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星野 道夫 / 旅をする木

昨年末に東京都写真美術館で開催された星野道夫さんの写真展『悠久の時を旅する』、そしてharuka nakamuraによる『旅をする音楽』── harukaさんのピアノに合わせた、本書『旅をする木』を中心とした星野道夫さんの言葉の朗読。

それまで星野道夫さんと言えば、ヒグマに襲われて亡くなった写真家というイメージしかなく、その写真展も、どちらかというとharukaさん目当てなところもあった。
しかしそこで見た星野さんの写真── 自然や動物たちは力強く、人は温かく優しく写された写真に、心を奪われた。
そして朗読会で読まれる言葉。朗読は本田慶一郎さんという方。穏やかな声で読まれるその一つ一つが、何かを乗り越えた人から放たれる深みを持っていて、harukaさんの即興のピアノと相まって、なんか泣けてしまった。

その言葉たちにもう一度会いたくて、この本を手に取りました。
もちろんその言葉たちにも再会できたけど、それよりも星野さんが綴る話のひとつひとつが面白く、また出てくる人物(インディアン、エスキモー、ブッシュパイロット、などなど)も魅力的で、読んでいて本当に旅をしているような感覚になる、不思議な本でした。時を超えて、距離を超えて、時折Googleマップの航空写真を眺めながら、心はアラスカに。

誰もが旅をする木なんだ。一生の中で、旅をし続けるんだ。大切なことに気づかせてくれた一冊でした。

以下は自分の心に沈殿していった言葉たちを引用します。

寒いことが、人の気持ちを暖めるんだ。離れていることが、人と人とを近づけるんだ。

アラスカに暮らす

結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、かけがえのないその時間である。

ワスレナグサ

人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。きっと、その浅さで、ひとは生きてゆけるのでしょう。

新しい旅

子どもの頃に見た風景がずっと心の中に残ることがある。いつか大人になり、さまざまな人生の岐路に立った時、人の言葉ではなく、いつか見た風景に励まされたり勇気を与えられたりすることがきっとあるような気がする。

ルース氷河

ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。

もうひとつの時間

星野さんの最期。
宿泊している地域にヒグマが出たという情報が入り、周囲がここから離れるように伝えたものの、星野さん自身は「この時期のヒグマが人を襲うことはない」と言って拒否し、その数日後に事故が起こってしまった、と。
これも、もしかしたら星野さんの”旅”の一部だったのかもしれないなと、ふとそんな風に思いました。

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