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労働者以外の者に対する安全衛生対策-建設アスベスト最高裁判決対応(厚労省審議会議論に関する備忘録)-

厚生労働省・労働政策審議会安全衛生分科会

第140回 労働政策審議会安全衛生分科会
日時 令和3年10月11日(月)13:00~15:00
場所 オンラインにより開催
(中央合同庁舎5号館9階厚生労働省省議室)
(東京都千代田区霞が関1-2-2)
出席者
公益代表委員
砂金伸治、熊﨑美枝子、城内博(分科会長)、髙田礼子、水島郁子、山口直人
労働者代表委員
漆原肇、勝野圭司、佐々木弘臣、佐藤和幸、中村恭士、門崎正樹
使用者代表委員
天沼陽介、鈴木重也、出口和則、及川勝、中村節雄、増田将史
(五十音順、敬称略)
事務局
武田康久(安全衛生部長)、小宅栄作(計画課長)、安達栄(安全課長)、髙倉俊二(労働衛生課長)、木口昌子(化学物質対策課長)、長山隆志(調査官)、中村宇一(安全課長補佐)
議題
(1)事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案要綱について
(2)建設アスベスト訴訟に係る最高裁判決を踏まえた対応について
(3)第13次労働災害防止計画の実施状況について
(4)その他

建設アスベスト訴訟最高裁判決対応について(事務局説明)

