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某所のポスドク手話/言語学研究者。子が1人夫が1人。こちらには長めの文章を書いたものをとりあえず集めておきます。 最近の研究については→https://researchmap.jp/yufuko/

マガジン

  • 日がな一日言語学

    認知言語学者の日常的ことば遊び場的ななにか

  • 丸山正樹/デフ・ヴォイス考察

    2023年12月にNHKドラマ化された丸山正樹(2011)「デフ・ヴォイス」についての考察など

  • 博士の異常に○○な子育て

    とある先輩に、FBに書いていた子供の観察を「博士の異常に冷静な子育て記」といわれたのですが、冷静であるよりは親ばかであるように自身では感じている。 ぼちぼち記録を残していこうと思ってまとめようとしてはいるのだが、そんなに暇じゃないのでありました。

  • ニューメキシコ滞在記 with 1歳児

    砂漠の都市、メキシコ国境のアメリカ、アルバカーキ滞在記。

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最近の記事

情報保障と合理的配慮の関係 その2

前回からの続き。 合理的配慮の義務化という急ピッチな展開 もうこの4月から、合理的配慮はどんな事業者に対しても義務化します。といって、いろいろな発信が行われている。「努力義務」だと「努力はしました〜」で終わるから実効性がないことが問題視されてきたのだ。さらにいうと「過重負担」もやらない理由になるので、問題視されている。 とはいえ、事業者側に立てば、過重負担の記述がなければ、際限なく対応を迫られるという恐怖があるだろう。 そもそも当初から、当事者団体は「努力義務」みたい

    • 情報保障と合理的配慮の関係 その1

      実は、情報保障については、公的な支援として、「意思疎通支援」という制度がありますが、これは生活に必要なものに限られます。病院への通院や、子の学校PTA、役場での手続きなど。これは障害者総合支援法の地域生活支援事業というくくりで行われます。この「意思疎通支援」は「公的派遣」と呼ばれており、自己負担ゼロで派遣してもらえます。 ただし、定期的に学校に通ったり職場に行ったりすることには使えないところが多いです。職場での情報保障は、障害者雇用促進法でまかなわれます。 イベントの主催

      • 「3000万語の格差」

        結構前に買っていたけれども、さらっと見て放置していた本。夏の出張の時にも言及されたので読まなきゃ読まなきゃと思っていて、つい後回しになっていた。とはいえ、必要なのでようやく読んだ。 タイトルの「3000万語の格差」というのは、この人がやった研究ではなく、ハートとリズリーという研究者が、乳幼児期の子どもの家庭に定期的に記録を取りに行ってみて、親が専門職、普通、貧困(ただし定期的に家に行けるくらいには安定している)で、上位と下位で子どもが聞いている語彙数の差が3000万語くらい

        • ギフテッドに対する誤解と理解不足

          先週、ギフテッドに対する支援が失敗しましたという記事が出ていてXでバズっていた。 10歳そこらの子が、高専生レベルだからイノベーションというほどではない できるという意識が高すぎて、ちょっとでもできないとすぐ諦めてしまう みたいな記事に対して、ギフテッドに村でも焼かれたんですか? というコメントがずらり。 どうも一番バズってたのはこれかなあ。 そもそも、ギフテッドというのは、知的能力が年齢平均より”高すぎる“というマイノリティであって、年齢相応からどのくらい離れてい

        情報保障と合理的配慮の関係 その2

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        記事

          デフ・ヴォイス:小説とドラマのテーマの違いについて

          「デフ・ヴォイス」後編は、草彅剛さんが、船越英一郎に見えるシーンが多くて、とてもよかったですね(ただの火サスファンのおばちゃんの言←言うほど見てない)。鬱屈した中年おじさんだと思ってたら、突如探偵になる草彅さん、もっと見たい。美和ちゃんと遊んでるとことのギャップもよかった。原作で訴えたかったろう者の不遇はだいたいカバーされていたし、2.5時間でよくあそこまでまとめたなあというのが正直な感想だ。10歳頃に通訳を拒んでいた時期があるという新しいエピソードは、真実味が増して良かった

