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価値観教育で経営計画書が実践的になる

[要旨]

変圧器メーカーのNISSYOでは、かつては、社長ひとりで経営計画書をつくっていましたが、現在は、より現場に近い幹部の方がつくっているそうです。これは、価値観に関する教育を行っていることからできることですが、社長ひとりでつくるよりも、現場の意見が反映された成果物となっています。

[本文]

今回も、前回に引き続き、NISSYOの社長、久保寛一さんのご著書、「ありえない!町工場-20年で売上10倍! 見学希望者殺到!」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、久保さんは、NISSYOが黒字経営を続けている要因は、数字、方針、期日を明記した経営計画書を作成し、それを全従業員が徹底的に活用しているからと考えているということについて説明しました。これに続いて、久保さんは、経営計画書の原案は幹部社員につくらせているということについて述べておられます。

「当社は、基本的に、社長のトップダウン経営です。トップダウンといっても、社員の自主性にふたをしたり、強制的に働かせたりしているわけではありません。社長の独善・独断で舵取りをしているのではなく、現場の声を最優先した経営改善を図っています。トップダウン経営とは、『責任能力のある者が、その事業に関する決定権を持つ』という意味です。計画書に書かれた目標・方針に対する利益責任は、社長にあります。例えば、コップを割ってしまったときに、『ごめんなさい』と謝罪すれば済むのが社員、責任を負って弁償にあたるのが社長です。

会社が赤字になったとしたら、それは『社長の責任』です。責任能力のない者に、事業に関する決定権はないと、私は考えています。ですから、当社の場合、業務改善の提案は現場が行い、社長の私が提案の可否を承認しています。経営計画書は、2012年の第45期までは、私ひとりでつくっていました。社長と社員の価値観が揃っていなかったのです。その後、社員教育(価値観教育)に力を入れ、社員の考える力が育ってきたため、現在は、幹部にアセスメントを任せています。

教育を受けた組織であれば、社長の方針を実行してきた歴史があるため、幹部は『この会社を成長させるためにはどうしたらいいか』を理解しています。ですので、幹部の意見を反映させた方が、現場に即した方針をつくることが可能です。(中略)そして、幹部が作成した方針の原案を、社長の私が承認し、経営計画書の内容を確定しています」(182ページ)

経営計画書を作成している中小企業が少ない理由のひとつは、それをつくる場合、経営者の方が単独でつくることになるからだと思います。中小企業診断士などが、経営計画書の作成を支援するとしても、土台となる構想は、経営者が考えなければなりません。また、中小企業診断士が、その構想が遂行できるかどうか、外部環境や内部環境と照らし合わせて検証した結果、再度、調整するといった作業が必要になります。

話しを戻すと、久保さんの場合も、当初はご自身だけで経営計画書を作成していたようですが、NISSYOの場合は、部下の方たちに価値観を共有してもらうための教育をしてきたため、幹部の方たちに分担してもらうことが容易になったようです。また、これも久保さんが述べておられますが、幹部の方は現場の事情にも詳しいわけですから、社長単独でつくるよりも、より精緻なものをつくることができるようになるわけです。

そして、もうひとつのポイントは、経営計画書の作成に幹部の方が関わっているとしても、最終的には社長が承認をするという手続きをとることによって、「計画書に書かれた目標・方針に対する利益責任は、社長にある」ことを明らかにしていることです。もし、経営計画書の責任が、それを作成した幹部の方にあるということになれば、責任を回避しようとする心理が働き、作成される計画がアグレッシブなものとならず、計画のための計画というものしか作成されない可能性が高くなるでしょう。

したがって、経営計画書の責任は、作成した人ではなく、それを承認した人、すなわち社長にあるということを明確にすることは欠かせない手続きと言えます。また、このような方法で作成された経営計画書は、作成に関わった人が、社長だけでなく、幹部の方も含まれていることから、社長ひとりで作成されたものよりも、当事者意識が高くなるでしょう。多くの会社では、「目標」や「予算」といいうものがあると思いますが、上席者から一方的に与えられることが多いと思います。

でも、計画そのものの作成に幹部の方が関わっていれば、目標などに対して、より能動的に取り組むことができるようになるでしょう。さらに、幹部の方が経営計画書を作成する作業の中で、より経営者に近い立場で事業展開を考えるようになります。このような経験は、その幹部の方に経営者的な視点を持つことができるようになり、将来、社長の右腕となるような人を育成することにもなるでしょう。すなわち、経営計画書を幹部の方につくってもらうことは、幹部育成のための活動でもあると、私は考えています。

2024/2/25 No.2629

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