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これまで来た道、これから行く先

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旅がどこまでも続くように。1000字エッセイ。
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#死

秋、大学4年

秋、大学4年

本気で自殺しようと思っていた時期がある。

大学4年の夏が過ぎても、ほんの一社からさえ採用内定通知を受けられず、途方に暮れた末の結論めいたものである。当時の私にとっては、会社からの「不採用通知」は社会からの「不要通知」であった。この国で私という存在を求めている会社が一つもないということは、私の価値を否定されているに等しかった。残り半年足らずで学生の身分からも離れる。いよいよ社会から隔絶され、ただ家

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2つの歌とハロウィンと

2つの歌とハロウィンと

『大きな古時計』と『グリーングリーン』。幼少のみぎりに聴いたこの2曲が、現在まで心の根幹にとどまり続けている。正しくは、この2曲の「私の解釈」が、と書くべきかもしれない。小学校に入るか入らないかの頃にぼんやりと感じていた歌詞の意味が、今でも私の中に強く根付いている。

特に『大きな古時計』の解釈については、幼稚園に通っていた時に級友と口喧嘩にさえなったのを覚えている。私が雑談のつもりで口にした言葉

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『死と死刑』(全3回) 第3回「生きるということ」

『死と死刑』(全3回) 第3回「生きるということ」

「死」を初めて意識したのは、小学3年生のときだった。『ゲゲゲの鬼太郎』を読んだのがきっかけである。それは同時に、死への恐怖が植えつけられた瞬間でもあった。

これは、誰もが成長の段階で抱く不安であるらしい。おそらく、人間として生きる上で重要な心理的転機なのだろう。だからこそ、誰に教わるともなく、ひとを殺してはいけないと悟るし、大切なひとには亡くなってほしくないし、自分自身の命を大切にするようになる

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『死と死刑』(全3回) 第2回「死刑存置を訴える意見」

『死と死刑』(全3回) 第2回「死刑存置を訴える意見」

死刑のない国。きれいな響きである。国家が人権を最大限に守っている印象を強く与える。

本当にそうだろうか。

死刑を問題にするとき、犯罪の類型としてしばしば挙げられるのは殺人罪であるが、最高刑が死刑に当たる罪は他にもある。例えば、強盗強制性交等致死罪(強盗が現場において強制性交に及び、被害者を死に至らしめる罪)も含まれるのである。被害者の立場になってみれば、金品は強奪され、身体を蹂躙され、命を奪わ

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『死と死刑』(全3回) 第1回「死刑廃止を訴える意見」

『死と死刑』(全3回) 第1回「死刑廃止を訴える意見」

日本には、犯した罪の償いとして、その罪の重さに従って以下の刑が用意されている。経済的な負担を求める科料刑と罰金刑。身体の自由を制限する拘留刑・禁固刑・懲役刑。そして生命を奪う死刑である。こうして並べてみると、死刑だけが異質に思えてくる。国家の手によってこの世から存在そのものを消されてしまうのである。

まして、裁判で認められてしまったその罪が、実は冤罪であったらどうだろう。刑を受けるべき真犯人は安

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