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ウカウカしてられない!?進化を続けるペルーの選手育成事情🇵🇪

Tudo bem ??(ポルトガル語で「お元気ですか?」)

主に南米やJリーグでサッカー指導者をしています平安山(へんざん)です。
将来はJリーグの社長やGMとして地域・日本のサッカーを盛り上げて人々の幸福度に貢献するのが目標です。


今回は、南米ペルーで最大のクラブであるClub Alianza Lima(以下アリアンサ・リマ)の育成部にて研修生をしてきた時のお話をしたいと思います。

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日本の方にとってアリアンサ・リマはそれほど聞き慣れないチーム名かも知れませんが、1901年創設の歴史あるクラブで、Facebookのいいね!数は約364万人を誇ります。
ペルーの人口が約3千万人という中なので、これは大まかに10万いいねに達するかどうかのJクラブと比べると恐ろしいほどのいいね率です。

育成部からはバイエルン・ミュンヘンで活躍し、2012年にはクラブW杯決勝でコリンチャンスのエースとしてチェルシーからゴールを奪って世界一に輝いた、パオロ・ゲレーロ選手を輩出しています。

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そんなアリアンサ・リマの育成部責任者は、なんと日系人。
沖縄にルーツを持つ、新垣エルネストが務めます。
彼は長くアリアンサ・リマでキャプテンとしてチームをまとめ上げ、プレーだけでなくその真面目さや頭の良さ、人間性はかなり評価されています。
ペルー代表選手歴もあります。

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そんな彼だからか、育成部の育成方法は物凄く知的。
筆者はプレー経験もサッカー指導者には勿論あった方が良いと思うのですが、それだけに慢心する事ない彼らに心から敬意と、そして日本人指導者として恐れを見ました。


そんなアリアンサ・リマの育成事情を紹介したいと思います。


⑴【チーム内での指導者勉強会の充実】

アリアンサ・リマではチーム内での指導者勉強会の機会が充実しています。
これは新垣氏が「育成年代の指導者は過去にどれだけプレーが上手かったかよりも、どれだけ勉強しているかの方が大切」と語るくらい、指導者の知的向上を大切にしているのが現れています。


育成部のコーチは週3ほど、約2時間程度ビデオを見たり議論の場を作ってサッカーの理解度を深めます。

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ペルーはスペイン語圏の国なので、同じくスペイン語圏のアルゼンチンやスペインの指導者の講演会をYouTubeで探してきたり、オンラインで海外ライセンスを取得したりと、インターネットを駆使して海外のメソッドを積極的に学んでいます。

同様にスクールコーチも定期的に勉強会を開催しています。

そしてその後各指導者で動画を見ての意見交換会を開催しています。

例えば筆者が参加した時にはバイエルン時代のグアルディオラ監督を支えるフィジカルコーチの講演会を見てから議論をしました。


こういう指導者が勉強していく仕組みというのは非常に良いものだとは思うのですが、日本のクラブが取り入れようと思うとペルーよりハードルは高くなる事情はあります。


というのもペルーは日本と比べると1人あたりの給料が安いため、沢山の従業員を雇い、その分1人あたりの仕事量は少ない傾向にあります。
なので空いた時間を勉強会にあて、有効利用しています。

国として貧しいので1人あたりがサッカーに支払えるお金も安くなりがちですが、サッカー人気が高いためにサポーターも多いという背景も影響していると思われます。

日本だと従業員1人あたりの仕事量が多いので、更に業務を増やそうとするとなかなかに大変でしょう。

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更に、スペイン語は多くの国で話されているので資料を見つけるのも容易いですが、日本語は日本でしか話されていないため、外国語の資料探しと翻訳には莫大な手間や費用がかかります。


逆に日本の指導者は様々な仕事が多い分、色々な事を把握出来ているので総合的な能力が身に付きます。
細かい所まで追求できるのも日本人指導者の良さでしょう。
南米だと指導だけに特化したスタイルのチームが多いです。

