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『後工程はお客様』の概念と全体最適

[要旨]

トヨタかんばん方式は、中間在庫を最小化し、無駄な在庫を排除する仕組みですが、そのことは、同時に、バッファーが少なくなり、生産ラインのどこかが停止してしまうと、直ちに、ライン全体に影響してしまいます。したがって、生産に携わる従業員の方たちは、ラインが停止しないよう、常に注力しなければなりません。そして、そのような難易度の高い仕組みを実践できる人材を、経営者の方は育成しなければなりません。


[本文]

今回も、前回に引き続き、慶應義塾大学大学院特任教授の高橋俊介のご著書、「人材マネジメント論-儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント」を読み、私が気づいた部分について述べたいと思います。高橋教授は、製造業の生産ラインの管理については、一見すると、単純なマネジメントしか要らないと考えられがちであるものの、最近は、それが変わりつつあると説明しておられます。「トヨタのかんばん方式は、会社の中間在庫を極限までゼロに近づけることを目指している。しかし、ながら、中間在庫というのは、もともと、意味もなくあったのではない。

ラインの中で誰かが失敗したり、どこかで呼称が起こったりしても、中間在庫というバッファー(緩衝材)があれば、直ちに全体に影響が及ぶようなことは避けられる。つまり、ピラミッド組織の分業体制を徹底し、イレギュラー時でも他の部門の状況に関係なく仕事を進めるためのものだったのだ。トヨタは、この中間在庫をなくそうと考えたが、そうすると、失敗や故障が起こった場合、今度は、それがあっという間に、全社の生産に影響してしまう。

そうなると、是が非でも、失敗や故障を回避しなければならないが、それを達成するためには、ラインの一人ひとりが、自分の仕事に集中することに加え、ほかの人の仕事にも気を配らなければならなくなってくる。それが、『後工程はお客様』という概念につながるのだが、この概念は、見方を逆にすれば、前工程の人の品質管理を、後工程の人が行うことを意味している。さらにここからは、自分の前の作業者のところで問題が起こりそうだと判断したら、駆けつけて積極的に手伝うという発想も生まれてくる」(77ページ)

トヨタかんばん方式は、無駄な在庫がなくなる仕組みである一方で、高橋教授も指摘しておられるとおり、バッファーが少なくなる分、操業停止になるリスクも高くなる手法です。したがって、かんばん方式を導入するためには、ラインで働く人たちも、目の前の作業だけに注力すればよいのではなく、常に会社全体の工程が順調に進むよう、注意していなければならないということになります。

これは、部分最適の考え方ではなく、全体最適の考え方を持たなければならないという、基本的な考え方ですね。そして、製造業におけるむだの排除の実践は、単に、仕組を採り入れさえすればよいのではなく、難易度の高い手法の導入でもあるわけですから、それなりの人材教育も必要になるということです。この点については、経営者の方たちに見落とされがちではないかと、私は感じています。

2022/10/3 No.2119

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