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「姫」が箸を持てるまでの話

正しく箸が持てるようになった話をします。
※姫はその生い立ちから他力本願とも取れる傾向にあります。クソですいません。



未就学児時代


私はずっとスプーンを愛用していました。
お気に入りの専用スプーンがあったからです。
両親に箸を薦められることもなかったので、特に疑問もなくスプーンを使い続けていました。

多くの家庭では、小学校に上がる前に訓練するなんて知りませんでした。


小学校時代


小学校に上がって初めての給食、いざ実食というところで周りが平然と箸を使っていることに気が付きました。
スプーンを握っているのは私だけ。
何だか恥ずかしくなって、そっと箸に持ち替えました。
初めての箸です。
見様見真似で、問題なく使えました。

それっぽく持てているつもりでした。
実際、よく見ないと気付かない程度の差異です。
しかし、正しく持てる人間がまじまじと観察すれば直ぐにバレてしまうものです。
ただ、私の両親は気付くのに2〜3年かかりました。
私が3年生になる頃に
「箸の持ち方が違うぞ!? 直せ!」
となったのです。
正直、今更感がありました。今までこれで許されてきたのに突然何故? という気持ちです。
どうやって持つのか聞いてみると
「そんなの! 自然と見て覚えるもんだ!!」
と、具体的な方法をサッパリ教えてくれませんでした。
自然と覚えた結果がコレなんですけど……。

何とか持ち方を変えようとしても、今までのが染み付いてしまって、挑戦してみましたがとても持てません。
そもそも正しい持ち方をいまいち理解できていないうえ、具体的なことはいっさい教えてもらえないので、結局、今まで通りの持ち方に落ち着いてしまうのです。
「箸が正しく使えないなんて、俺が恥ずかしいんだぞ!!」
と、父は怒鳴り付けられましたが、私は困るばかりでした。
箸を正しく持てるイメージが全く浮かびません。


高校時代


結局、箸を正しく持てないまま高校に進学してしまいました。
父は諦めたのか、私に箸のことをほとんど言わなくなりました。
たまに、ハッと思い出したかの様に
「箸、直せ!」「俺が恥ずかしいんだぞ!」
と注意してきましたが、それだけです。
口で促すだけで行動で示さない父に、正直、私も うんざりしていました。
この人は本当に教職者なのかと、心の片隅で軽蔑していました。
しかも父は所謂「クチャラー」で口を閉じずに物を咀嚼するので嫌な音はするし、様子が汚いので絶対対面で食事したくない人間でした。
『人の箸の持ち方にケチつけるならクチャラーを直せよ』と内心、毒づいていました。

姉が大学進学で家を出てからのこと。
両親と私と弟の4人で近所の小さな定食屋さんで食事することになりました。
そこで久しぶりに「箸、直せ!」が始まりました。
外食で、周りの目が気になったのでしょう。
お客は私達4人だけでしたが。

私は突然の「箸、直せ!」にイラッと来てしまい
『じゃあ、やってやるよ』という反抗心的なものが湧いたので、見様見真似の「正しい箸」を実践しました。
勿論、上手くいきません。
手指がプルプルと震え、ろくに物が摘めません。
それでも、「正しい箸」を続けました。
今までなら、すぐいつもの持ち方に戻してしまいますが、この日は父に「もういい」と言われても、
負けじと続けました。
すると父は語気を強めて言いました。
「お前、どうかしてるぞ。やめろと言ってるんだ。」
そもそも直せと言ったのは父なのですが、どうかしてるのはどっちなんでしょうね?

結局、箸を正しく持てないまま私は成人してしまいます。


社会人時代、姉と同居期


社会人になって、一時期、姉と2人暮らしをしました。
初めて食卓に着いた夜、私の箸使いをまじまじと見て、姉が穏やかに切出しました。
「お箸、持てるようにしようか。」

姉はその場で正しい箸の持ち方を見せ、どの指を使っているか、何処が力点か、私が知りたかったこと全て教えてくれました。

最初の3日間は、プルプル手指が震えて食事に難儀しましたが、姉は励まし褒めて、ときにアドバイスもくれました。
1週間が経つ頃、使い慣れない筋肉がまだ痛みましたが、ほとんど意識せずに、正しい持ち方で自然と箸を掴めるようになりました。
始めて2週間になる頃、私は完璧に、正しく箸を持てるようになりました。

20年以上、両親は持たせられなかったのに、
姉はたったの2週間で私に箸を持たせたのです。

これが真の教育の力だと、姉も私も感動しました。
私は一生、この感動と感謝の気持ちを忘れません。

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