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思うこと364

 『四谷怪談』を読んだ。読んだと言っても原文で読んだとかではなく、講談社の「少年少女古典文学館」(2010年)という、日本の古典文学を様々な作家の方々が現代語訳にしたとてつもなく読みやすいやつである。何せ「少年少女」が対象なわけで、難しい言葉には小さく説明が書いてあったり、昔の古道具や風習なんかも常にページの上部に簡単な説明と挿絵付きで載っている。本当に素晴らしい。

 で、『四谷怪談』(詳しくは鶴屋南北の『東海道四谷怪談』かな?!)はブックオフで偶然見つけ、異様に安く(100円くらい)、即決で買ったもの。怖い話に常に飢えている私だが、肝心の日本の怪談はそんなに抑えていないのだ。まさに灯台下暗し。

 ところで『四谷怪談』というと、私のイメージは幽霊の「お岩さん」。
そして「お岩さん」といえばあの皿を数えるやつだ。「一枚〜二枚〜」そんで一枚足りなくて襲いかかってくるやつ。そういえばどうやって皿を数えるに至ったかあんまり覚えてないな〜いつ皿が出てくるかな〜とわくわくしながら読み進めていた私。

 さて、多くの人はもう気付いているでしょう。「それは皿屋敷で、数えているのは "お岩さん" じゃなくて "お菊" さんじゃない?」と。

 そうです。読み終わるまで一度も皿を数えるシーンなど出て来ず、そういう別バージョンもあったのかな?とすら思い、改めて『四谷怪談』を調べてあらびっくり。そりゃ皿数えるわけないわね。

 まあそんな私の勘違いはどうでもよくて、『四谷怪談』、非常に面白かったです!

 お岩さんというと、読む前から、顔が爛れてかなり恐ろしい見た目を真っ先に思い浮かべるのだが、それがまさか毒薬によるものだったとは知らなんだ。しかも、お岩の旦那である伊右衛門を好きになってしまった愛娘・梅のため、梅の父である喜兵衛が企んで、「顔が崩れたらさすがに岩とも別れると思って、病気の岩に万能薬と偽って毒渡しちゃったゴメン!」みたいなノリ。いやまあ、可愛い恋する娘のために必死だったと言っても!あと、そもそも伊右衛門とか、もっと前にお岩の親父を斬り殺してるような奴だし!(岩はそれを知らない)。なんか凄いな人間たちの業が!

 結局、岩は男たちの理不尽な欲望に振り回されて容姿を崩され、発狂している間に運悪く刀が刺さって死んでしまう。ここからお岩さんの復讐劇、憎き伊右衛門を追い回したり、伊右衛門に幻想を見せて関係者を殺させたり…が始まるのですけど、まあもうそりゃあそんな気持ちにもなりますよね。

 そして冒頭の伊右衛門の殺しや、岩の顔が崩れて行く様、岩の見せるおどろおどろしい幻惑。いや、これ「少年少女」読んでトラウマにならないの?!と思ってしまうほど、簡単な文章で書かれているからこそむしろ凄い怖い。ちなみに途中の挿絵のお岩さんはかなり抑えめに美しく描かれてた。そらそうか。

 で、『四谷怪談』はそもそも歌舞伎とかでやるわけで、そう思うと結構「怖さの大スペクタクル」的なある種のエンタメ性を文章からも感じる。有名な「仏壇返し」(お岩の亡霊が人間を仏壇の中に引きずり込むやつ)は何かの映像でちらっと見たことある気がするけど、歌舞伎に詳しくないので、他の部分はどういう演出がされているのか気になる。戸板に岩と小平の死体を背中合わせに打ち付けるとか、それが川に流れてくるとか、川の水が真っ赤になるとか。そのうち公演があったらぜひ前のめりで観に行きたいところ。(あと、例の仏壇、「いきなり仏壇の奥からどどっと大量の血があふれた。」というシャイニングばりのホラー描写に絶句。すごいぞ古典ホラー。)

 というわけで『四谷怪談』をエンジョイした私でしたが、この「少年少女古典文学館」、実は『古事記』から始まり、『源氏物語』や『平家物語』のメジャーどころも抑えており、と思えば『能・狂言』の巻もある。シリーズ全25巻。とてもおすすめ。私は第一巻の『古事記』から図書館で借りて全部読もうと画策中です!!

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