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これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(裁量労働制など見直し報告書)

厚生労働省の裁量労働制など労働時間制度見直しに関する検討会(正式名称「これからの労働時間制度に関する検討会」)が昨日(2022年7月15日)開催されて報告書(案)が議論したが、厚生労働省は同日(7月15日)報告書(報告書全文と概要と参考資料)を公表。この報告書概要には「(裁量労働制)対象業務の範囲は経済社会や労使のニーズの変化等も踏まえて必要に応じて検討」と。

これからの労働時間制度に関する検討会 報告書

厚生労働省は昨日(2022年7月15日)、第16回「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催し、「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書案を議論し、その日に厚生労働省は「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書(本文、概要、参考資料)を公表した。

参議院選挙投票日が7月10日の日曜日だったが、その週の金曜日に「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書を厚生労働省は公表したことになる。

裁量労働制実態調査において把握した実態等を踏まえ、裁量労働制その他の労働時間制度について検討を行うために、厚生労働省の「これからの労働時間制度に関する検討会」(座長:荒木尚志東京大学大学院法学政治学研究科教授)において検討が行われてきたところですが、本日、検討会の報告書が取りまとめられましたので、公表します。

別添1 これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(概要)
別添2 これからの労働時間制度に関する検討会 報告書
別添3 これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(参考資料)

これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(PDF)

これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(概要)(PDF)

これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(参考資料)(PDF)

○堤構成員
ありがとうございます。
裁量労働制の適用労働者に対する健康確保に関連して、今回の報告書では、労働安全衛生法の義務内容を踏まえることや、対象者の健康確保の徹底のための措置を充実させるといったこと、それから働き方改革関連法に関連する労働時間状況の把握の仕方を土台とするといったことが盛り込まれたことは大変好ましく、評価をさせていただいています。
一方、裁量労働制の適用労働者は非適用労働者に比べて平均的には労働時間は長くはないという結果ではありますが、長時間労働の割合は若干多いという点や、個々の労働者に関しては長時間労働になりやすい、それから専門型では深夜・休日労働も多いといったような事実もありますので、課題にも書かれているようなITを活用した健康確保の在り方や、働き方に対する労働時間の状況の把握、それから労働者自身が健康管理を行っていけるような支援については、できるだけ早く機能するようになることを期待しています。
また、リスクが発生する場合には、制度的に労働者の不利にならないような形で裁量労働制の適用を一時停止できることにすることについて、うまく機能することを期待したいと思います。
以上です。

第16回  これからの労働時間制度に関する検討会 議事録

裁量労働制対象業務範囲の見直し

公表された「これからの労働時間制度に関する検討会 報告書」の概要には、裁量労働制の対象業務について「現行制度の下での対象業務の明確化等による対応」「対象業務の範囲は経済社会や労使のニーズの変化等も踏まえて必要に応じて検討」と記載されている。

また、「これからの労働時間制度に関する検討会 報告書」本文には「対象業務の範囲については、前述したような経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当」と書かれている。

なお、「これまでの議論の整理 骨子(案)」(第15回「これからの労働時間制度に関する検討会」資料)には「対象業務の範囲については経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて見直される必要があるのではないか」と記載されていた。

つまり、骨子(案)では「見直される必要があるのではないか」とあったが、報告書では「その必要に応じて検討することが適当」と変えて、「見直される必要」が「その必要に応じて検討」とどちらでも解釈されるような曖昧な表現になった。

これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(本文)
第4 裁量労働制について
2 具体的な対応の方向性
(1)対象業務
○ 現行では、専門型については法令で限定列挙された業務から労使協定で、また、企画型については「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」から労使委員会決議で、それぞれ対象業務の範囲を定めることとされている。裁量労働制の趣旨に沿った運用とするためには、労使が制度の趣旨を正しく理解し、職場のどの業務に制度を適用するか、労使で十分協議した上でその範囲を定めることが必要である。
○ 対象業務の範囲については、労働者が自律的・主体的に働けるようにする選択肢を広げる観点からその拡大を求める声や、長時間労働による健康への懸念等から拡大を行わないよう求める声がある。事業活動の中枢で働いているホワイトカラー労働者の業務の複合化等に対応するとともに、対象労働者の健康と能力や成果に応じた処遇の確保を図り、業務の遂行手段や時間配分等を労働者の裁量に委ねて労働者が自律的・主体的に働くことができるようにするという裁量労働制の趣旨に沿った制度の活用が進むようにすべきであり、こうした観点から、対象業務についても検討することが求められる。
○ その際、まずは現行制度の下で制度の趣旨に沿った対応が可能か否かを検証の上、可能であれば、企画型や専門型の現行の対象業務の明確化等による対応を検討し、対象業務の範囲については、前述したような経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当である。

