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弱冠5歳のピーピングトム

幼稚園年長から小学4年まで、習字教室に通っていた。
そのおかげもあってか、「字、すっごく綺麗だね!」と褒められることが多い。地味に嬉しい。

しかし、5年間ずっと真面目にやっていたわけではないのもまた事実。
こと幼稚園児時分においては、皆が書道に励んでいる中、教室の奥にあるお座敷でよく遊んでいた。大声で叫びながら走り回ったり、積まれている座布団を振り回したり、他の人たちによく怒られなかったなと今更になって思う。その節はごめんなさい。


ごめんなさいといえば、もう一つ謝罪すべき事案がある。

この習字教室には、兄や姉も通っていた。また、兄ないし姉の友人やそのきょうだいなど、顔見知りも少なくない。
その中に、兄の友人の姉・ミユキさん(仮名)がいた。ミユキさんは、当時小学6年生くらいだったと思う。5歳にしてみれば、かなりの大人だ。

僕は小さい頃からむっつりスケベの女好きで、しっかり者のお姉さんに魅力を感じていたので、同級生には目もくれずミユキさんに憧れていた。ふん、5歳なんてしょんべんくさいガキんちょじゃないか。時代は12歳の熟女よ。

そんな年上好きの5歳児は、一丁前にある野望を燃やし出した。


「ミユキさんのスカートの中が見たい」


ただの変態である。これが現在(33歳)の発言なら一発でお縄だが、当時5歳だったので大目に見てほしい。

しかし、お姉さんのスカートの中など、そう簡単に見れるものではない。毎回ミユキさんに会えるとは限らないし、ズボンを穿いていたらそこで試合終了である。
恥を忍び、頭を下げて見せてもらうなんてもってのほか。そんなことは僕のプライドが許さない。

小さき変態は頭をフル回転させ、どうにかしてこの野望を叶えようと奮闘した。


某日、いつものように教室にやってきた。どっちが先に来たかは忘れたが、その日はミユキさんも来ていた。
彼女の服装は、白いブラウスに、下はスカートだ。お膳立てはバッチリである。僕は本来の目的である習字もそこそこに、己の任務の遂行に取りかかった。

作戦はこうだ。
この習字教室では、お題の文字を書いた後、先生のところへ行き添削をしてもらうことになっている。添削中は先生の机の前で突っ立っているので、その隙を狙って覗き見ようという魂胆だ。いつの時代も、シンプルイズベストなのである。

問題は、他の生徒に気づかれないようにしなければならないことだ。きょうだいや知り合い、そしてミユキさん本人には絶対に悟られてはならない。もしも見つかった場合、自分で自分の口を封じる覚悟もできている。潔く墨汁を飲んで殉職しよう。


ミユキさんが先生のところへ行った。作戦開始。

誰にも気づかれないよう、教室の隅からほふく前進でターゲットに近づいていく。しかし、他の生徒たちの目をかいくぐることは容易ではない。まるでルパンを探すサーチライトのようだ。

目線の包囲網に手こずっていると、ミユキさんが自席に戻ってしまった。作戦は失敗だ。今すぐ帰還し、体制を立て直さねば。

こうなったらプランBを発動する。名付けて、“一緒に遊んでいる最中どさくさに紛れて覗き見る大作戦”だ。相撲か何かをけしかけ、ミユキさんが倒れた隙を狙う。これならば周囲の目を気にする必要もないし、偶然を装える。我ながら完璧な作戦だ。よし、これで行こう。

今日の課題を終えたミユキさんに近づき、遊んでくれとせがむ。優しいミユキさんは、二つ返事で頷いてくれた。さすが僕の見込んだいい女だよ、あんたは。

そして予定どおり相撲を挑み、僕とミユキさんとが取っ組み合いになった。後は彼女を倒すだけ。

しかし、ここで作戦の欠陥に気づく。相手は女性とはいえ、7歳年上の小学6年生である。5歳児のパワーではとても倒せるはずがない。僕は自分の非力さと浅はかさを同時に痛感した。

こうなったら最終手段。相手ではなく自分が倒れ、その隙を狙うのだ。まさに発想の逆転。逆転裁判が発売される5年以上前から、僕はこの思考をものにしていた。類まれなる才覚に、自分で自分が恐ろしくなる。

全力でミユキさんに立ち向かい、全力で倒れ込んだ。すると、勢い余ってミユキさんも倒れた。彼女が倒れるまでの刹那、僕は深淵スカートの向こう側を垣間見た。


見えた!



作戦は成功した。僕は弱冠5歳にして、スカートの中を覗き見るという激ムズのミッションを成し遂げたのだ。脳内BGMはもちろん『見よ勇者は帰る』が流れている。僕は人知れず自分を褒め称え、満面の笑みで帰路に就いた。


惜しむらくはただ一点。
命がけで拝んだ深淵スカートの向こう側、その光景をまったく思い出せないことだ。


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