マガジンのカバー画像

西澤作品できるだけ読んでみる

22
西澤保彦作品をできる限り読んでみようと思いました。
運営しているクリエイター

記事一覧

西澤作品をできるだけ読んでみる19  『沈黙の目撃者』(徳間書店)

西澤作品をできるだけ読んでみる19  『沈黙の目撃者』(徳間書店)

 退職した先輩警官が殺害された現場であるその先輩の自宅で、塙反幟流(はねさか のぼる)は強烈な違和感を覚える。先月、その先輩から招かれたときと比べて内装は何も変わっていたように見えるのに、尋常ならざる違和感を覚えてしまう。強烈な違和感の正体は現場に置かれている明らかに来客用ではないビアマグとエビスビールのロング缶だった。一滴も酒が飲めない先輩が何故、そんなものを現場に置いていたのか……?

 今回

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる18  『夢は枯れ野をかけめぐる』

西澤作品をできるだけ読んでみる18  『夢は枯れ野をかけめぐる』

 長年勤めた百貨店を退職し、現在失業中(ただ質素な生活水準を保てば、計算上は死ぬまで喰うに困る心配はない、くらいの貯えがある)の身にある四十八歳の羽村祐太は、卒業三十周年の節目にもともとは参加していなかった高校の同窓会に参加したその会場で、同級生の理都子から奇妙な頼みを受ける。それは分別されていないゴミを分別して、それぞれのゴミの種類の収集日に捨てて欲しい、という不可解なものだった……、

 約一

もっとみる

西澤作品が恋しい

西澤保彦全著作読破計画ですが、本の感想を書く際の言葉が似通ってきている、と感じたので、敢えてすこしの期間中断していたのですが、そろそろ西澤作品が恋しくなってきた。もしかしたらこれは良い兆候なのかもしれない。(決してやめたわけではないですよ!)。

西澤作品をできるだけ読んでみる   番外編①ここまでのあれやこれや

西澤作品をできるだけ読んでみる   番外編①ここまでのあれやこれや

 今回はレビューではありません。そしてかなり長いです。 いつもお世話になっております。書店員のR.S.です。プロトタイプのような位置付けになってしまった『黄金色の祈り』から前回紹介の『七回死んだ男』まで、現時点で18冊の西澤保彦作品を紹介してきました。大体、4分の1くらいの作品を読んだことになるわけで、最初に掲げた商業作品として刊行されている西澤作品読破計画はまだまだなのですが、すこし現時点で思っ

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる17  『七回死んだ男』

西澤作品をできるだけ読んでみる17  『七回死んだ男』

 この数年、遺産のためのご機嫌伺いのために訪れている祖父、渕上零治郎の邸宅。かつて祖父を見捨てた母や葉流名叔母さんに対して頑なな態度を取っていた祖父だったが、年始の挨拶を許すくらいには、その態度を軟化させつつあった。そんな祖父、零治郎の死体が発見され、親戚一同は非現実な出来事が自分たちの身に起こることに衝撃を受けていたが、〈僕〉こと大庭久太郎だけは別の意味で衝撃を受けていた。久太郎だけは殺人事件が

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる16  『モラトリアム・シアター produced by腕貫探偵』

西澤作品をできるだけ読んでみる16  『モラトリアム・シアター produced by腕貫探偵』

 気付くと、住吉ミツヲはカーペットにうつ伏せになっていて、ひどい頭の痛みを感じながら身体を起こすと、そのすぐ近くで英会話講師をしている同僚の妻の遺体を発見する。〈メアリィ・セイント・ジェイムス女子学園〉、通称〈MSJ〉というミッションスクールの臨時講師となったミツヲ。彼は、その学校で事務員として働く標葉いつかという魔性の女が〈疫病女神〉と噂される由来を知らないはずなのに、彼の深層意識が警鐘を鳴らす

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる15  『必然という名の偶然』

西澤作品をできるだけ読んでみる15  『必然という名の偶然』

 今回紹介するのは、

『必然という名の偶然』(実業之日本社文庫 2013)          ――シリーズ探偵はお休み中、大胆不敵な人気シリーズ番外編!

 親本は2011年に刊行されました。

 ※ネタバレはしないつもりですが、未読の方はご注意を!

