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泣きながらカップ麺を食べた。まだ大丈夫と自分に言い聞かせた

ライター1年目、文才がないとずっと自分を責め続けていた。右も左もわからないままライターになった。コネもなければライターとして活動する友達もいない。相談できる人もいなければ、この思いをどうやって口にすればいいかもわからなかった。夜通し書いた原稿は、赤字ばかりになって返ってきた。まるでお前の人生はダメだと言わんばかりに。

ライターとして独立するまでは、ずっと気長に文章を書いていた。PV数も読み手の反応も悪くなかったし、書きたいことを書いて、たくさんの人に読まれる嬉しさも知っていた。だから、ライターも同じようにできるはずである。

ライターとして初めて原稿を書いたときに、いかに自己流で書いていたのかを思い知らされた。文章については、ネット記事か書籍で勉強してきたつもり。とはいえ、「つもり」はあくまで自分の中の基準でしかない。現実は思ったよりも甘くなかった。

編集者さんから入る赤。最初はなぜ赤を入れられているかわからなかった。自分の中ではベストを尽くしたつもり。睡眠を削ってまで書いた原稿を簡単に赤入れされてしまう。その事実を恨めしく、悔しく思っていた。編集者さんにではない。うまくやれるだろうと浅はかだった自分にだ。むしろ編集者さんには感謝してるし、あのときの編集者さんとのやりとりがいまの支えになっている。

赤入れされた原稿を見れば見るほど、文字を読むことすら嫌いになりそうだった。好きだった文章が書けない。まさかこんなにも文章を書くことが下手だったなんて思いもしなかった。これまでに培われた自信はもはやないに等しく、編集者さんに迷惑ばかりかけて申し訳ないに変わった。

もう何を書いてもダメだった。ダメな自分は生活にも現れる。脱いだ服は脱ぎっぱなし。食事は外食ばかりになって、部屋を掃除することもできず、そこら中にホコリが溜まる。溜まったホコリを見ても、なんとも思わない。むしろそいつに自分を重ね、自分にいらないもののレッテルを張る始末。部屋を真っ暗にして、これからどうすればいいかを考える、このままではダメだと思いはするものの、体が思うように動かなかった。

ある日、何もかもが嫌になった。いい文章が書けない自分が情けない。もう文章を仕事にするのはやめてしまおう。綺麗さっぱり諦めたほうが楽に生きられる。たくさんの人に迷惑をかけてしまう。好きだった文章が嫌いになりそう。その事実が自分を苦しめた。

打ち合わせ終わりに涙を堪えながら駅へと歩く。でも、家に着いて、ベランダから見える夕焼けを見たらもうダメだった。張り詰めていた糸がポツリと切れる音がしたその瞬間に、目から涙が溢れていた。泣いた。泣きじゃくった。声を殺すことなく、誰もいない部屋で1人で泣いた。

時刻は20時。もう何もしたくない。そんな思いとは裏腹にお腹の音が鳴る。とてもじゃないけれど、ご飯を食べる気力がない。徐々に大きくなっていくお腹の音。もうやめてくれ。文才がない自分にはご飯を食べる資格なんてない。

とはいえ、目の前にはたくさんの原稿が並べられている。納期だってある。これ以上誰かに迷惑を掛けてはならない。藁にもすがる思いで家にあったカップ麺に手を伸ばす。

カップ麺の栄養だけでは、さすがにもの足りない。もっと栄養のある食べ物を食べなければ意味がない。そんな周知の事実を知りながらも、目の前にあるカップ麺にしか手が届かない。

瞼を腫らしたままカップ麺にお湯を注ぐ。カップ麺を食べられるようになるまであと3分。この3分が地獄だった。いますぐにでも何かをお腹の中に入れたい。もどかしい。もどかしすぎて頭がおかしくなりそうだ。止まれ、涙。

3分が経った。蓋を開けると、カップヌードルのシーフードのにおいがが部屋中に漂った。目の前に用意されたカップ麺を夢中で食べた。涙も鼻水も垂れっぱなしのまま食べた。正直あまり味は覚えていないけれど、あのとき食べたカップ麺が自分史上最高に美味しかったような気がする。

カップ麺を食べ終えたあと、もの足りなくなったのか、無我夢中になって、冷蔵庫の中を漁っている自分がいた。家にある食べ物をほとんど食べ終えた途端に、お腹を満たしたからか「生きていたら辛いこともあるよね。また明日から頑張ればいい」と前向きになっていた。

涙も鼻水も止まらないどうしようもない夜を過ごした。でも、あのときすべてを出し切ったから前向きになれたことは事実だ。ライターになって3年の月日が経った。少しはできるようになったと思う日もあれば、涙を堪えながら夜を過ごす日もある。でも、そのたびに生きたいと思える自分に出会えるし、まだまだ負けたくないと思える自分に出会えることも知った。

これから先も苦しい夜はなんどもやってくる。そんな夜がやってくるたびに、あの日食べたカップ麺の味を思い出して、「力不足を悔しいと思えるうちはまだ大丈夫」と自分に強く言い聞かせながら、原稿を書いてしまうんだろう。

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