議題2「建設アスベスト訴訟に係る最高裁判決を踏まえた対応について」に関して事務局(厚生労働省・小宅計画課長)より説明。

○城内分科会長
(略)議題2「建設アスベスト訴訟に係る最高裁判決を踏まえた対応について」に関して、事務局から説明をお願いいたします。

○小宅計画課長
では、資料2に沿いまして御説明をさせていただきます。1ページ目は建設アスベスト訴訟についてまとめております。石綿にばく露した労働者の方が石綿肺などの健康被害を被ったのは、国が規制権限を適切に行使しなかったためであるとして、建設業の元労働者の方やその遺族の方が、国を相手取って損害賠償訴訟を提起したものであります。本年5月17日に最高裁判決が出されまして、一人親方を含む屋内建設作業者に対する国の責任が認められたところです。
下の枠の経過の所にありますように、これは先般御報告させていただきましたけれども、こういった判決を踏まえまして、建設アスベスト被害に関する給付金についての議員立法が成立しまして、6月16日に公布されております。これの施行に向けて、今、厚生労働省として取り組んでいるところでございます。
次ページは、具体的にどういった争点があったのかということです。5つほど挙げておりますが、1点目が一人親方についての安全衛生対策です。高裁では判断が分かれていたところですが、最高裁で国の権限不行使は違法であるということです。これについて、現状はどうなっているかと言いますと、政省令では、一人親方についての対策についての明示的な規定というのはありません。
2点目の論点は、防じんマスク着用の義務付けです。これも最高裁で、国の権限の不行使は違法となっております。これについては、現状の政省令においては対応済みということになっております。
3点目は、有害性の警告表示の義務付けです。これは最高裁で国の権限不行使が違法とされております。現状を見てみますと、表示すべき内容が一部不足しているという状況です。
4点目は、石綿の製造などの禁止ですが、これについては、現状、製造等は全面禁止されておりますので、対応済みということです。
5点目は、最高裁の争点ということには明示的にはならなかったわけですが、下級審レベルで、集じん機付き電動工具の使用を義務付けるべきではなかったかという点について判断が分かれております。現状においては、そういった機械の使用義務付けというのはありません。
今回、最高裁判決におきまして国の権限の不行使は違法だとされた点については、迅速に対応する必要があるかと思っておりますので、争点の太字の所になっているもの、まだ対応できていないもの、あるいは対応すべきかどうかというところも含みますが、それについて、今後、審議会で御議論いただきたいと思っております。
少し詳しく各論点について御説明いたします。「一人親方等の安全衛生対策」です。今回の判決で具体的に問題になりましたのは、安衛法第22条、第57条です。第22条は健康障害防止のための措置を講じなければならないというもの。それから、第57条ですと、労働者に危険を及ぼすおそれのある物、あるいは健康障害を生ずるおそれのある物について、包装、容器などにその名称ですとか人体に及ぼす作用等々について表示しなければならないという規定があります。これが労働者以外の、例えば一人親方にも適用があるのかというのが争点でした。
判決ですが、第57条につきましては、こういった危険物を取り扱う方に健康障害を生ずるおそれがあるという物の危険性に着目した規制であって、その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られないということを考慮すると、所定事項の表示を義務付けることにより、その物を扱う者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当であるとされております。
この部分のなお書として、次の○の所があるのですが、そもそも安衛法は、1条において、職場における労働者の安全と健康を確保することを目的として規定しており、安衛法の主たる目的が労働者の保護にあることは明らかであるが、同条は、快適な職場環境の形成を促進することをも目的に掲げているものであるから、労働者に該当しない者が、労働者と同じ場所で働き、健康障害を生ずるおそれのあるものを扱う場合に、安衛法57条が労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難い、という一般論を述べております。
3つ目、第22条の関係ですが、これにつきましても、特別管理物質を扱う作業場という場所の危険性に着目した規制であって、その場所において危険にさらされる者が労働者に限られないことなどを考慮すると、特別管理物質を扱う作業場における表示を義務付けることにより、その場所で作業する者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である。この次に、2つ目の○と同様のことが簡潔に書かれております。
そういったことから、結論として、当時の労働大臣が上記の規制権限を行使しなかったことは、安衛法第2条第2号において定義された労働者に該当しない者との関係においても、安衛法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法第1条1項の適用上違法だというようにされたというものです。
これを踏まえまして、皆様にこれから議論いただきたいものをまとめております。論点の、今後の規制のあり方に関する基本的な考え方としまして、最高裁判決で安衛法第1条の目的において、快適な職場環境の形成を法の目的としていることを述べた上で、具体的な争点となった第22条や第57条に関して、①物の危険性に着目したもの、それから、②場所の危険性に着目した規制については、労働者以外の方も保護する趣旨との考え方が示されております。
2つ目の○ですが、事業者に、現在、安衛法に基づいて義務付けている措置につきましては、物の危険性や場所の危険性に着目した規制について、どのように見直していくべきかということです。ただし、かなり幅広い分野に影響が及ぶ可能性のあるものでありますので、まずは今回判決で言及されました第22条と第57条について考え方を整理して、規制の見直しを検討することとしてはどうか、そういう進め方ではどうかと考えております。
具体的には、次のページですけれども、現状のところの整理をここでいたしまして、第22条については先ほど見ていただいたとおりです。2つ目の○ですが、こういった規定に基づきまして、安衛則、有機則、特化則、電離則などの多数の省令が定められております。これらの個別の省令を見ますと、事業者に対する措置については、労働者に限定して義務付けているものが多いのですけれども、必ずしも明文上、限定していないというものもあります。労働者に限定して義務付けられているものを、どのように見直すことが適当かというのが論点になろうかと思います。