これまでの議論の整理 骨子(案)
(対象業務)
○ 対象業務の範囲については、労働者が自律的・主体的に働けるようにする選択肢を広げる観点からその拡大を求める声や、長時間労働による健康への懸念等から拡大を行わないよう求める声がある。裁量労働制の趣旨に沿った制度の活用が進むようにする観点から、対象業務についても検討すべきではないか。
対象業務の範囲については経済社会の変化や、それに伴う働き方に対する労使のニーズの変化等も踏まえて見直される必要があるのではないか。

これまでの議論の整理 骨子(案)(PDF)

勤務間インターバル制度と「つながらない権利」

「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書 概要には「勤務間インターバル制度について、当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進。また、いわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていく」と記載されている。

また、「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書 本文には勤務間インターバル制度については「当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進していくことが必要である」とあり、そして「海外で導入されているいわゆる『つながらない権利』を参考にして検討を深めていくことが考えられる」と書かれている。

これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(本文)
第3 各労働時間制度の現状と課題
9 その他
勤務間インターバル制度は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康確保と仕事と生活の調和を図るため、終業時刻から始業時刻までの間に一定時間の休息を確保するものであり、働き方改革関連法により、その導入が努力義務とされ、平成31(2019)年4月から施行されている。導入している企業の割合は 4.6%、導入を予定又は検討している企業の割合は 13.8%となっている(いずれも令和3(2021)年1月1日現在)。十分なインターバルの確保は労働者の健康確保等に資すると考えられ、時間外・休日労働の上限規制と併せ、その施行の状況等を十分に把握した上で検討を進めていくことが求められる。当面は、引き続き、企業の実情に応じて導入を促進していくことが必要である。

○ テレワークが普及し場所にとらわれない働き方が実現しつつあり、またICTの発達に伴い働き方が変化してきている中で、心身の休息の確保の観点、また、業務時間外や休暇中でも仕事と離れられず、仕事と私生活の区分があいまいになることを防ぐ観点から、海外で導入されているいわゆる「つながらない権利」を参考にして検討を深めていくことが考えられる。

裁量労働制見直しに関する経団連の事業方針

「これからの労働時間制度に関する検討会 報告書」本文には、裁量労働制対象業務の範囲については「労使のニーズの変化等も踏まえて、その必要に応じて検討することが適当」とある。

まず、労使のうち「使」(使用者側)の経団連だが、経団連「2022年度事業方針」(2022年6月1日公表)には「裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直し」と記載され、裁量労働制対象拡大が経団連の事業方針だということは長年にわたって主張し続けていることで、使用者側のニーズは明確。

そして、経団連が2022年5月に公表して「当面の課題に関する考え方」にも次のように記載されている。

働き方改革と人材育成
改正雇用保険法(4月1日施行)により規定された機動的な国庫繰入の実効性の確保を引き続き求めるとともに、制度の持続可能性のため、雇用保険財政再建に向けた検討を急ぐべきである。6月末まで延長された雇用調整助成金の特例措置の今後の扱いについては、雇用情勢と新型(略)ウイルスの感染状況を注視し、雇用保険財政も十分踏まえながら、慎重に検討する必要がある。
また、働き手のエンゲージメント向上に着目し、働き方改革の深化を促すとともに、イノベーションの源泉となるダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みを加速する。その一環として、テレワークの活用など多様で柔軟な働き方を推進するとともに、働き手の健康確保を前提とした裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す。
「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が4月18日に公表した2021年度報告書のフォローアップとして、大学等と連携したリカレント教育の促進や、インターンシップをはじめとした学生のキャリア形成支援活動の周知・推進に取り組む。また、大学教育改革提言(2022年1月公表)に基づき、大学をめぐる内外の環境変化等を踏まえた大学設置基準の見直しやリカレント教育の促進等を関係方面に働きかける。(経団連「(2022年5月)当面の課題に関する考え方」抜粋)

