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(読書感想文)「彼女は頭が悪いから」

姫野カオルコ著「彼女は頭が悪いから」読了。
読後感の悪さに辟易して何度か中断しつつ、読み切った。最後まで読んでよかった。


事実と解釈

本書には、発言や態度の事実と、それを受け取り手が解釈する時のギャップがいくつも描かれる。
そしてそれは、記憶のフィルターによって、さらに自分の都合のいいように書き替えられる。

それはこんなに異なるものかと驚くほどだ。

育ってきた価値観や親の刷り込み、思い込みなども色濃く影響する。

人は見たいようにしか見ない。聞きたいようにしか聞かない。

印象的な一節があった。
友人が夜間の学部に通っている事実を他意なく伝えたシーン。
想像力の欠如…と言ってしまえばそれまでだが、一連のやり取りが、学生の序列意識やプライドにがんじがらめになっえいるようで、その未熟さと経験値の少なさが、自分の過去を思い起こされるようで心がギュッとなった。

性差別と優生思想

世の中には平等なものはない。
生まれた時代、国、都市部か田舎か、家庭、遺伝子、親の財力、コネ、兄弟の有無、体質、能力、顔の造り、スタイル。
変数をあげ始めたらキリがない。

その中で数字や序列がつくものの中で、一時的に秀でたとて、それが人の優劣になるわけではないし、そもそも「努力させてもらえる」環境も含め、環境要素が大きい。

私もコンプレックスはある。でも隣の芝が青く見えている側面もあることは理解している。
幸せな形はなんだろう。
容姿も抜群で才能もあり、世界に出て行ける人財が、心を病んだり、家庭不和があったり、人生を終了させてしまったりというのをここ数年見聞きして考える。

人は大多数の観衆に囲まれて生きるわけではない。
オンラインの見えない相手を意識するのではなく、学歴や会社名やポジションなどの表面的なタグに振り回されることなく、己の生、それ自身が唯一無二のものであること、そして自然の美しさと生きる喜びを感じ、自分の声と手が物理的に届く半径数メートルの中で穏やかで温かい時間を増やすのが、幸せに繋がるのではないか。

三浦教授の言葉

読み進めるのが何度もしんどくなり、このような事件が実際にも起こっていると思うと、嫌悪感と絶望と憤りしか感じないが、最後の三浦教授と話すシーンはよかった。

言葉の力は人を救えるんだ。
私も誰かに少しでも火を灯せる存在でありたいし、投げかける言葉を大切にしたい。

三浦教授の印象的なスピーチを一部抜粋する。

付近には、お茶の水女子大と日本女子大がございます。共学ですと東京大学がございます。はっきり事実を申し上げます。皆さんもよくご存知の事実です。わが水大は付近の大学より偏差値がずっと低い学校です。
この事実をどうかしっかと見据え、この事実に卑屈になることなく、食事の際にテーブルに肘をついたり箸を捩じったりするような、はしたない言動をなさらぬよう、電車内で化粧をするようなだらしない振る舞いをなさらぬよう。慎み深く思いやりのある女性になるのだと、自分に与えられたところで勉学に励むのだと、本日、入学のこの日より、レディを目指してください。

P295

⭐︎⭐︎⭐︎
我が家の子供達は数年後、本格的な受験競争に突入する。
運動会のかけっこでも順位をつけない時代に、初めて熾烈な順位と偏差値をラベリングされる。今そこから距離をおいたとて、10 代 20 代のうちは未熟さ故の様々な序列に強制的に巻き込まれるだろう。

第三者の評価がどんなものであれ、親の私にとって、娘と息子は最愛の存在であることに疑いの余地はない。
自分を大切にしてほしい。そして他者に優しく、思いやりのある子に育って欲しい。

優しさと、魑魅魍魎のこの世を生き抜くしたたかさの両立、
そして成長していく子に親の声がどこまで届くのか。
難易度が高いことは承知のうえだ。
ただ、この世に生み出した責任をもって、しっかりと見守り続け、社会に送り出したい。

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