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古典で読み解くフットボールの世界【孫武『孫子の兵法』編】ー アンチェロッティの人心掌握術 ー



孫武

【原文】
卒未だ親附(しんぷ)せざるに而もこれを罰すれば則ち服せず。
服さざれば則ち用い難きなり。

卒已に(すでに)親附せるに而も罰行われざれば、則ち用うべからざるなり。
故にこれを合するに文を以てし、これを斉うる(ととのうる)に武を以てする、
是れを必取(ひっしゅ)と謂う。

令(れい)、素より(もとより)信にして、以てその民を教うれば則ち民服す。
令、素より信ならずして、以て其の民を教うれば則ち民服さず。

令の素より信なる者は衆と相得る(あいうる)なり。(行軍編)

【訳】
兵士がまだ自分に親近感を覚えて従っていないのに、懲罰を行えば兵士は心服しない。
兵士が将軍に心服しなければ用いることも難しい。

兵士が既に親近感を覚えてなついているのに、懲罰を全く行わないのであれば、
逆に十分に活用することができない。

だから、軍隊では親しませるために恩義・徳を用い、統制するために刑罰を用いるのだが、これが必勝の軍を生むのである。

法令が普段から公正であれば、人々に命令しても服従するが、法令が公正でなければ、命令しても服従させられない。

法令・命令が普段から公正である者が、兵士の信頼を得られるのである。

【解説】
上官(上司)と兵士(部下)との信頼関係及び規律を作り上げるためには、温情や愛情を施す一方で規律を乱す要因には厳しい態度で臨まなければならない。
いわゆる『アメとムチ』が必要であるが、その前提として部下が上司に対して
親しみ・信頼感を感じていなければならない。
また上司は常日頃から部下に対して公正・謹厳な命令をするように心がける必要がある。


カルロ・アンチェロッティ。
現レアル・マドリーの監督にして、幾多の栄冠を手にしてきたイタリア人の名将です。

カルロ・アンチェロッティ

経歴や人物像については、これまであらゆるメディアで紹介されているので
割愛しますが、この名将を語る上で真っ先にクローズアップされるのが、その圧倒的な包容力を持ったカリスマ性です。

歴代率いてきたチームでは、クリスティアーノ・ロナウドやズラタン・イブラヒモビッチ、ジネディーヌ・ジダン、アンドレイ・シェフチェンコ、パオロ・マルディーニ、ディディエ・ドログバ、セルヒオ・ラモス、フランク・ランパード、チアゴ・シウバ、カリム・ベンゼマなど、挙げきれないくらい大勢のスーパースター達が在籍していましたが、
彼らはこぞってアンチェロッティの誠実で謙虚、そして紳士的な人柄と仕事ぶりに惜しみない称賛を送っています。

強烈な個性と癖を持つスタープレイヤー達とも上手く付き合い、多大なリスペクトを得てきただけでも凄い事ですが、尚且つ欧州5大リーグやチャンピオンズリーグなどの主要タイトルを勝ち取ってきたアンチェロッティは、真のレジェンドであります。

孫子の兵法で言うところの、兵士たちとの信頼関係を築いて組織を円滑にマネージメントする事においては右に出る者がいないアンチェロッティですが、ごく稀に規律を乱す者が現れる事もありました。

その時、アンチェロッティはどう対処したのか?

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