両国の良いところを取り入れて更に進化させていきたいですね。
日本語の資料からだけでも探すなど、何かしら工夫も出来そうです。

是非コメント付きでシェア、リツイートしてあなた様の意見・改善策を教えてください。



⑵【メンタルコーチが常駐】

アリアンサ・リマの下部組織では1人の心理学者(メンタルコーチ)、ヤコモ氏を採用していました。

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育成年代にメンタルコーチを採用しているクラブというのは日本でも南米でもそう多くはなく、日本だと通常のコーチが日々の生活の中で兼任している状態が多いでしょう。

ヤコモ氏によると、子供達のメンタルトレーニングで最も大切なのは"自信の獲得"なのだそうです。

もう少し具体的には「僕はやれば出来る」「僕は価値のある人間なのだ」と理解させる事だと話してくれました。


筆者が「日本では謙遜が良しとされ、過信や傲慢を嫌う文化が長くありました。その反動か、少し前には褒めて伸ばす教育が流行りました」と送ると、


ヤコモ氏は「褒めるという事もするのですが、最も大切なものは他にあります。褒めるだけでは自信ではなく過信を持ってしまう可能性があります」

「口で褒めるというより、やらせて実感させるんです」

ではどうやって?


「できることから段階的にやらせます。それはサッカーでもいいし、サッカー以外のスポーツでも音楽でもテレビゲームだって何だっていい。そして成長を実感させます。まずはできる・自分には価値がある・やれば成長するということを“理解する”ことです」


非常に納得させられました。

筆者が今褒められても恐らく簡単なウソは見抜けます。
多感な子どもだって敏感に感じ取るはずです。
そもそも、褒められただけなら“証拠”がありません。
自信の根拠があやふやな状態では、過信にはなっても自信にはならないでしょう。
"言われた事"と"自分で経験した事"とでは、深みが違います。

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また、子供達の精神的問題というのは自信だけではありません。
アリアンサ・リマに常駐しているヤコモ氏の専門はスポーツ心理学。
家庭環境や友人関係はどうしているのか?


ヤコモ氏「主に常駐の私と指導者と親とでコミュニケーションをとっていきます。しかし、中にはさまざまな家庭がありますし、クラブと連携を取ろうとしない家庭や、もっといえば子どもを虐待するなど、子どもの精神障害の原因そのものが親の場合もあります」」

「その場合には、私の人脈を生かし、家庭環境専門の心理学者に相談したり、任せたりしています。家庭環境以外にも、さまざまなケースに対応できる仕組みがあります」


これも沢山の人材を揃えられる南米クラブのメリットで、各エキスパートが自分の専門分野について高い能力を発揮出来る土壌があります。

日本だと指導者が対応する範囲が広く、その分専門性という点ではまだまだ南米に比べ劣っているのかも知れません。
日本の指導者は学習意欲が高いので、どの範囲もしっかり考えてはいるのですが、それでもどうしても専門家には及ばないでしょう。

逆に日本のやり方のメリットは子供の状態を把握出来るので、練習中の声掛けにも工夫や気遣いを加え易いのかも知れません。

アリアンサ・リマの場合だとそこは心理学者と指導者が同行していくですとか、心理学者が子供に対応した後、指導者にもしっかりとフィードバックし、連携していくという事でカバーしています。

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日本の場合、根性論や精神論というのが多く、実は筆者も選手には根性や闘志、逆に時には落ち着く時間、もっと広く言えば人間性や感情をコントロールする力など、メンタルというものを非常に大切だと考えています。


ただ・・どうしても起きてしまうのが・・
上司の根性の無さを部下の根性の無さにすり替えて問題としてしまうケースです。
サッカーで言えば指導者と選手。


TOPを目指すという事は、やはり辛いけど乗り越える必要のある場面というのは出てくるでしょう。

本当にそのために愛を持って根性を植え付けているのか、それとも自分が戦術的分析をしない言い訳や、敗因は自分の能力でないと思いたいから、「お前らの根性が」と言っているのとはとてつもなく大きな違いがあります。


指導者というのは大抵、選手より歳上ですが、歳上ならば歳下に威張らせて貰って乗りかかるより、歳下の能力を引っ張り持ち上げる方が、指導者としては優秀な気がします。

南米の指導者で良いな、と思う事の1つが、ここでしょうか。

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