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おやじパンクス、恋をする。#223

 やがて佐島さんが立ち上がり、嵯峨野のそばまで行って何かを話すと、嵯峨野は頷いて手に持ったスマホの画面を見せて、佐島さんが頷く。

 佐島さんはそのまま、トイレにでも行くのか、例のボディガードを連れてフロアに降りてきた。

 酔ってるんだろう、その足取りは既に怪しくて、ときどきボディガードが手を貸している。

 フロアの客の何人か、それも茶色い髪をしたチャラ男とかが、佐島さんに「ちーす」みたいな感じで挨拶をして、佐島さんもにこやかに応える、そういう場面が何度も見られた。

 事情はよく分からねえが、佐島さんがこのビジネスに嫌々参加してる感じはしねえ。むしろ、酒のせいなのか分からねえけども、佐島さんは上機嫌だ。

「いい気なもんだな、おっさん」いつの間にかそばにいたカズが言った。「梶さん、天国で泣いてんじゃねえの」

 カズの後ろからタカが近づいてきて、「なあ、どうすんだよこれから」言って俺の前に立った。おいコラ、ぬりかべみてえなてめえが目の前に立ったら、何にも見えねえだろうが。

 俺はそのぬりかべの肩を掴んで、ぐいと横に寄せた。佐島さんとボディガードがエントランスへと続く通路に入っていくところで――あれ? 

 スモークでけぶったフロアの中から、ニットキャップを被った男が一人、すっとその後を追っていくのが見えた。

「お、おい、ちょっと待て」

 俺は何かピンときてその後を追いかけようとした。

 タカのカッチカチの身体を力いっぱい脇にどけ、踊る客達をかき分けてエントランスへと向かっていく。

 途中、客の肩にぶつかったり足を踏んだり、手に持った酒をこぼしたりしたが知るかそんなもん。

 俺は嫌な予感を感じながらグイグイと進んでいく。後ろでガキの舌打ちや怒鳴り声が聞こえるが、そんなものにかまってる暇はねえ。

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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