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原発ってどうなん?持論をおりこんで原発問題を考える

 福島第一原発事故から21年3月で10年、世間でいろいろ言われている原子力、原発問題とはどんなものなのでしょうか。原発ってなんだかよくわからない、という方に読んでいただければと思います。私が知っている範囲で、できるかぎりわかりやすく書いたつもりです。ただし私見が大いに入っていますがあしからず。
原発といえば、意見の分かれる問題だけに普段のプライベートでは話題にしにくいテーマではあるのですが、私が興味のある分野なので、あえて書いてみました。ちなみに専門家ではありません。ご承知おきください。
さて、結論から先に言うと、原発はいろいろ課題をかかえているが現時点の日本ではベストではないがベターな選択だと考えており、今後も稼働を続けるべきと考えています。 


なぜか嫌われる「原発」

どんなモノやサービスでも世の中の3割ものシェアをとったら、だいたいは世間的に大多数に支持されるものだと言われています。しかし原発は例外で、長らくベース電源としておよそ3割の電力が原子力発電でまかなわれており、間違いなく多くの人々の生活や経済を支えているのにもかかわらず、東日本大震災での事故が起こる前ですら、理解されているとは言い難い状況です。
この大事故以前でも原発関連のニュースはたびたび目にしていました。細かい例にはなりますが、だいたい不具合(トラブル)が起こったという内容が多いように思えます。ここでたとえば原子力発電と同じように複雑なシステムを構成しているプラントである火力発電は不具合が起こったニュースはあまり目にしません。火力発電だろうが原子力だろうが不具合はある程度おきるものと考えられます。必要以上にニュースにされて叩かれているような印象です。
さすがに、2011年の福島第一原発事故のような大事故を起こせば非難されるのは当然なのかもしれません。福島第一原発事故以降は、世論が大きく変わり、脱原発、反原発の声が大きくなっていました。また、事故を教訓に原子力規制委員会による基準も新しくなり規制が強化されています。

反原発ってちょっと変?

ところで、「反原発」というのは、”原発”そのものに反対ということです。福島第一原発事故を起こした東京電力が「津波対策をとってこなかった!(東北電力の女川原発はしっかりしてたのに)」などと特定の組織や事象について非難されるのとは異なります。また、昔の例で恐縮ですが、2005年にJR西日本は福知山線事故を起こしました。そのときは当然JR西日本はたいへん非難されました。ただそこで、もう全ての電車止めよう、電車乗るのやめよう、なんて議論にはなりませんでした。「原発」という技術そのものに反対する「反原発」というのは、主張している内容は一旦さておき、ちょっと特殊な現象ということを頭の片隅においてはどうでしょうか。ほかの科学技術の場合なら、もし問題があれば個別の問題ごとに対策はどうすればよいのか議論されるのが普通でしょう。
 一方、「脱原発」ならまだわかります。「脱クルマ社会」「脱化石燃料」などと他でも言います。”脱”は、何かのメリットが少ないから、代替のものに順次に変えていきましょう、ということです。

原子力は国策・民営 

話が変わりますが、日本では原子力政策は、国策だけど民営というねじれがあります。政府は主にエネルギーの安全供給の観点から、原子力政策をすすめていますが、発電所や関連施設の運用や送電は電力会社が行っており、電気料金でまかなわれています。
少し脇にそれますが、六ケ所村の再処理施設でも電力会社が共同出資した日本原燃(株)が運営しており、民営です。ちなみに、かつての高速増殖炉もんじゅや東海再処理施設は研究施設という位置づけから、民営ではなく文部科学省が管轄で税金でまかなわれていました。
ちょっと変わった状態であるということだけ頭に入れていただければと思います。

原子力は優れている?

