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景色玉

王様がベッドからがばりと起き上がりました。
そばに控えていた家来が驚いて尋ねます。
「いかがされましたか」

王様は答えます。
「うとうとしてたらまぶたにとっても懐かしくて心が浮き立つような景色が浮かんだんだ。いっしょうけんめいその景色を見ようとしたんだけど、すぐにどこかへいっちゃった」
「それは残念でございました」

なんだか子どもみたいな口のききかたをする王様ですが、白いカールしたふさふさのひげと髪の、昼間は王冠と白貂で縁取りをした赤いケープと笏を身につけた立派な王様です。

今は寝巻きの王様が家来に言いました。
「ねえ、その景色を探してきてよ」
「は。してその景色とはどのような景色でございましょう」
「それが分からないから探してって言ってるんだけど」

次の日から家来は職人に景色玉を次から次へと作らせます。
職人は熱く溶けたガラスをパイプの先に付けて息を吹き込みます。するとぷうっと丸く膨らんだガラス玉の中に様々な景色が閉じ込められて、景色玉が出来上がります。

森の中の美しいお城、砂漠、青い海や雪を頂いた高い山、きれいなお花畑、神秘的な庭園、賑やかな異国の街並み、それこそあらゆる景色の玉が生み出され、王様のもとへ届けられます。

王様は次から次へと景色玉をのぞき込み、残念そうに首をふります。

そんなある日、とうとう王様が一つの景色玉をのぞいて「あっ」と声を上げました。
周りで見ていたご家来衆もその声を聞き、いっせいに立ち上がりました。

けれどもその時、その景色玉はパリンと小さな音を立てて宙にあとかたもなく散ってしまいました。

もう一度王様は「あっ」と言いました。

ご家来衆は言います。
「どのような景色かご覧になりましたか。同じものを作らせましょう」
「それがよく見えなかったんだよ」

職人に聞いても毎日たくさん作るのでいちいち覚えていないと言います。

王様もご家来衆も、職人もがっかりしました。
そしてまた、たくさんの景色玉を作ってはのぞく毎日です。

ところで王様は気に入りませんでしたが、毎日作り出される景色玉はどれもこれも、それはそれは美しいものでした。
お蔵に入りきれなくなった景色玉があちこちにごろごろ転がっています。まず最初にお妃様の目にとまりました。

「あなた、これをひとつわたくしにくださいな」

王様は喜んでお妃様にプレゼントします。

そして大臣が自分の娘に、ご家来衆が奥方や恋人に、いらなくなった景色玉を王様からいただいてはプレゼントするようになりました。
だんだん街の人々や他の国にも評判が広がり、美しい景色玉を手に入れようとたくさんの人が王様の国を訪れ、景色玉を買っていきます。

王様の国や職人はたいそう豊かになり、街の人々も幸せそうです。

王様だけは毎日景色玉をのぞいては時々「あっ」と声を上げるのですが、どういう訳かその景色玉だけはいつもパリンと音を立てて砕け散り、やっぱり王様はその景色がどんなだかよく見ることができず、ちょっぴり悲しそうな顔をするのでした。


2021,9,5 続きのお話です





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