          デフ・ヴォイス:小説とドラマのテーマの違いについて

          手話を見ていると聴覚の回路がオフになるような感覚

          先週から界隈が祭りの「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」で本物のろう者がたくさん画面に出てくるドラマをNHKでやっていたのだけれど、制作陣は「衣擦れの音」まで拾ってろう者のいる空気感を伝えようとしているようだ。 しかし、不思議なことに、「よし、それを聞いてやるぞ」と思ってテレビの前に座っていて、音量もいつもより大きくしているはずなのに、それはまったく記憶に残らない。かなり集中して見ていると思うのだが。 制作陣がいう「衣擦れの音」は、手話のシーンを無音ではなく、手話が出す物

          手話を見ていると聴覚の回路がオフになるような感覚

          文化の盗用をしないために—ご都合主義を乗り越えろ

          ドラマ「デフ・ヴォイス」が終わり、祭りのあと。いろいろ思うところはあるが、気を取り直して、「文化の盗用」でなく「社会問題の提起」を選んでくれたNHKドラマ制作陣に感謝したい。そして、手話指導の米内山陽子さん(コーダ)のnoteがとてもよくて。もう何回も読んでいる・ 舞台のひとつとなっている手話通訳学科の社会学の先生としては、ある程度この「文化の盗用」については授業のネタ帳がある(私は社会学者じゃなく言語学者のはずなんだが…) 「当事者による表象」への道については、IGBの

          文化の盗用をしないために—ご都合主義を乗り越えろ

          手話小咄:聴者の手話学習者の私の目と映像メディア

          今年もやってきました、まつーら先生主催のアドベントカレンダー「言語学な人々」2023です。「言語学な」話をどうしようと思いましたが、そういえば昨日の「日本手話は顔めっちゃうごくやつです」みたいな解説は言語学ベースでした(かなりかみ砕いてますが)。興味がある方は是非。 今年は、「言語学な」があっという間に埋まったので、別館(言語学なるひとびと)もあります。 去年もドラマの話を書いているから、ドラマばかり見ていると思われているかも知れませんが、去年のあれ以来、見たドラマと言え

          手話小咄:聴者の手話学習者の私の目と映像メディア

          デフ・ヴォイス(4):愛想のない人ですね?

          今まで、手話が出てくるドラマで「なにこれ」となっていた大衆向け作品には、歴史がある。長い間、聞こえない=孤独=手話 みたいな。手話を孤独のシンボルとしてつかおうとしてきた。 そして、俳優が手話を上手く使っている(ように見える)のを、ファンたちが賞賛する。私の推しは手話も上手。手がセクシーとかなんとか。うーん困った。 そこを越えるための試みを、「デフ・ヴォイス」の制作陣はしているのに、なぜかこのご都合主義にとどまりたいファンはいるようで、「草彅君の手話が下手とか、分断を深め

          デフ・ヴォイス(4):愛想のない人ですね?

          デフ・ヴォイス(3):いじけんぼ荒井とエスノグラフィー準拠のストーリー展開

          去年流行した手話を扱ったドラマのご都合主義が目につく、という話を今年の正月に書いていた。誰のための「障害者の表象」なのか、読み解いていくと「孤独のアイコンとしての手話」と「業界関係者へのアピール」に見えてちょっとなーと。じゃあ「デフ・ヴォイス」はそれとどう違うのよ? というのを書いてみよう。 丸山正樹の謎「デフ・ヴォイス」の原作者の丸山正樹さんは、一体どうしてこんな小説が書けたのだろう? という「謎」からはじめよう。ちなみに彼は、コーダやろう者ではなく、この小説を書いた時点