次ページに、具体的に、今、どのようになっているかというと、対象が労働者に限定されているものとしては、例えば有機則の第5条ですと、「労働者を従事させるときは」とか、第25条も「労働者を従事させるときは」というようなこと、こういうことが明示的に労働者向けなのだというものが分かるように、第32条ですと、労働者に送気マスクを使用させなければならないということで書かれています。
一方、その下の、対象が労働者に限定されていないものは、第577条ですと「事業者は」とありますけれども、誰に対してという言葉は入っておりません。また、第585条につきましても、表示ですが、誰のためにとは書いていないところです。
具体的に、では、どういうことが論点になるかということを次ページ以降で整理しております。少しページが飛びますが、11ページの所の絵でイメージ図を作っています。ここはいろいろなことが想定されるのですが、今回の判決を踏まえて、例えば建設現場においてということで考えてみるという、モデル的なものです。これで全てのケースが言い尽くされているわけではございません。例えばS社という元方事業者がいた場合、現行法上ですと、その下請指導ですとか協議組織の設置・運営、作業間の連絡調整、作業場所の巡視等が法令上義務付けられています。
例えば、S社からA社という1次下請に危険有害業務が発注されている場合を考えてみますと、この危険有害業務について従事する労働者、赤い労働者については、A社で保護措置を具体的に講じる必要があるということになっています。例えばA社から、一部がB社に2次下請に出されているということであれば、今度はB社の労働者、青い労働者の方については、B社が保護措置を具体的に講じるということになります。
ただ、A社から一人親方に一部の作業が請負で出されている場合ですと、誰かが措置義務を負うということではない、これが現行の整理です。また、危険有害業務ではない業務に、同じ作業場内で従事している場合、下のほうの赤い労働者の方については、A社のほうで一定の措置義務がかかっているということです。これが何らかの形で雇用関係のある労働者の方についての整理です。
それから、斜めになった楕円で書かれている所が雇用関係にない場合です。危険有害業務をやる一人親方は先ほど申し上げたとおりですけれども、それ以外の別の業務、危険有害業務とは別の業務をやっている一人親方がたまたまそこにおられたらと、あるいは別の業務をやっているC社の労働者の方がおられた場合はと、あるいは、そもそもC社の社長は労働者ではありませんので、どうなるのかと。それから、一時的に来る資材搬入業者などというのも想定されますし、あるいは見学者のような方も入って来るということが想定されます。この場合、先ほどありましたように、その場所の危険性ですとか、物の危険性という意味では、危険にさらされる可能性があるということを一応幅広く捉えると、このくらいのことが想定されるかと思われます。
こういったことを踏まえて、論点は3つほどあるかと思っています。1つは、対象者をどこまで含めるのかということです。1つは、危険な業務を行う場合、自社の労働者、他社の労働者、他社というのは、先ほどの絵で言うと青い方になりますが、そこには一定の保護措置が現行法上も課されていると。ただ、他社の事業主とか個人事業主の方は掛かっていないと。それから、上記①以外で危険な業務をやっている場合、行われている場所にいる、一見、有害業務をやっているわけではないけれども、ほかの業務でいらっしゃる方については、現行のような整理になっております。これがどなたまでを保護対象としているかというときの考えられるいろいろな論点かと思います。
2つ目は、どのような保護措置が想定されるかということです。これは次の論点とも関係してくるかと思いますが、例えば現行の保護措置を考えますと、危険性に関する掲示や表示とか、保護具の使用とか、あるいは危険有害業務のそばで別の作業をしている方ですと、やはり表示とか、立入禁止、事故発生時の退避や保護具の使用などというのが、今の雇用労働者に関する規制を参考とすれば、考えられる範囲かなということで挙げております。
3つ目、保護措置は誰に行わせるべきかということです。この2点目のどのような措置というのも、誰に行わせるかということと関係して決まってくる部分があろうかと思いますので、この2つは特に関係が深いかと思いますけれども、誰に行わせるべきかというのがあるかと思います。
この際、個人事業主の方の保護が課題となる具体的場面として、どのようなものがあるかというのを念頭に置いて、具体的に議論する必要があろうかと思います。aとしまして、危険有害業務が労働者と個人事業主の混在で、同じ業務を同じ場所でやっているというような場合、bは、別の業務だけれども、同一の作業場で労働者と個人事業主が並行して同じ場所でやっているという場合、あるいはそれぞれの場合において、労働者がいなくて一人親方だけがたまたまやっている時間帯があるという場合も想定されるかと思いますが、そういうときはどうなるのか。危険有害業務が行われている作業場に、当該業務とは関係のない方が立ち入る場合、先ほどの絵で言いますと、資材搬入業者ですとか、見学者の方とか、そういった方については労働安全衛生法はどうなのかと。
2つ目のポツですが、具体的に誰にというときに、作業の実態に即した危険性や安全確保措置についての知見なども必要かと思われますけれども、そういった知見を誰が持っているのか、情報を得やすいのは誰かというようなところもポイントになってこようかと思います。
3つ目のポツは、一人親方のほかに、労働者の方もいらっしゃるわけで、それぞれ独自の対策というよりは整合的な措置が講じられるということが必要な場面もあるのではないか。こういった論点も踏まえて検討していく必要があるのではないかということで、こういったことに着目しながら、御議論、御意見を頂ければと思っております。
2つ目の検討が必要な事項として、「有害性の警告表示の義務付け等関係」です。ここは、例えば今の石綿則の第34条2号におきましては、人に及ぼす作用などを表示するということになっておりますが、判決で言いますと、論点の所にありますとおり、これでは不足しているのではないかというようなことが言われておりますので、その点は判決を踏まえて充実させる必要があるのかなと考えております。
3点目、「集じん機付きの電動工具の使用義務付け関係」です。ここは最高裁で明確にこうだという判決があったわけでもありませんし、下級審レベルでも判断が分かれているところですけれども、議論があったということで、この際、検討してはいかがかということです。ただし、集じん性能付きの機械につきましては、現時点においてJIS規格等もありませんし、多種多様の商品が市場に流通しているということですので、まず現時点においては、集じん性能の実態調査とか調査研究というものをまずはしていく段階かなということで、そういうことをした後で、義務付けの要否等々については議論していくという進め方でいかがかということです。説明は以上でございます。