裁量労働制見直しに関する岸田内閣の方針

また、岸田内閣も「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針ん2022)を2022年6月7日に閣議決定し、そこには「裁量労働制を含めた労働時間制度の在り方について、裁量労働制の実態調査の結果やデジタル化による働き方の変化等を踏まえ、更なる検討」と書かれている。

つまり、経団連の事業方針「裁量労働制の対象拡大の早期実現等、労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直し」とあり、閣議決定の骨太方針には「裁量労働制を含めた労働時間制度の在り方について、裁量労働制の実態調査の結果やデジタル化による働き方の変化等を踏まえ、更なる検討」と記載されている。

裁量労働制見直しに関する連合の方針

内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議の第6回「子育て・教育・働き方ワーキング・グループ 」が昨年(2021年)11月22日、オンライン会議で開催。議題は「労働時間制度の在り方」。

その第6回「子育て・教育・働き方ワーキング・グループ 」の資料1「裁量労働制に対する連合の考え方」(日本労働組合総連合会<連合>提出資料)には、「『裁量労働制の新たな枠組みの構築』や既存の裁量労働制の見直しにあたっては、長時間労働防止や健康確保の観点から、適正な労働時間管理や健康・福祉確保措置の充実等こそ措置されるべきであり、対象者の安易な拡大等は認められない」と。

裁量労働制に対する連合の考え方
・裁量労働制については、業務の進め方だけでなく業務の量についても真
に裁量が認められる労働者に限ってその対象としなければ、みなし労働
時間制によって労働時間規制が事実上かからなくなり、結果として長時
間労働・過重労働を生み出すことになってしまう。
・「裁量労働制の新たな枠組みの構築」や既存の裁量労働制の見直しに
あたっては、長時間労働防止や健康確保の観点から、適正な労働時間
管理や健康・福祉確保措置の充実等こそ措置されるべきであり、対象者
の安易な拡大等は認められない。

追記:これからの労働時間制度に関する検討会報告に対する連合談話

連合は昨日(2022年7月)『「これからの労働時間制度に関する検討会」報告に対する談話』(事務局長談話)を公表し、「労働時間制度は確実な健康確保が土台であるという基本的考え方や、裁量労働制の制度趣旨に沿った運用の見直し・改善に関する提言は、労働者保護につながるものと受け止める。一方で、裁量労働制の対象業務範囲の拡大については、長時間労働是正の流れに逆行するものであり、行うべきでない」と。そして「まずは、現行制度を適正に運用することが必要であり、安易な対象業務範囲の拡大は不要である」と。

「これからの労働時間制度に関する検討会」報告に対する談話
                        日本労働組合総連合会
                        事務局長 清水 秀行1.労働時間制度の考え方や裁量労働制の適正化などの方向性が示される
7月15日、厚生労働省の「これからの労働時間制度に関する検討会」(座長:荒木尚志東京大学大学院教授)は、報告をとりまとめた。報告では、労働時間制度に関する基本的な考え方や裁量労働制の具体的対応の方向性が示された。労働時間制度は確実な健康確保が土台であるという基本的考え方や、裁量労働制の制度趣旨に沿った運用の見直し・改善に関する提言は、労働者保護につながるものと受け止める。一方で、裁量労働制の対象業務範囲の拡大については、長時間労働是正の流れに逆行するものであり、行うべきでない。

2.労働者の確実な健康確保を前提に、現行制度の適正運用を進めるべき
報告は、労働者の健康確保を確実に行うべきことを強調し、時間外・休日労働の上限規制の着実な施行や、フレックスタイム制など柔軟な働き方の制度趣旨に沿った運用の必要性を指摘している。労使の働き方のニーズが変化する中においても、現行制度の適切な活用により多様な働き方は十分に可能である。報告にあるとおり、労働時間制度は、長時間労働の是正、労働者の健康確保を基本に据えるべきであり、労使協議などを通じて適正に運用される必要がある。