          デフ・ヴォイス(3):いじけんぼ荒井とエスノグラフィー準拠のストーリー展開

          デフ・ヴォイス:「ただの本物」益岡さんと、荒井の通訳技能を見せる

          12年もの間「鬼が笑う」と思いながらもずっと待ち望んできた「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」がついにドラマ化され、先週12月16日に前編が放送されました。今日12月23日には後編が放映されます。原作本を読むのを強くお勧めしています。一応前編までの情報で書いてみます。 「デフ・ヴォイス」という原作小説は、「ろう文化」の記述に準拠して練り上げられたミステリー小説で、作家・丸山正樹の学究肌なところが発揮されたすごい作品です。この作品がすごいのは、「ろう文化」について書かれてきた

          デフ・ヴォイス:「ただの本物」益岡さんと、荒井の通訳技能を見せる

          ドラマ版デフ・ヴォイス待機中

          ついに1週間後に、10年以上前から待っていたデフ・ヴォイスのドラマが放映される。 私たち、ずーっと待ってたね。2011年の夏にネット立ち読みを読んで、次の日には買って、そして読み終わっている私…… そして、このあたりで、すでに我々、日本手話関係者である岡さん、木村晴美先生とドラマ化の話をしているときた。 そして、確かに人気のある俳優である草薙剛さんが主演で、ろう者や難聴者が当事者の演技で、ドラマ化することになった。前編・後編でNHK(CMなし)で1時間ちょっと×2週連続

          ドラマ版デフ・ヴォイス待機中

          海外出張覚え書き2

          前回の記事(4年前のだ) コロナ後になり、もはや旅の仕方もアップデートがあったので覚え書きをば。 ESTA アメリカ入国に必要な、ビザ不要で入国できる仕組み。ビザを取った人は不要。昔からあるけど、相変わらずオフィシャルのサイト以外の代行業者が蔓延している。だまされないように。オフィシャルアプリがあるので、そっちの方がいいかもしれない。(ただ、入力はPCからのほうが簡単) Visit Japan 帰りの空港チェックイン時に、入国までになんとかしとけといわれ、登録。日本

          海外出張覚え書き2

          手話通訳付きオンライン会議覚え書き

          手話通訳付き対面発表覚え書きが割と好評だったのでオンラインのやつも書いておく。 1. 通訳者を選定前回、通訳の選定が何より大事という元も子もないことを一応最後に書いたけど、オンライン会議の場合、通訳者の環境は通訳者が整えるしかないので、オンライン会議をやり慣れている人にお願いするのがいいです。 オンライン会議? やったことないけど、どうしてもというなら対応しますよ、という人にお願いすると、 画面からはみ出る 音声が聞き取りにくい スポットライトの方法がわからない

          手話通訳付きオンライン会議覚え書き

          誰に何をどこまで

          プレゼンテーションを構成するのが、なんだか最近とみに苦手だと思っている。所属機関に言語学者はほぼいないので、言語学の細かい話はしない。畢竟、政策系の話になる。特に、所属部を移って以降、言語政策っぽい話とか、発達支援の話とかのほうが、「わかりやすい話」になるのだろうと思っている。聞き手が誰かによって話すことが変わる。当然といえば当然だけど、これがかなり難しい。そういうわけで、去年の10月末の日本語学会のシンポジウムでの発表を最近ふいに褒めてもらったのを、暗闇の中の灯として、気合

          誰に何をどこまで

          手話通訳付き対面発表覚え書き

          学会会場の設備の問題が今回はなかったけど、久々の対面会場発表だったので、手話通訳も入るときの流れで自分が気をつけていることを書いておく 待ち合わせ場所と打ち合わせ場所 接続確認 照明調整 ろう者の座る位置と手話通訳の立ち位置 音響調整 通訳打ち合わせ 1.待ち合わせ場所・打ち合わせ場所 行ったことのない会場だと、どこで待ち合わせにするのか、打ち合わせはどこにするのか、で結構迷う。特に季節が暑いとか寒いとかの苛烈な時期だと、外で待ち合わせにしてしまうと、仕事前に

          手話通訳付き対面発表覚え書き