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春からデザインを学ぶすべての人へ

4月から美術大学や専門学校、あるいはデザイン科の高校や高専などに進学する人、おめでとうございます。
また、4月から職業訓練校や社会人講座などを通じて、あるいは書籍や動画などを見ながら、自分もデザインを学んでみよう、キャリアチェンジ、リスキリングをしようと思われている社会人のみなさんも。
ようこそデザインの学びの世界へ。

私は東京造形大学という美術・デザイン系の大学の教員をやっていますが、デザインを学び始める全ての人への祝辞として、10個のアドバイスを送りたいと思います。

1.模倣を恐れない
「模倣(=パクり)を認めるなんてそれでもクリエイターか!」とお叱りをいただくかもしれませんが、学ぶことは先達を真似ることから始まると思います。個性を大事に、世間に染まることを恐れて、自分だけの世界に閉じこもる人がいますが、それだけでは自分の世界は広がりません。まずは世間で評価されているものがどういう構造でできているか観察してみましょう。そして、自分も同じものができるか真似をしてみましょう。なんなら全く同じものを作ってみようと一度、実験してみてください。真似しきれず残ってしまったもの。もしかするとそれがあなたの将来の個性のきざしかもしれません。ただし学生であっても、SNSなどを通じて発表するとき、模倣したものや他の人の著作物を含む作品を、自分の作品と称して紹介することは許されません。社会に入ってから仕事で人のデザインをそのまま無断で真似することも、当たり前ですが許されません。だからこそ学生の間に、学校や課題など、あなたの中だけで閉じているうちに、特に学びはじめは真似して擬似的な経験を積んでください。たくさん真似れば真似るほど、吸収した情報はあなたの個性として抽象化され、いずれはパクりから遠ざかっていきます。

2.著作権を知ろう
著作権は、あなたの作品から得られる財産と、作り手としてのあなたの心の、2つの大切なものを守ってくれます。前者を「著作権(著作財産権)」といい、後者を「著作者人格権」といいます。とくにあなたがものづくりをずっと続けていくためには、創作者としてのあなたの心を守ることを何より大切にしてください。著作者人格権は他の人に譲ることのできない、著作者が必ず持つ権利で、自分の作品を勝手に変えられたりすることは許されず、また自分が生み出したものは「わたしがつくった」と遠慮なく主張して良いのです。また著作権を学ぶことで、自分だけでなく、他の人の創作への権利も大切に思うことができます。著作権はプロの作家だけに与えられるものではなく、独創的な表現を生み出したのなら、あなたが学生だろうが小さい子供だろうが、発生し保護されるものなのです。

3.本と仲良くなろう
デザインはいろんな世界を一つのカタチとしてつなげていく仕事です。だからこそ、どんな学びも経験も、横道も回り道も無駄にはなりません。だからいろんなジャンルのことを広く学び、教養の幅を広げておくことは、良いデザインを生むために必須のことだと思います。大学では一般教養(人間形成科目)というかたちで、人としての幅を広げてくれる科目がたくさん用意されています。しかし授業で提供されている内容だけでなく、図書館や書店にいけば、さまざまなジャンルの良質な本が用意されています。おすすめとして「新書」と呼ばれる初学者のためにかかれたジャンルの本を手にとってみましょう。心理学、生物学、政治経済、言語学、哲学、語学、医学…、なんでも構いません。その道の権威が初めて学ぶ人のために、なるべくわかりやすく書いた本です。そんなすごい先生の話を聞く機会を、書籍をつうじればずっとたやすく、ずっと安い価格で手に入れることができます。貪欲に知識の栄養をつけていきましょう。

4.街から教えてもらおう
街を歩けば「誰かによってデザインされたもの」が溢れています。むしろ、デザインされていない人工物を探すほうがよほど難しいでしょう。優れたデザインをまとめて紹介する書籍はたくさん売られていますが、街を歩いて自分が気になるデザインを収集していくことは、本やネットを見るより、ずっとワクワクする体験です。美術館やギャラリー、映画館や博物館に足を運べば、無料で持ち帰ることのできるチラシがたくさんラックに入っています。それらを観察したり、自分だったらどういうデザインにするかな? と考えてみます。僕はそういった街のものからたくさんのデザインの勉強をさせてもらいました。

5.デザイン以外からも学ぼう
あなたの作ったデザインが届く先の多くは、一般の人、デザインの世界に身を浸している人ではないでしょう。またあなたも表現者であると同時に、日々を普通にすごす日常生活者のはずです。朝起きてご飯をつくる、友達と会話する、散歩する、本を読む、ゲームで遊ぶ、音楽を聴く、布団に入る。すべての暮らしの手続きにデザインは関わっていて、そこからたくさんのデザインの本質を見つけられるはず。例えば、暮らしの中で不便なことや、もっとこうなったらいいなあ、素敵だなあ、と思うことはありませんか。今日より明日を工夫して少しずつ良くしていく、その思いはすべて創造性の種になっていくのです。