 原子力発電は優れているかというと、私は決して優れているとは思いません。理由のひとつは、稼働終了後の放射能汚染された設備の廃炉処理に膨大な費用と年月がかかるからです。そして、原発での大きな懸案事項としては、高レベル放射性廃棄物の処理のめどがたっていないこと、最終処分場の場所が決まっていないことがあげられます。要するに発電が終わった後のことが面倒すぎます。
 また、技術的な観点で、運用上もベース電源として安定供給こそできますが、急な出力変動には対応する(負荷追従運転)には火力、水力のほうが有利です。
 コストについては、発電コストは安いです。しかし、建設費は同じ出力でも火力発電所の(規制強化前でも)約2倍です。廃炉処理に莫大な費用がかかりますが、本格的な廃炉はまだ実績がないので、実際いくらかは未知数の部分もあります。また、福島第一原発のように事故を起こしてしまうと廃炉費用は天文学的に膨れ上がります。
経済産業省のサイトを見ると(当然かもしれませんが)上記もろもろ追加費用を考慮しても経済的とのことです。ただ、これからのことで、諸説あるので、原子力の経済性については少し疑問が残ります。
それに加えて、世間の評判やイメージが悪いです。
政策の影響を一旦おいてみて、電力会社が仮に市場原理の働くマーケットで競争するような純粋な民間会社視点で見たら、原子力をやるメリットはないだろうと私は考えます。それにもかかわらず、原子力発電が現状稼働しているのは、後述するエネルギーの安全保障に有利という大きなメリットがあり、国策によるものだと考えます。

反原発派とはどんな人たちか

次に、原子力の特に賛成派と反対派についての歴史的な事情については、たいへん詳しくて面白いブログ↓を見つけましたので紹介します。中には検証のしようがないものもありますが、なるほどなあと思わせてくれます。
http://blogs.bizmakoto.jp/kaimai_mizuhiro/entry/4790.html
その中でも、(学生運動の時期には生まれてないですが)学生運動をしていた人たちがが反原発運動をしているというのは納得がいきました。
 特にかつての反原発派は、全否定だったとのことです。全否定に対抗するには、”推進派”と呼ばれる人たちが全肯定するしかありませんでした。そのため安全神話が作り上げられ、原発を推しまくるしかなくなってしまいました。反対に対して、「絶対安全だ」という全肯定で推進するしかないから、「もし事故が起こったら」という事故時の対策すら議論ができなかったということです。もし事故が起こった場合に…なんて言おうもんなら、「やはり危険なのだな!いますぐ原発を止めよ!」と大騒ぎされるからです。
個々の問題や課題について議論をするのが健全といえるもので、反対するにしても「○○の危険性がありますね。ここをいつまでに改善してください/改善されるまでは許可できません。」といったような建設的な議論をすれば、課題が前に進みます。
「反原発」「脱原発」を訴えるなら代案を提案したり議論するべきではないのかと思います。
ただ、時代の流れとともに過激な動きはなくなってきているような印象はあります。

エネルギーの安定供給

 さて、原子力は危険が伴う、放射性廃棄物の問題がある、というのは確かにそのとおりでしょう。では原子力のかわりをすべて火力発電でまかなうとどうなるか。実はそれなりにリスクがあり、原子力をやるメリットがあるからやっています。原子力をやめて火力で代替したとするときの一番のリスクは、エネルギーの安定供給の問題です。
「シーレーン」というワードをご存じでしょうか。日本は火力発電の燃料である石油、石炭、LNGを海外から船で輸送しています。例えば石油の場合は、多くが中東から日本まで輸送します。このとき通るルート(海上交通路)はシーレーンといいい、マラッカ海峡を通って、フィリピンの西を通り、台湾の東を通って、というように実際に線を描くと、ごく幅の狭い範囲のルートを通っています。
そして、もしそこに軍事衝突が発生すれば、つまりはシーレーンを”通せんぼ”のようにされたらどうなるかということです。供給が途絶えるまでいかなくてもルートを迂回するだけでコストが高くなり、とたんにエネルギーの料金が高騰し、さらには経済が大混乱してしまいます。
そこで、石油などの燃料の輸入にもしものことがあっても、約半年は持ちこたえられるよう、全国各地に石油備蓄基地があります。半年のうちに運転停止していた原子力発電所を点検を経て稼働にこぎつけることができます。また、原子力は一度燃料を装荷すると一年以上燃料補給をする必要がなく運転でき、備蓄性が高いことが火力と比較したメリットでもあります。
大震災の後、原子力が止まって「ほら、原発なくても火力でまかないきれる」という主張があったと思いますが、問題ないようにみえて大きなリスクがあります。
 火力だけがだめなら、水力含めた再生可能エネルギー(再エネ)があるという考えがあるかもしれません。代替が実現できるならそうです。ですが、水力は日本の国土では開発されつくしてきたと言われています。なのでこれ以上増やすことはなかなか見込めません。
そして風力、太陽光といった再生可能エネルギーは、年々シェアが増えていっているのでこれからも増加していくのだと思います。しかし、例えば風力は日本ではドイツなどの欧州にくらべて少ないですが、欧州は偏西風が常に吹くという有利な条件があるようです。このように自然による制約もあります。
また、水力以外の再エネは運用面で発電する電力が不安定で、次にも述べますが、安定供給をするための制御が容易でないという点が、コスト以外の普及の妨げの一つとなっています。

