官僚制と公文書_Fotor

中立機関による公文書管理の徹底を〜『官僚制と公文書』

◆新藤宗幸著『官僚制と公文書 改竄、捏造、忖度の背景』
出版社:筑摩書房
発売時期:2019年5月

公文書の改竄や捏造、隠蔽など官僚が関与した不法・不正行為が目立つようになってきました。かつては出来の悪い政治家を優秀な官僚たちがカバーし「官僚内閣制」とまで言われたこともあったのに、官僚の世界は一体どうなってしまったのか。そのような疑問を国民の多くは感じ始めているのではないでしょうか。その意味ではまことにタイムリーな本です。

昨今顕在化している官僚たちの破廉恥な行為は、何よりも安倍政権の強権政治がもたらしたものと考えて政権批判に傾きがちですが、それだけでなく官僚制の構造そのものにも目を向けている点に本書の特長を見出すことができるでしょう。

……行政機構を構成する行政組織にひとまず視点を限定するならば、そこには戦後憲法体制=民主主義政治体制とは調和しえない組織要因が、当初より内在しているのではないだろうか。(p34)

新藤は具体的に二つの問題を挙げています。キャリア組とノンキャリア組に分ける「入口選別」といわれる職員採用方式と、官僚制組織における職位の責任と権限が不明確であることです。「それらは、昨今の政権と官僚制組織の不可解な関係にも、色濃く反映されているといってよいだろう」。

こうした点を踏まえて「『官僚制の劣化』とは、現象的にはそのとおりだとしても、官僚制の構造に歴史的に胚胎してきた欠陥が噴出したもの」と捉えるのです。

もちろん、現在進行中の安倍政権による「政治主導」ならぬ「政権主導」に対しても批判的に吟味しています。

政権のいう政治主導は、伝統的な各省官僚機構の分立体制を克服すべく、内閣の政治指導を確立するものと説明されます。内閣官房・内閣府の権限・組織の拡大や内閣人事部の設置はその具現化です。しかしそうした体制は官邸の意を忖度する「官邸官僚」、それに「面従腹背」する官僚、官僚制幹部の指示に苦悩しつつも従わざるをえない職員といった、幾重もの「亀裂」を生み出したのではないか、と新藤はいいます。
「内閣官房・内閣府の権限と機能の拡大は、組織としての官僚制の劣化を招いてはいないか」との認識はひとり新藤だけのものではないと思われます。

また安倍政権下では、2013年12月に特定秘密保護法が制定されました。公文書管理法の施行から2年後のことです。「これは、緒についたばかりの公文書管理に重大かつ否定的な影響をもたらすものといってよい」。
その両者は法のコンセプトからして真っ向から対立するものです。特定秘密保護法の問題点は今さらここに列挙するまでもないでしょう。

いかにして「政権主導」の暴走を正し「政治主導」の政治的正当性を実現するか。それは現代日本政治の喫緊の課題だという認識を示した後、最終章では官僚制の改正案が具体的に提示されます。

内閣官房と役割が重複している内閣府の廃止、内閣人事局の機能を限定した首相府(内閣官房を継承するもの)の再編などを提案しているのは良いのですが、中央行政組織の編成に関して、国会制定法ではなく執政部の権限にせよとの主張には賛否両論ありそうです。前段で安倍政権の暴走を検証した後だけにいささか違和感をおぼえなくもありません。

前半で真っ向から疑問視した官僚の入口選別については廃止して選抜試験の一本化を主張しているのは当然のこと。
職位の責任・権限規定の不明確さについても、きちんと法律で定めることを提唱しています。「職階制の全面的導入に改めて舵を切らなくとも、組織の長の権限と責任を明示することはできよう」と述べ、「所掌事務規程と行政作用法の関係について精査したうえで、所掌事務の実施権限と責任が組織単位の長にあることを法的に明確にすれば済むこと」と確言しています。

本書の文脈で重要な公文書管理に関してはどうでしょうか。

「官僚機構が日々作成している公文書の管理システムの改革が果敢に実行されるべき」なのはいうまでもないでしょう。
公文書について包括的に網をかけたうえで、各省の公文書管理に監督権限をもつ内閣から相対的に独立した行政機関の設置を謳うことには異論はありません。具体的なアイデアとして、立憲民主党など野党四党一会派が2018年に衆議院に提出した法案に明記されている「公文書記録管理院」を評価しているのが目を引きます。それは組織形態としては人事院をモデルとした、政権からの高度の独立性を保障するものです。
さらに「情報公開法・公文書管理法の精神と真逆」の特定秘密保護法の廃止をはっきりと主張している点も特筆すべきでしょう。

良くも悪しくも研究者らしい手堅い記述で、官僚制と公文書管理の問題を再検討するうえでは格好のテキストといえそうです。

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