験が豊富なんだと認識する。
 僕は別に偏差値や恋愛経験値で差別化したいわけではなかったし、変に認識されるくらいだったら「遊んでいるわけでもなく、固いわけでもない」人だと思われた方が良かった。
 僕は元来、人に好かれなくてもいいから、全ての人に嫌われたくなかった。
忘れ物をしたときにそれを卒なく借りられるくらいの関係。
 逆に、それを貸してあげられるくらいの関係。
 それで良かった。
 それが良かった。
 だから、僕はそうと伝えられるほどの人数の人と付き合ってきて良かった。

        9

 オンライン交流会のいいところを挙げる。気になる人をじっと見つめていても誰にも気付かれないことだった。その人の一挙手一投足を眺めていられることだった。

       10

「みんなに聞きたいんだけどさ、みんなのLINE追加しちゃっていい? 一応聞いてからにしようと思って」
 二回目だったか、オンライン交流会のさなか、会話の切れ間でそう質問を投げた彼女がいた。僕は勝手にLINEを追加しても差し支えないものとばかり思っていたから、とても律儀な人がいるものだと思ったものだ。
 その彼女から、オンライン交流会後にLINEが来た。
 他愛もない挨拶のメッセージが送られてきた。夜も遅かったし、そのときはすぐにやりとりは終わったけど、翌朝目覚めたら新規メッセージの通知が来ていた。
――おはよう

       11

 人生初の一人暮らしが始まって時間が経った。今まで洗濯も自炊もろくにしてこなかった。でも、一ヵ月もすれば、いや、二ヶ月くらいもすれば、ちょっとずつ分かってきた。生活を営むとはどういうことかが分かってくる。そのときに初めて、親が子どもの分の生活まで営んでいたことの事の重大さに気付かされる。そしてもっと前から、ひとりで生きていけるような生活の営み方を知っておきたかったと悔しがる。

      12

「この前のオンライン交流会でさ、私、みんなにLINE追加してもいいかって聞いたじゃん? 実はあの後に連絡したのは――」
 僕だけだったらしい。
 電話越しでよかった。隣でそんなことを言われた暁には、彼女の瞳を七秒以上見つめていたかもしれない。

短編集『我楽多だらけの宝箱』内の『大学』より一部抜粋


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