6.偶然性を味方につけよう
コンピュータの性能や、ネットワークやアルゴリズムの発達は、どんどん世界を、制御しやすく精度の高い情報の集まりにつくりあげていくかもしれません。以前は欲しいものを探しに実店舗に行っても無く、からぶりに終わり、代わりの別の品に出会うという体験がありましたが、ネットショッピングにおいては、欲しいものがお店にないという状況もなくなり、さらに自分がぴったり好むものをどんどん的確にサジェスト(提案)されるようになりました。デジタル技術を身につければ思い描いたイメージを自由に操作することができます。しかし制御しきれないことや、偶然のできごとは、ときに素晴らしい発想を授けてくれます。確度や精度、制御性能があがると、セレンディピティ(偶然の産物)の量が減ります。例えば、あえて不自由な状況に身を置いてみる、いつもと違う道を歩く、ときに自然いっぱいの中に包まれてみる。そういった行動はあなたに偶然の出会いを取り戻してくれるかもしれません。

7.PCの先を意識しよう
デザインの作業、みなさんもご存知のように、大半の時間はパソコン(MacやWindows PC)を使って行います。最近はタブレットPCでの作業も増えてきているかもしれません。しかし実際に完成させるものは、ポスター、チラシ、パッケージなど、紙にインクで印刷されるものも多いと思います。パソコンの画面の中だけでずっと操作をしていると、その先の実物をデザインしているんだという意識から、少し遠ざかってしまうときがあります。そんなときは途中段階でプリントアウトしてみたり、ダミー(試作品)を手を動かしてつくってみたりと、身体感覚や実寸感覚を取り戻す作業をはさむことが大切です。デザインはPCだけでは完結しません。RGB、画面媒体のデザインでさえそうです。もっとその先を考えると、あなたが本当に作っているのは、デザインから生まれる人のコミュニケーションや体験だからです。

8.複数の技術をもとう
これからの時代は、さまざまな媒体を複合的に編んで、表現やコミュニケーションを作り出すことを強く求められると思います。グラフィックデザインだと、Photoshop、Illustrator、InDesignというAdobe3種の神器があれば、仕事ができるといわれた時代は終わりを迎えつつあります。例えばUIやWEBのFigma、3DのBlender、ゲームエンジンのUnity、動画のAfter EffectsやPremiere、音楽のLogicなど。そこにはプログラムを書く技術や、AIにプロンプトを打つ技術、3Dプリンタの操作なんかも含まれるかもしれません。全部について器用になる必要はなく、まずは何かプラスでひとつ。これからはみんなが同じ綺麗な丸ではなく、基本技術に何かをプラスする、いびつな形の技術セットが、個性につながってくると思います。

9.仲間をつくろう
デザインはたった一人で作れるものではありません。デザイン学科で学んでいく場合も本当はそうであってほしいと思います。もちろん科目や課題、先生の指導方法によって変わってきますが、多くの演習課題において、あなたが最終的に担うべき大切なところは「ディレクター」や「デザイナー」の部分だと思います。友達とコラボレーションして何かを作るということを経験したり、誰かに発注・ディレクションしてみるという行為も面白いのではないでしょうか。そのときに大切なのは、あなたが誰かからもらった借りは必ず返すということです。テイカー的な姿勢では仲間は減っていくでしょう。一番良い姿勢は、あなたからまず相手に価値を提供するということです。相手を承認し、尊敬し、価値を与えることでどんどん良い仲間とつながりを増やしていきましょう。経済的な利害関係が全くなしで繋がれる友人ができる機会はとても貴重です。あなたが学生のあいだ、実はタイムリミットはあとわずかかもしれません。

10.楽しもう
何より、デザインを学ぶことを楽しんでください。

あなたがこれから学ぶことに「デザイン」を選んだこと。とても素晴らしいことだと思います。
「デザイン」は世界を見渡し、関係性をつなぎ、人を幸せにできるとても素晴らしい行為・仕事だと思います。
学ぶことを楽しみ、誇りに思い、一生懸命手や頭を動かしてください。
デザインは良いものをつくれば評価される、とても公平な世界だと思います。
また、デザインは人を幸せにするいっぽうで、人をだましたり傷つけたりすることもできる、強く恐ろしい武器だとも思います。

だからどうか心を大事に、健やかに学んでください。
あなたが健やかにデザインを学ぶことで、未来の世界はきっと良くなります。
そして愛情こめてつくったものの数だけ、あなたも素敵な人にどんどん育っていきます。

あらためて、学び始め、おめでとうございます。
デザインを学ぶ、すべての人にこころからエールを送りたいと思います。


よければこちらの本(拙著)も、あなたの学生生活のお友達にしてあげてください

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