 本書は『腕貫探偵』から続くシリーズの第三短篇集にあたるのですが、本書にはシリーズ探偵である〈腕貫〉さんは登場しません。文庫解説でも番外編という

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる14  『腕貫探偵、残業中』

西澤作品をできるだけ読んでみる14  『腕貫探偵、残業中』

 今回紹介するのは、

『腕貫探偵、残業中』(実業之日本社文庫 2012)
 ――謎めいた神出鬼没の安楽椅子探偵が、事件の当事者に!?

 親本は2008年に実業之日本社から刊行されました。

 ※ネタバレはしないつもりですが、未読の方はご注意を!

 本書は〈腕貫探偵〉シリーズの第二短篇集です。

 ちなみに一作目は、こちら。

 シリーズ前作ではあくまでも部外者として事件に関わっていた〈腕貫〉

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる13  『腕貫探偵』

西澤作品をできるだけ読んでみる13  『腕貫探偵』

《(前略)ひょろりと鉛筆みたいに細身の男が、折り畳み式らしき簡易机の前に座っている。ひと昔前の肺病やみの文学青年みたいに尖った風貌に、丸いフレームの銀縁メガネ。若いのか年寄りなのかよく判らない。無造作に切り揃えたとおぼしき髪には白いものもちらほら混じっているようだが、基本的には年齢不詳だ。笑うと相手に付け込まれると用心でもしているみたいにむっつりとした表情や黒っぽいネクタイが如何にもお役所的に堅い

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる12  『人格転移の殺人』

西澤作品をできるだけ読んでみる12  『人格転移の殺人』

 人間の人格と肉体が分離されて、互いに入れ替えられてしまう機能を持った、不可思議な“力場”が支配する“部屋(チェンバー)”の力によって、人格が入れ替わってしまった登場人物たちは、“マスカレード”というスライド式の人格転移現象が起きることから普通の生活に戻れないため、外界から隔離されてしまう。そんな状況で起きた殺人事件、

 今回紹介するのは、

『人格転移の殺人』(講談社文庫 2000年)    

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる 11 『殺意の集う夜』

西澤作品をできるだけ読んでみる 11 『殺意の集う夜』

 事故みたいな成り行きで六人の命を奪ってしまった〈あたし〉は、その六体の死体が転がっている別荘で、さらに友人の園子が殺されているのを発見する。六人を殺したのは〈あたし〉だが、園子だけは違う。陸の孤島と化した状況の別荘で、最後の生き残りとなった〈あたし〉以外にその事実を知る者はいないのだから、と〈あたし〉は園子を殺したのであろう六人の内の一人に残りの殺人の罪も被せようと計画する。園子殺害の犯人は簡単

もっとみる
西澤作品をできるだけ読んでみる⑩  『からくりがたり』

西澤作品をできるだけ読んでみる⑩  『からくりがたり』

 遺書もなく理由の分からない兄の首吊り自殺。異性から見て魅力に乏しかった(と、妹は思っている)兄が遺した日記には、三十代後半とおぼしき独身女性教師との愛欲の記録、喫茶店の女性従業員とのお洒落な恋愛ごっこ、妹の同級生との情熱的な交歓が綴られていた。真偽の疑わしい日記、そして関係者たちにまとわりつく“計測機”の影。

 今回紹介するのは、

『からくりがたり』(幻冬舎文庫 2017)
 ――虚構と現実

もっとみる

西澤作品をできるだけ読んでみる⑨  『いつか、ふたりは二匹』

 小学校六年生の菅野智己は眠りに就くことで猫の身体の中に入れるという不思議な能力を持っている。そんな智己の住んでいる柚森町では去年、女子児童が誘拐されるという事件が起こっていた。そして今年、女子児童の列に乗用車が突っ込み、そのうちのひとりの女子児童が大怪我をした、という話を智己は聞かされる。事件について色々考えているうちに我慢できなくなった智己は、猫の身体になって事件を調べようとするが……。

 

もっとみる

西澤作品をできるだけ読んでみる⑧  『瞬間移動死体』

 怠け者のヒモ夫がドSな妻を超能力で殺そうとする話が、まさかこんな結末を迎えるなんて! 今回紹介するのは、そう驚くこと間違い無しの傑作SFミステリ、

『瞬間移動死体 新装版』(講談社文庫 2012)   ――超能力で妻を殺そうとする話が、まさかの!?
 旧文庫版は講談社文庫から2001年、親本は講談社ノベルスから1997年に刊行されました。

 敬称略ですので、悪しからず。

 ※ネタバレはしな

もっとみる