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故意に事実を曲げれば「嘘つき」になるが、事実を伏せるだけなら少なくとも嘘をついたわけではない。

オーストラリアの永住権を取得する前は、学生ビザで滞在していた。
ビザが不安定なときには定職につけないから、パートタイムやアルバイトで生活費を稼ぐことになる。

大学で高校の国語の教員資格を得ていた俺は、駐在家庭の帰国子女対象の塾の講師をさせて貰っていた。親の任期終了とともに在豪2,3年で日本に帰国する彼らが帰国後に進学する学校の入学試験に対応する塾である。

俺が受け持っていたのは国語と小論文だった。

「文章を書く」うえで大事なことは色々あるだろうが、自分の言いたいことを相手に伝えるという事に関して俺がいつも言っていたことの一つは、「ヌケ」があると相手に正確に伝わらないよ、ということだった。

相手に理解してもらおうとしているのに、伝えなければならないことが一つでも抜け落ちていては、それが元で相手が誤解してしまう可能性があるよ、ということだ。

手慣れてくれば、わざと事実を伏せて相手の誤解を誘導することもできるだろうことなども併せて説明する。故意に事実を曲げれば「嘘つき」になるが、事実を伏せるだけなら少なくとも嘘をついたわけではない。

前置きが長くなったが、このことを思い出す事件が以前にあった。事件とはいささか大袈裟だが、個人的には事件だった。

個展をさせていただいていたグリーブ地区にあるCafe & Galleryで「Japan Night」というディナーイベントがあった。それは俺の個展のオープニングパーティの代わりみたいな要素もあり、俺も食事を楽しむ皆さんの前で書のパフォーマンスを披露した。

シドニーで無料配布されている女性を対象にした日本語無料月刊誌誌の代表で編集責任者でもある日本人男性が取材に来ていて、イベントの写真を撮影したりしていた。そしてカフェ側の招待ということで彼は俺と同じテーブルで真向いに座っていて、俺は広告のことなんかを質問したりした。つまり両者の間には会話も存在した。

さて翌月のその月刊誌、2010年7月号-----

Japan Nightの記事は掲載されていた(彼は美味いただ飯を食っているのだから掲載はするだろう)。

しかし俺の個展のことは一切書かれていないかった。
俺がパフォーマンスをしたことも書かれていなかった。
名前は出ていなくても、個展や書のパフォーマンスがあったことが書いてあったかというと、それもなかった。

日本語の月刊誌に日本人アーティストの活動の記載がなかったにも関わらず、オージーが尺八のパフォーマンスをしたことなどは紹介されていた。

本当に見事に俺の存在は「無」になっていた。
Japan Nightに俺の存在はなかったのだ。

この記事は嘘を言ってはいない。書かれてあることはいちいち事実である。
しかしまさにその会場で個展が開かれていて、そのアーティストがイベントでパフォーマンスもしたという事実は全くなかったものにしてしまっていた。 読んだ人はそんなことがあったなんてもちろん分からない。

実は前年Japan Foundationで3人展をやったときも、
この情報誌では俺の存在が抹消されていた。3人展なのに2人しか紹介されていなかった。

この編集責任者の悪意でしかないと思うのだが、 ここまであからさまにやるのはよっぽどのことである。普通の記者が普通に見たまま書くんだったら、
メインキャラのひとつをここまで徹底的に排除できまい。

悪口が書かれてたり、事実でないことが書かれていたりしたわけではないから、その方向での損害は俺にはないが気分が悪い。

俺が彼に何かとてつもないことをしでかしたのだろう、と推測はできるが、それが実際に何であったかは分からないから俺にはどうすることもできない。一体俺の何がそんなに気に入らないのか知っている人がいればこっそり教えてほしかった。

というわけで、小論文の授業で「抜け」のテーマをやるんだったら、このネタを使わずにはいられない。まさにお手本中のお手本だ。まあもうその機会はないと思うけれど。

俺なんかのことは小事中の小事ではあるが、マスコミは実際にこういう感じで情報操作をやる。やられた俺が言うのだから間違いはない。

その情報誌はしぶとく今でもシドニーに存在するが、俺は絶対に近づかないようにしている。


※写真は温玉ののったスタミナ丼。チャツウッドのマンダリンセンターのフードコートで。

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