初めてありがとうを貰えた仕事だった。〜私がなぜ11年間風俗を続けられたのか〜①
私が初めてアルバイトをしたのは高校1年生の冬休みだった。スーパーの生鮮食品売り場で寒い中、品出しをしたり雑巾を洗ったり、立ちっぱなしで連日足が棒のようになっていた。
内向的な性格なので、周りと打ち解けられなく、要領が悪く不器用なので、作業も遅い。わからないことも聞けないからよく怒られていて、本当に苦痛だった。タッパーにラップをかける作業がどうしてもうまくできなくて、持ち場を外され、店内をウロウロしていた。とにかく、教えられたことができないし、同じ場所で同じことをずっとすることが性に合わないのだ。
そして意を決して何をすればいいのか聞いた時、はっきり覚えてないが、この時責任者に「君は何もできないからなあ、」みたいなことを言われ、ショックだった。
私の初めての仕事は、誰にも感謝されることもなく、役に立つこともなく、仕事をしたという実感もなく、ただ辛くて疲れて7日間で終わった。
結局高校時代は、他にアルバイトをすることなく終了した。
短大生になり、まず最初にやったのは、飲食店のキッチンだった。次から次へとオーダーが入り、全然分からない。先輩バイトの人と二人で組んで、教えてもらえるのだが、多すぎて覚えられる気が全然しなかった。無理だった。
そしてまた料理長みたいな人から苦言を言われる。なぜか私は上司というものに疎まれるようだった。幸い、その時現場で教えてくれた同じアルバイトの女の子は優しかった。それには救われたが、彼女はちゃきちゃき動くし、早い、とにかく飲食店はスピード重視だから早くすることができないし、覚えられない私には無理だった。結局ここも3日間で辞めてしまった。
次のアルバイトは、これまでの痛い経験を踏まえて楽そうなところにしようと、ゲームセンターにした。お客さんと喋っているだけに見えて良さそうだと思った。
実際は、ゲームの知識もないし、好きでもないし、興味もないからお客さんと話せられないし、勉強するという向上心もないため黙々と掃除やら灰皿交換とか雑用をするしかなく、また立ちっぱなしで疲れた。
そして空気が悪い。幸い、繁華街ではなかったため、地元の顧客がほとんどだったため怖い客やトラブルはなかったが、とにかく居心地のいい場所ではなかった。
従業員は全員男で、女は私だけだった。女子大生の身分だったが、可愛くもなく、内向的で人と話せない、仕事もできないから、男性たちは期待外れだったろう。ゲーセンで働くくらいの人たちなので、オタク気質の人もいて、ネチネチ言われたこともある。二人くらい優しい人がいて、その二人とシフトに入るときは多少救われたけど、基本私は職場の人とコミュニケーションが取れなかった。
飲食店のようにスピードが重視されないため、この仕事は1年半くらいは続けられた。この仕事でも楽しいと感じたことや、お客さんに感謝されたことや、役に立っている喜びは得られなかった。
満員電車に乗るのとリクルートスーツを着るのが嫌で就職をしなかった私は、フリーターになり、単発の日雇いバイトと、1年くらいコンビニと、そしてデパートの駐車場で5年くらい働いた。
単発でやった仕分けの仕事は人と話さなくていいけど、同じことをずっとやるのも1日が限界だった。やはりつまらない。この手の仕事は朝が早いのが嫌だったし、地味な格好をするのも嫌だった。
競馬場で3日くらいチケットもぎりもやったが、女性だけでグループを組みそこで幅を利かせ仕切っている女たちが嫌だった。女だけの職場は嫌だなと感じた。
1年くらい続いたコンビニも、店長が女性で、機嫌が悪い時といい時とで態度が変わって苦労した。女とはやっぱり働きたくないとまた思った。ここでも、仲良よくなった人はいたけど、やっぱり苦手な人もいて、それが嫌だった。そして、早朝勤務だったので辛くて結局やめた。やっぱり朝早いのは向いていない。
5年続いた駐車場の仕事は、珍しく、担当社員と責任者がいい人だった。話しやすくて、ここから、周囲の人とようやくコミュニケーションが取れるようになってきて、楽しくなった。ひとり苦手な人がいたけど、私が入って割とすぐやめていったのでそのあとは安泰だった。ようやく楽しくなってきたけど、相変わらずお客さんが喜んでくれたとか、仕事をしたという実感はなかった。車にも興味もないし、勉強もする気がない。
周りの人が助けてくれるので困らないけど、面白くない。ただ時給がよく簡単な仕事だったから続けられただけだった。
音楽事務所のスタッフとして電話対応や雑用もやった。ここは比較的人間関係はよかったが、職業柄臨機応変な対応力と社交性が求められる。これも試用期間で落とされてしまった。つくづく、私は社会から必要とされていないのだと感じる。
一度、派遣会社の面接に行ったことがある。現場の仕事しか経験のなかった私は、会社という場所で働いてみたかった。いわゆるオフィス業務をやってみたいと思った。しかし、面接担当者に言われた一言で大ダメージを受けて落ち込んだ。
「あなた若いのに元気がないね。目が死んでるみたい。」
ショックだった。その一言で直感的に私には、いわゆる世間一般的な仕事(会社に通勤して机で仕事する)はできないんだなと悟った。というより、仕事というものに対しての諦めに近いのかもしれなかった。
今までの経験を踏まえて、私は
