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YPAM、ヤン・ジェン『ジャスミンタウン』の感想|輝くダンスと言葉が交差させるアイデンティティ、ルーツ、歴史、土地

 最近、演劇やダンス、舞台作品などを以前よりも見ています。わたしは公演を見た帰りに電車の中などでその感想をツイートすることが多いのですが、せっかくなので、それらをアーカイブしておこうと思いました。というのも、自分は過去のツイートをすぐに消してしまうくせがあるから。直近のもので無事に残っていたのは、2022年12月10日にKAAT 神奈川芸術劇場で見た『ジャスミンタウン』の感想でした。
 その前に、最近だと、ウンゲツィーファの『モノリス』(10月7日|ギャラリー南製作所)、カゲヤマ気象台演出、サミュエル・ベケット原作の『QUAD』(10月10日|BUoY)、ムニの『ことばにない』前編(11月4日|こまばアゴラ劇場)、マギー・マランの『May B』(11月20日|埼玉会館 大ホール)を見ています。これらの感想もツイートしたような、しなかったような……。

 わたしは映画を見た帰りに、その感想をFilmarksに必ず書いています。でも、演劇などについてはFilmarksのようなアプリ、サービスがないので、おなじノリで感想をツイートしているわけです。
 公演を見た帰りに、電車の中で断片的に連ねる言葉は、考えを整理したり、筋道を立てたり、組み立てながらひとつの絵を描いたりする演劇評や論考というよりも、まさに「感想」というほかないもの。直前に起こった出来事、自分の目の前に差し出された身体とその動き、俳優が発する声と言葉、舞台そのものや小道具――それらを目に(耳に)した自分の頭の中からあふれ出てくるものを、だーっと、あまり精査せずに、そのままに書き連ねている「感想」。それはそれで、商業媒体で書くちゃんとしたレビューなどとはちょっとちがった、思考をそのまま切り出したかのような、「録って出し」のようなドライブ感やフレッシュさがあって、なんだかいいのではないかと思います。
 だからこそ、演劇評としては、ずいぶん不親切な内容かもしれません。演出家や劇作家、俳優の名前、プロットにすら触れないことが多いので。

 とにかく、サルベージできた『ジャスミンタウン』の感想をとりまとめて、最低限のトリートメントや加筆を少々して、ここに残しておきます。ただ、『ジャスミンタウン』の感想は短めだったので、加筆はちょっと多めだったかもしれません。



 YPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)がディレクションを、ヤン・ジェン(杨朕)がコンセプトと振付を担当した『ジャスミンタウン』をKAAT 神奈川芸術劇場で見た。あまりにもすばらしくて、序盤で早くも泣いてしまって、けっきょく最後まで涙が止まらなかった。アイデンティティ、ナショナリティ、エスニシティをめぐる、掛け値なしの傑作だと思う。

 中国や台湾などをルーツに持ちながらも、複数のアイデンティティ、ナショナリティ、エスニシティが交差する「一人たち」。老いも若きも、女も男もそれ以外も、舞台上でダンスしたり、語ったりする。彼らが踊って語ると、その身体や動きと言葉はステージの上で合流して束になって、観客の前にどばっと差し出される。そのなかで、さらに、個人史と世界史がドラマティックにクロスして、混ざっていく。彼らの剥き身の踊りが、汎アジア的な、汎太平洋的な表現になって、たくさんの土地やコミュニティを結びつけていく。その豊かさ、優しさ、温かさ。
 「一人たち」の語りや身体からは、過去や現在の暴力すらも浮かびあがってくる。いま起こっている戦争、かつて日本がおこなった侵略、あるいは本作と出演者たちのルーツである中国で起こった国共内戦、さらに新疆ウイグル自治区でおこわなれている残虐行為……。現在、日本を含む国際世界が直面している喫緊の問題である激しい米中対立も、この作品から読み取ることができる。
 しかし、『ジャスミンタウン』は、そういった暴力から、歴史、現在の諸問題、「一人たち」の小さな生活のありかたや繊細な実感まで、すべてを等しくまとめあげて、温かく抱擁してみせていた。世界各地に点在する中華街=ジャスミンタウンという、いいにおいがする騒がしくも優しい場所は、強烈に雑多な個性をそのままに、なんでもゆるして受け入れてしまうからだ。緊張感に満ちた世界、その政治情勢の中で、『ジャスミンタウン』の言葉とダンスは、まぶしいくらいに光り輝いていた。そのさまが、なんとも感動的だった。

 『ジャスミンタウン』を見ていてびっくりしたのは、横浜中華街のロックレジェンド、李世福が出ていたこと。また、『ジャスミンタウン』という作品について知るには、intoxicate誌のこのインタビューがすごくいいと思う。

 KAATを出て、本町通りを歩いて、みなとみらい線に乗って、わたしはMoment Joonの『Passport & Garcon』を聴いた。Moment Joonのルーツは韓国だけれど、この舞台を見た人にはその意味をわかってもらえるはず。

2022年12月10日、KAAT 神奈川芸術劇場
帰りのみなとみらい線の車内で

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