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エッセイ集

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2022年12月の記事一覧

「幸せになろうね」と君は言った

「幸せになろうね」と君は言った

数年前のクリスマスに恋人ができた。クリスマスの夜に、イルミネーションを見た帰り道でのベタなシチューエーションでの告白。まさか付き合えるとは思っていなかった彼女からもらった「よろしくお願いします」の一言。驚きを隠せない僕を見て「え?動揺してるの?」と嬉しそうな表情で彼女がからかう。

「クリスマスに告白するなんてかなりベタだね」と彼女が笑う。あまりにもベタすぎる展開に何も言えない僕がいた。赤いチーク

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生きていて良かったと思える夜をあと何度過ごせるだろうか

生きていて良かったと思える夜をあと何度過ごせるだろうか

ずっと早く歳を重ねたいと思っていた。それが今抱える苦しみから逃れる唯一の術。ずっと死にたいと思っていた10代後半。弱音の吐き場所さえわからずに、深夜の河川敷で何度も涙を流した。

川の流れに沿って緩やかに生きていたい。しかし、現実は波瀾万丈な人生を過ごしている。16歳から家族を養うために、周りが遊び続けるなか、早朝から深夜まで働き続け、27歳で難病を発症して、今もなお闘病を続ける日々。死にたいと思

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さて、明日笑えるだろうか

さて、明日笑えるだろうか

毎日を丁寧に生きるが理想。現実は、目の前にやってくるものを処理するだけの日々に忙殺され続けている。この人生に意味はあるのだろうか、なんて無意味な問いを立てるようになったら終わり。それでも意味を求めたくなるのは、きっと人間の性だ。

くたくたの状態で駅へと足を運ばせる。目の前に現れた駅前で抱き合うカップルを横目に聞こえない程度の舌打ちを鳴らす。どれだけ夜が深くなっても、街は静まらない。むしろどんどん

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ドーナツ記念日

ドーナツ記念日

2人でよく歩く道は、ろくに塗装されていないデコボコの道だ。河川敷で並んで夕焼けを見るたびに、彼女はよく「地球を照らす太陽があるから私たちは歩いていけるんだね」と口ずさんでいた。「僕にとっての太陽は君だよ」なんて照れ臭い言葉を喉の奥にしまい込む。無言で彼女の手を強く握りしめる。手のひら越しに伝わる温かさ。半径30cm以内に見える彼女の横顔はいつも煌めいて見えた。

彼女といるときはいつも不思議な気分

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