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ペリクレスの葬礼演説を古典ギリシア語で読んでみた【第16回】

法の優位とも取れる言説が、ペリクレスの口から語られます。法の優位とも取れる制度がアテナイに設置されるのは紀元前4世紀頃(νομοθέταιの創設により、民会決議に対する既存法の優位性が確立)ではありますが、この頃から既にその理念自体はある程度浸透していたということでしょう。

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原文(Thuc. 2.37)と翻訳:16文目

ἀνεπαχθῶς δὲ τὰ ἴδια προσομιλοῦντες τὰ δημόσια διὰ δέος μάλιστα οὐ παρανομοῦμεν, τῶν τε αἰεὶ ἐν ἀρχῇ ὄντων ἀκροάσει καὶ τῶν νόμων, καὶ μάλιστα αὐτῶν ὅσοι τε ἐπ᾽ ὠφελίᾳ τῶν ἀδικουμένων κεῖνται καὶ ὅσοι ἄγραφοι ὄντες αἰσχύνην ὁμολογουμένην φέρουσιν.

筆者翻訳
個人個人で人付き合いする時には制約は無いが、公共のこととなれば、畏れの故に、公職にある者と、法律、とりわけ、不正を被った者たちへの援助の為に制定された諸法と、不文律ではあるが皆に共感される恥じらいを引き起こす諸法に常に従い、法を破ることは決してしない。

解説:語彙

・ἀνεπαχθῶς:副詞、「制約無しに」
・δὲ:小辞、前文との関連性を示している。
・τὰ:冠詞・中性・複数・対格、ἴδιαに繋がり名詞化している。
・ἴδια:基本形はἴδιος、形容詞・中性・複数・対格、「個人個人で」。関係の対格で、προσομιλοῦντεςの意味を限定している。
・προσομιλοῦντες:基本形はπροσομιλέω、動詞・分詞・現在形・能動態・男性・複数・主格、「人付き合いする時には」
・τὰ:冠詞・中性・複数・対格、δημόσιαに繋がり名詞化している。
・δημόσια:基本形はδημόσιος、形容詞・中性・複数・対格、「公共のこと」。関係の対格で、παρανομοῦμενの意味を限定している。
・διὰ:前置詞、対格(δέος)を取り、「~の故に」
・δέος:基本形は同じ、名詞・中性・単数・対格、「畏れ」
・μάλιστα:μάλαの最上級の副詞、「とりわけ」。ここではοὐの強調していると考えられる為、「決して」と訳してみた。
・οὐ:否定の小辞、「~ない」
・παρανομοῦμεν:基本形はπαρανομέω、動詞・現在形・能動態・1人称複数・直説法、「法を破る」
・τῶν:冠詞・男性・複数・属格、分詞(ὄντων)に繋がり名詞化している。
・τε:連結の小辞、καὶと繋がり「~と」
・αἰεὶ:副詞、「常に」
・ἐν:前置詞、与格(ἀρχῇ)を取り、「~に」
・ἀρχῇ:基本形はἀρχή、名詞・女性・単数・与格、「公職」
・ὄντων:基本形はεἰμί、動詞・分詞・現在形・能動態・男性・複数・属格、「~ある者」
・ἀκροάσει:基本形はἀκρόασις、名詞・女性・単数・与格、「遵守することで」
・καὶ:接続詞、τεと繋がり「~と」
・τῶν:冠詞・男性・複数・属格、νόμωνに繋がる。
・νόμων:基本形はνόμος、名詞・男性・複数・属格、「法律」
・καὶ:接続詞、「~と」
・μάλιστα:μάλαの最上級の副詞、「とりわけ」
・αὐτῶν:基本形はαὐτός、人称代名詞・男性・複数・属格、νόμωνのことを指している。ここでは分かりやすく「諸法」と訳した。
・ὅσοι:基本形はὅσος、関係代名詞・男性・複数・主格、従属節を形成しαὐτῶνに掛かる。
・τε:連結の小辞、καὶと繋がり「~と」
・ἐπ᾽:前置詞、与格(ὠφελίᾳ)を取り「~の為に」
・ὠφελίᾳ:基本形はὠφέλεια、名詞・女性・単数・与格、「援助」
・τῶν:冠詞・男性・複数・属格、ἀδικουμένωνに繋がり名詞化している。
・ἀδικουμένων:基本形はἀδικέω、動詞・分詞・現在形・受動態・男性・複数・属格、「不正を被った者への」
・κεῖνται:基本形はκεῖμαι、動詞・現在形・中動態・3人称複数・直説法、基本は「横たわる」という意味だが、法律に関して使う際は「制定される」という意味になる。
・καὶ:接続詞、τεと繋がった上で、前のὅσοιと後ろのὅσοιを接続している。
・ὅσοι:基本形はὅσος、関係代名詞・男性・複数・主格、従属節を形成し、καὶを通して同じくαὐτῶνに掛かる。
・ἄγραφοι:基本形はἄγραφος、形容詞・男性・複数・主格、「書かれていない」「不文律な」
・ὄντες:基本形はεἰμί、動詞・分詞・現在形・能動態・男性・複数・主格、「~ではあるが」
・αἰσχύνην:基本形はαἰσχύνη、名詞・女性・単数・対格、「恥じらい」
・ὁμολογουμένην:基本形はὁμολογέω、動詞・分詞・現在形・受動態・男性・単数・対格、αἰσχύνηνを修飾する。「皆に共感される」
・φέρουσιν:基本形はφέρω、動詞・現在形・能動態・3人称複数・直説法、αἰσχύνηνを目的語として取り「引き起こす」

解説:構造

この文章は、大きく3つに構造を分けることができます。主文と、分詞で形成された従属節、そしてἀκροάσειを核として形成された副詞句です。

・主文:τὰ δημόσια διὰ δέος μάλιστα οὐ παρανομοῦμεν
・従属節:ἀνεπαχθῶς δὲ τὰ ἴδια προσομιλοῦντες
・副詞句:ἀκροάσει + (τῶν τε αἰεὶ ἐν ἀρχῇ ὄντων & τῶν νόμων & αὐτῶν ὅσοι~)

副詞句がこの文章の大半を占めており、核となるἀκροάσειの位置が少し奥まっているので分かりにくいですが、要素を分解すればそこまで難しい文章ではありません。

逐語訳

(δὲ)個人個人で(τὰ ἴδια)人付き合いする時には(προσομιλοῦντες)制約は無い(ἀνεπαχθῶς)が、公共のこととなれば(τὰ δημόσια)、畏れ(δέος)の故に(διὰ)、公職(ἀρχῇ)に(ἐν)ある者(τῶν...ὄντων)と(τε...καὶ)、法律(τῶν νόμων)、とりわけ(καὶ μάλιστα)、不正を被った者たちへの(τῶν ἀδικουμένων)援助(ὠφελίᾳ)の為に(ἐπ᾽)制定された(κεῖνται)諸法(ὅσοι...αὐτῶν)と(τε...καὶ)、不文律(ἄγραφοι)ではあるが(ὄντες)皆に共感される(ὁμολογουμένην)恥じらいを(αἰσχύνην)引き起こす(φέρουσιν)諸法(ὅσοι)に常に(αἰεὶ)従い(ἀκροάσει)、法を破ることは(παρανομοῦμεν)決して(μάλιστα)しない(οὐ)。

※原文の出典:Thucydides. Historiae in two volumes. Oxford, Oxford University Press. 1942.


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