日韓の教科書って何が違うの?~近代史記述から捉える歴史認識~Ⅰ
はじめに
早稲田から日韓の未来をつくる連載企画「ワセミレ」。第1回は、日韓両国の高校で使用されていた「韓国史(한국사)」と「日本史」の教科書を、主に近代史の内容を中心に比較していきます。韓流ブーム真っ只中の今、日本・韓国における自国および周辺国に対する歴史認識の違いについて、少しだけ覗いてみましょう。
①教科書の目次について
比較検討:
このように目次を比較してみると、韓国の教科書における近現代史の割合の多さが目立ちますね。2025年から新しく施行される2022年の教育課程の教科書では、この割合が更に上がるとされています。前近代史(古朝鮮〜朝鮮後期)が占める割合が、全体の6分の1にまで縮小されるのだとか。これに反対する意見を持つ人も韓国国内には多くいます。
このように韓国では歴史の教科書をとりまく、特に政治的な対立が長年続いています。ここでは2015年に起きた国定教科書をとりまく問題についてご紹介しましょう(1)。現在韓国では「検定教科書」が使用されている、つまり複数の研究者が個別に執筆した複数の教科書が刊行されています。しかし中等右派の朴槿恵政権(2015年当時)はこれらの内容が左寄りに偏向しており、近代政府による功績を軽視していると主張し、国定教科書に一本化しようとしました。これに対し、民主主義が損なわれる恐れがあると歴史教科書の国定化に反対する声があがったのです。その結果、国定教科書と検定教科書が混用される形に変更され、2017年5月12日にはムンジェイン大統領(当時)が国定教科書を廃棄することを決定したことで、最終的には検定教科書のみが用いられることになりました。
このように歴史の教科書の内容、なかでも近現代史については韓国国内でも国外でも様々な意見が出されており、とても複雑な問題であると言えます。
②国交樹立の要求
比較検討:
国交樹立に関して、日本の教科書ではそもそも正式の交渉に応じなかった、韓国の教科書では拒否したと書かれている点が異なります。また、韓国の教科書では、日本の教科書にはない「国王を皇上と表現した」という文章が書かれているのが目立ちます。そして、征韓論が日本全体の共通認識であったと解釈し得る書き方がされているのも、韓国の教科書に特徴的です。
③日朝修好条規の締結
比較検討:
同じ事件に対して、日本の教科書では江華島事件、韓国の教科書では雲揚号事件という異なる単語が用いられています。そして、日本の教科書では日本が朝鮮側を挑発したといった事件の流れが注釈部分で簡潔に述べられている一方、韓国の教科書ではより具体的に描かれている点も異なります。
また、韓国の教科書には「朝鮮侵略の足場を築くために」「殺傷を犯した」 などの批判的な表現が登場する点が特徴と言えますね。条約に関しても、日本の教科書では開国させた、韓国の教科書では兵士を動員して開港を強要したという風に異なる表現がされています。
④日朝修好条規の内容
比較検討:
日本の教科書では、日朝修好条規が不平等条約であったとする内容が本文ではなく注釈部分に書かれており、メインの内容として扱われていない点が目立ちます。
条約の内容については、両国の教科書ともに目立った違いは見られませんでした。一方、韓国の教科書には附属条約について言及されている点が日本の教科書と異なり、その締めの一文に「日本の経済侵奪に直面することになった」という批判的な表現が用いられている点も特徴的です。
⑤壬午軍乱
比較検討:
日本の教科書には「親日派勢力が台頭してきた」という背景の説明が行われた後に、日本への接近に反対する動きとして壬午軍乱が起きたと書かれています。一方、韓国の教科書では都市下層民の経済的困窮および旧式軍隊に対する待遇の低さが主な背景として比較的詳細に述べられている点が異なります。
壬午軍乱の内容に関しては、日本や閔氏政権に対する反発が強かったと捉えられる旨の記述がされている点は、日韓で共通していると言えるのではないでしょうか。しかし、日本の教科書では日本公使館が攻撃された事件が壬午軍乱のメインの内容として書かれている一方、韓国の教科書では日本人教官の殺害についても言及されており、その教官が新式軍隊の者であったという点が明記されています。
⑥壬午軍乱後の朝鮮と清国の関係
比較検討:
日本の教科書では、朝鮮が清国に依存を始めたと述べられています。一方、韓国の教科書では条約を強制的に締結させられ、経済・外交など多方面で清に干渉され始めたと書かれており、表現の違いが目立ちます。
また、壬午軍乱後に日本・朝鮮間に締結された済物浦条約について、韓国の教科書では強制的に締結させられたとする点や、条約の具体的な内容について触れられています。しかし、日本の教科書では記述自体が見当たりませんでした。
さいごに
お読みいただきありがとうございました!今回は日朝国交樹立の流れから壬午軍乱前後までの出来事について、日韓両国の教科書がどのように記述しているかを見てきました。
次回は甲申事変前後の出来事から見ていきます。お楽しみに。改めて最後までお読みいただきありがとうございました!
注釈
(1)以下、スティーブン・エバンズ,2015,「韓国が歴史教科書を書き換える理由」,BBCニュース,2015年12月4日(https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35003371](https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35003371)を参照(最終アクセス2023年1月1日)。
備考
【※】は教科書本文ではなく注釈部分に内容が書かれていることを指します。
*は、補足説明のために追加した注釈です。教科書の原文には記載がありません。
半角のカッコ()は原文に記載のもの、全角のカッコ()は原文にはなく、こちらで追加したものを指します。
各サブタイトル等の引用文以外の文章では、便宜上日本の教科書に登場する名称を基準として用いています。
引用・参考文献
笹山晴生ほか10名,2014,『詳説日本史B』山川出版社(2012年検定済).
スティーブン・エバンズ,2015,「韓国が歴史教科書を書き換える理由」,BBCニュース,2015年12月4日,(2023年1月1日,https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35003371).
김기철[キム・ギチョル],2022,「“한국사 시안대로면… 4·3과 여순사건을통일운동으로 미화할수도”」[”韓国史試案通りなら… 4・3と麗順事件を統一運動に美化する恐れも”],조선일보[朝鮮日報],2022年9月1日,(2022年12月30日,https://www.chosun.com/culture-life/culture_general/2022/09/01/36KQBXI7V5AJVM3CNWUAJ7LXCE/).
도면회 외 8인[ド・ミョンフェほか8名],2020,『고등학교 한국사』[高等学校 韓国史],ソウル特別市: 비상교육[ビサン教育](2015年の教育課程).(本記事には拙訳し引用)
이성무[イ・ソンム],1995,『한국민족문화대백과사전』[韓国民族文化大百科事典],「양반(兩班)」,한국학중앙연구원[韓国学中央研究院],(2023年2月1日,http://encykorea.aks.ac.kr/Contents/Item/E0035521).
차문섭[チャ・ムンソプ],1996,『한국민족문화대백과사전』[韓国民族文化大百科事典],「별기군(別技軍)」,한국학중앙연구원[韓国学中央研究院],(2023年1月2日,http://encykorea.aks.ac.kr/Contents/Item/E0023007).
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