安定供給の技術

 安定供給に関して、もう少し詳しく補足します。電力会社の電力は、電圧、周波数、位相を複数の発電所から供給される電力でもぴったりに合わせないといけません。消費電力=供給電力でないと電圧や周波数が不安定になってしまいます。おまけに位相(波形のタイミング)をあわせる必要があります。つまり、電力の安定供給のためには需要にあわせた制御をしないといけないということです。電力会社は技術的に意外と難しいことをやってのけているという印象を持てるのではないかと思います。
さて、供給量が自然まかせという再エネは扱いが容易ではないのです。再エネは供給量が自然まかせの上で、全体的に需要に合わせて制御しなければなりません。再エネはひらたく言うと技術的に扱いが厄介なのです。再エネは量的な余裕がないとまだまだ心もとないといえます。

フロントエンドとバックエンド

こんどは原子力の核燃料が生まれて処理されるフローやサイクルの視点で考えてみます。
核燃料の処理には、フロントエンドとバックエンドに大きく分けることができます。フロントエンドとは、原料のウラン鉱石から核燃料として加工され原子力発電所で発電に利用されるまでです。バックエンドとは、発電に利用後、使用済み核燃料の処分や、場合によっては再利用のことをいいます。米国では、フロントエンドとバックエンドを分けて考えるということも記事でみたことがあります。
バックエンドについて、米国では核不拡散のため、再処理をしない直接処分(ワンススルー方式)をとる予定です(ただし最終処分地であるユッカマウンテン計画は凍結中で現在様々な代替案が模索されています)。日本は、資源の有効利用のため、再処理を含めた核燃料サイクル政策がすすめられています。このバックエンドは、問題が山積みで、これが原発が反対される理由にもなっています。高レベル放射性廃棄物の貯蔵、処理のめどがたっていないこと、最終処分場が決まっていないことが大きな課題となってます。
 また、核燃料サイクルは破綻しているとも一部ではいわれています。再処理工場というのが青森県にあります(現在認可申請中、たびたび稼働が延期されています)。再処理工場は、当初は高速増殖炉が実用化する前提で計画されていましたが、高速増殖炉もんじゅが2016年に廃止となり、メリットゼロとはいいませんが、意義がおおきく薄れてしまいました。その中で(好き嫌い、支持不支持はおいといて)河野太郎氏も、自民党でありながら意義を唱えています。
https://www.taro.org/2016/11/どーしても核燃料サイクルをやりたい!?.php
再処理があとにひけないのは、様々なしがらみがあるようです。一番のネックと思われるのは、施設のある青森県との約束です。使用済み核燃料は資源として受け入れているので青森県知事は「うちはゴミ捨て場ではありません」とコメントしています。資源なので早く処理してください、ということになります。ここで再処理をやめます、となると使用済み核燃料はとたんに”ゴミ”とみなされ、元あった発電所の燃料プールに戻してください、ということになりますが、もう全国の発電所のプールはいっぱいで発電所の稼働をとめないといけないことになります。なので引くに引けなくない状況となっています。
 バックエンドについては、再処理の意義、最終処分場の立地など問題・課題が山積みですが、フロントエンドとは別問題で考えるべきだと思います。

原発のメリットで挙げられることはキャンペーン用?