・スピードが求められるもの、早くしないといけないものは無理。
・人と一緒にやるのも難しい。
・好きじゃないこと、楽しくないこと、興味が持てないものはつまらない。
・地味な服装や髪の色やメイクに決まりがあるものは嫌。
・勤務時間や日にちが決められているものも嫌。自分の予定を優先したい。
・大勢の中の一人でいたくない。
・嫌な人がいると苦しくなる。
という大まかな傾向を自覚した。
当時高収入仕事情報誌を街でよく配ってたのでエロ系の求人を見てできそうなものを探していた。お金に余裕はなかったけど、それが理由じゃなかった。
単純に私は性のことにずっと興味があって好きだったし、普通なら引くような内容の求人を見て、おもしそう、どんなものなんだろう、やってみたいと惹かれていた。
自分にとって好きじゃないこと、興味の持てないこと、楽しくない仕事をずっとやってきた私にとってなぜこんなにワクワクするのか不思議だった。
そして、まずは顔出しなしでOKだというAVの面接に行くことにした。
無謀にもアパートの一室に一人で行き、求人情報と全然違うことを話されびっくりして断ったが、何もされなくてよかった。(AVでは、面接にきて断ると無理やりやられ、それを撮られているという作品が定番。)
渋谷駅でスカウトされ、なぜか柱の陰に隠れて片乳を見せたこともある笑
しかもそれは嫌じゃなかった。なんかワクワクした。
後ほど事務所にも行ったが、結局一度も撮影することはなかった。映像系には一切縁がなかった。
風俗の仕事は、渋谷を歩いているときにスカウトに声をかけられて始めたのだが、2000年代の渋谷はマルキューから道玄坂を登っていく途中で、毎日女の子なら誰でも何人というスカウトに声をかけられていた時代だった。
その日たまたま彼氏と別れるというメールをしたすぐ後に声をかけられたので、勢いもあって話を聞こうと思って、フルーツ西村のカフェに入った。
一応、それなりの仕事だから覚悟はしていたが、驚くほどスムーズに決まり、スカウトの人は親切で優しくて、AVの時に感じた危険さや違和感はなく、ワクワクしてきた。今までで初めて、楽しそうだと高揚した。
後日研修を受けてその日にすぐ仕事が決まった。研修も、店長がやってくれたのだが、全くエロさはなく淡々としっかり教えてくれた。割と、ちゃんとした店だったからよかった。
最初のお客さんは、スキンヘッドでヒゲで第一印象はちょっと怖かったけど、よく見たら優しい目をしていたのと、穏やかな口調にホッとしたのを覚えている。最初だったので、とにかく教わったことをひたすらやるのに精一杯で余裕がなかったけど、最後までちゃんとできて、ありがとうと言われた。嬉しそうだった。
なんとも言えない気持ちになった。
その時、初めてちゃんと仕事ができたという達成感と、お客さんが喜んでくれたという実感と自信を持つことができた。
今まで仕事をして、初めてありがとうと言われたのだ。
仕事って、ワクワクするんだ。楽しいんだ。喜んでもらえるんだ。ありがとうって言われるんだ。達成感と充実感を得られるんだ。
その日、私が手にした給料は11000円だった。たった60分で11000円をもらえたことに今まで時給仕事しか経験してなかった私はびっくりした。
何も我慢していない、嫌な思いもしていないのに今までで一番多い金額を受け取ったことに驚いた。私が今までして来た仕事はなんだったんだろう。
あれ、仕事って本当は楽しいんじゃ?
運がいいことにそれからそのお客さんはリピーターになってくれて、何度も来てくれて嬉しかった。店替えをした時もお願いしたら来てくれて、本当にありがたかった。最初の接客が成功したから、その後ちょっと失敗したり悩んだりうまくいかなくなった時もこの成功が支えになった。
最初の仕事がこの人で本当に良かった。
舞い上がって緊張してたから覚えてないが、多分接客や技術に関しては未熟で至らないところもあっただろうけど、私という人間をいいなと思ってくれたのだろう。
そのことが一番嬉しかった。
私という存在の必要性が全く感じられない仕事をして来たから、その嬉しさは計り知れなく、やっと報われた気がした。
これだ!と思った。
もちろん、これからたくさんのお客さんと会う中でいいことだけじゃない経験をたくさんしてきた。お金も、この商売は水ものだということも分かった。
キャリアとして認められないこと、履歴書に書けない社会の裏の仕事であることも、人に言えない仕事だということも思い知った。
でも私は、初めてありがとうをもらえた日に仕事の本質を知ることができたのだ。それは風俗をやめた今でも、私の仕事に対する根本的な考えや姿勢を支えている。
仕事というのは、辛かったり我慢したり、嫌な人とするものではないし、楽しくなかったり、自分のやりたいことを犠牲にするものでもないし、怒られたり責められたりもしない。
楽しくてワクワクして、嫌じゃなくて、我慢しなくて、達成感と充実感があって、価値に見合った金額を受け取ることができ、お客さんに喜んでもらえて、自分という存在が必要である、役に立っていると感じられる。
それが仕事であり、働くことであると。
それを私は風俗の仕事で学んだのだ。
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