3.裁量労働制の対象業務の拡大は行うべきでない
裁量労働制の運用の適正化について、報告では、健康・福祉確保措置の徹底・拡充、労使協議や労使委員会の実効性向上、健康被害が懸念される場合には適用を解除する措置などの対応策が示された。実質的に裁量がない働き方をしている者や、健康・福祉確保措置などの課題が顕在化する中、これらの対応策は労働者の健康保持、適切な裁量や相応しい処遇の確保に資するものと評価する。まずは、現行制度を適正に運用することが必要であり、安易な対象業務範囲の拡大は不要である。

4.すべての働く者の長時間労働の是正と健康確保の実現に向けて取り組む
これまでも連合は、労働者の健康・安全の確保と生活時間保障を労働時間規制の基本としてきた。長時間労働を助長しかねない裁量労働制の対象業務の拡大は行うべきでないことを強く訴えるとともに、すべての働く者の長時間労働の是正と健康確保の実現に向け、労働者保護の観点からの労働時間規制の見直しが進むよう、全力で取り組む。              以上

裁量労働制拡大に関しては経団連(使用者側)と連合(労働者側)の意見が対立しているが、今後は厚生労働大臣諮問機関・労働政策審議会(労政審)の労働条件分科会で議論されることになる。

追記:第176回 労働政策審議会 労働条件分科会

第176回 労働政策審議会 労働条件分科会が2022年7月27日に開催。議題は(1)無期転換ルールについて、(2)「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書について(報告事項)、(3)その他。

追記:第179回 労働政策審議会 労働条件分科会

第179回 労働政策審議会 労働条件分科会が2022年9月27日に開催。議題は(1)労働時間制度について、(2)労働契約関係の明確化等について。

配布資料によると、第179回 労働政策審議会 労働条件分科会では、裁量労働制の「対象業務」「 労働者が理解・納得した上での制度の適用と裁量の確保」が議論された。

資料1-1 労働時間制度に関する検討の論点について(PDF)

追記:これからの労働時間制度に関する検討会報告書に対する労働弁護団意見書

2022年10月19日に「これからの労働時間制度に関する検討会報告書に対する意見書」を日本労働弁護団が公表したが、日本労働弁護団の井上幸夫会長は「裁量労働制をはじめとする労働時間制度の見直しを検討するに当たっては、まず、長時間労働の助長や違法・濫用適用など、制度がもたらしている問題点を是正し、適正に運用するための議論を進めることが求められている」と。

これからの労働時間制度に関する検討会報告書に対する意見書<抜粋>
<略>今後、裁量労働制をはじめとする労働時間制度の見直しを検討するに当たっては、まず、長時間労働の助長や違法・濫用適用など、制度がもたらしている問題点を是正し、適正に運用するための議論を進めることが求められている。

特に、裁量労働制については、濫用の弊害が現行制度のもとですら見過ごすことのできない状況にある上、報告書が強調する柔軟な働き方へのニーズに対しても、フレックスタイム制の活用等、実労働時間規制の枠組で対応することが可能であるから、適用を拡大する方向での議論を進める必要はない。濫用防止策や健康確保措置についても、裁量労働制の適用対象業務を拡大することを正当化するために議論するということがあってはならず、あくまで現行制度を前提として、裁量労働制のもとで働く労働者を守るために議論がなされるべきである。

なお、そもそも、労働時間制度のあり方など労働法制に関する重要なテーマについては、本来、労働者代表がメンバーに加わっている場において議論しなければならないテーマであり、労働者代表が検討会委員に加わっておらず公労使三者構成の取られていない検討会においてこのような議論を進めること自体、適切とはいえない。今後、労働政策審議会等で検討を進めるに当たっては、労働者代表が関与せず作成された今回の報告書の枠組みに縛られることなく、労働者側の意見も踏まえた議論を求める。

<これからの労働時間制度に関する検討会>

「これからの労働時間制度に関する検討会」(資料・議事録など)に関する厚生労働省サイトのページ。

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*ここまで読んでいただき感謝!