原子力を推進する立場の人が主張するメリットとしてうたわれているのは主に以下の3つです。
①準国産エネルギーとして燃料の安定供給が可能
②温暖化ガスを出さないクリーンなエネルギー
③発電コストが安く経済的
一番上はとても重要だと考えますが、残り二つは極論すると、原子力を推進するためのキャンペーン用の文句では?と思っています。2番目について、環境を破壊するのは問題ですが、そもそも地球が温暖化するなのか本当に温暖化しているのか、と私自身は実は懐疑的です(詳細の議論は割愛します)。3番目について、将来にかかるコストも踏まえて本当に経済的かは不明確と思います。②③に関しては原子力を進める理由ではなく、副次的なメリットといったところでしょうか。仮に、多少クリーンではなくて、コストがかかってでも、政府は原子力政策は進めるだろうと思います。

真相は?どこまでもわからない

日本は再処理の方針を掲げていて、国際的に(主に米国に)認められています。これは米国が放棄した再処理技術でも同盟国が保持していてほしいと考えているから認めている、という説もあります。
 再処理は、やりようによっては核兵器の原料となるプルトニウムを抽出する技術にもなるので、主に米国からは日本のプルトニウム保有量が増えることを懸念されています。再処理技術の保有を放棄してほしい国が刺激をうけてしまうというのが理由です。
 少し話がそれますが、プルトニウム保有量47トンだから、単純割り算して原爆6000発分という報道を目にします。しかし再処理で抽出したプルトニウムは核兵器に利用しにくい形態です。プルトニウムには兵器級と原子炉級に分類され、通常の発電で生成される原子炉級プルトニウムを核兵器用にするのは非常に困難です(↓参照)。なんでこんな報道されるのか理解できません。
https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_13-05-01-07.html
 さて、日本政府が、原子力と再処理技術を保有し続けるのは、一説には潜在的核武装能力を確保することによる抑止力の効果があると言われています。ただ、現在の状況で、核兵器開発するのはハードルが高いようです。NPT(核不拡散条約)を脱退しないといけないし、国際社会からの反発を受けてしまいます。核燃料の原料のウランの輸入を止めらたりする事態になれば本末転倒になりかねません。
また、非核三原則を唱えている日本では、政府側の人が表向き認めたりはしないでしょう。しかし個人的には国際情勢は数十年でも変わりうると思うので、技術を保持しておこうという説はあると考えます。(このあたりは詳しくありません)原子力政策を進める真の理由はこれだとも思います。ですが、真相はわかりません。

福島第一原発事故について

この福島第一原発事故については、あまりにもインパクトが大きい出来事で話が膨れ上がってしまうので、ここでは詳しくは書きません。事故をきっかけに世論も大きく変わり、反対派、脱原発派の声が大きくなりました。私の思うことを箇条書きにします。
-想定以上の津波とはいえ、事前の津波対策はやはり抜かりがあったのだと思います。
-東電の対応や企業体質までさかんに言われましたが、同時に問題が大きいのは規制側の原子力保安院(当時)だと思います。稼働OK出した側にも責任があります。一民間企業の東電が巨額の津波対策をするというのはあくまで努力義務と考えます。
そして住民が起こした訴訟では、国と東電が同等の責任を負うと判決が出たようです。納得です。
-この事故を機に、過酷事故(今回のような重大事故)に対する防止策、起こってしまった場合の被害防止策など規制が強化されています。原子力保安院から原子力規制委員会に組織も変わっています。
-懸命な事故対応はベストをつくしたとIAEAからも評価されています。
-現在もなお、廃炉にむけた作業がおこなわれています。燃料デブリ取り出しなど技術的に未解決な課題が多いです。今後数十年、百年規模での長期の見通しが求められます。

まとめ 

以上まで述べてきたように、原発に関することは複雑で様々な観点があります。反対するにしても、あらゆる視点でみたうえで議論してほしいものだと思います。というのは、一方向から見れば正しそうな主張でも、別の角度から見ればまた問題があるかもしれないからです。

ここからは私の見解ですが原発は、エネルギー安全保障に有利という大きなメリットがあります。課題も多数ありますが、できるだけ対処して進めていくべきです。資源に限りある日本では、ウラン資源を使いきるまで続けるべきだと思います。その間に再エネなども可能な限り開発していくとよいと思います。そして、核燃料サイクル、再処理の是非、処理方法などは議論していくべきだと思います。
総合すると原子力の選択はベストではないがベターだと考えます。

出典:
http://ieei.or.jp/



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