建設アスベスト訴訟最高裁判決対応について(委員質問・意見)

議題2「建設アスベスト訴訟に係る最高裁判決を踏まえた対応について」に関して委員の質問・意見。

○城内分科会長
本件について質問、意見等のある方は御発言がある旨、チャットに書き込みをお願いします。

○勝野委員
勝野です。まず、今回、5月17日の建設アスベスト訴訟における最高裁判決を踏まえて、厚労省として法令を含めた見直しを行っていくための検討が提起されたことについては、歓迎の意を表したいと思います。先ほど御説明のとおり、最高裁判決の中で重要な点は、安全衛生対策について、雇用された労働者ではない、いわゆる一人親方等も明確に保護対象になる、こういう考えが示されたことだというように思っております。資料5ページにありますとおり、安衛法の目的は労働者かどうかということではなくて、扱っている物の危険性や場所の危険性に着目した規制を行った上で、作業する人や取り扱う人を保護すべきというような趣旨でありますので、それに沿った見直しが必要という考えには同意をいたします。
その上で、今後の論点として、安衛法関連条文の、対象が労働者に限定されているものとか、されていないものの例示を示して、8ページでは、どこまでを保護対象とするのか、こうした提起がされておりますが、私自身は、このように細かく分けて保護対象にするのかどうかといったような論議をしていくと、こういった場合はどうするのかといったような、特例だとか例外措置ばかりの非常に細かな論議になっていってしまうような気がいたします。そういう意味で、論議自身が袋小路に陥ってしまうのではないかというように思っております。
最初に言ったとおり、最高裁判決で示されたことは、物や場所の危険性に着目するということでしたので、これを素直に受け入れ、尊重して、例えば現場に入場し従事する人、取り扱う人を対象に、同等の保護措置を講じていけばいいというように考えます。以上です。

○城内分科会長
ありがとうございました。続いて、鈴木委員、お願いいたします。

○鈴木委員
最高裁判決を踏まえ、他社の事業主や一人親方も保護の対象に含めるべきか検討することについては、時宜にかなった取り組みと考えております。ただし、委員の間でのイメージのすり合わせを行った上で、今後、議論を深めてまいりたいという思いから、何点か質問と意見を述べさせていただきたいと思います。
質問の1点目は7ページに関するものです。安衛法第22条に基づく省令の規定例を見ますと、屋内作業場等での措置を明記する条文もあれば、場所を明記していない条文もございます。労働者以外の方に対する保護措置を示した11ページの作業場のイメージ図、先ほど計画課長から建設現場を想定して作られたというお話がありましたが、ここで言う作業場とは、屋内に必ずしも限定したものではなく、個々の省令の条文ごとにその範囲は異なるということを、事務局の厚生労働省として想定しているのか確認させていただきたいと思います。
質問の2点目は、10ページの保護措置の主体に関するものです。先ほど勝野委員から保護の客体についてお話がありましたが、私からは主体についての質問をさせていただきたいと思います。1つ目のポツは、危険有害作業を請け負う企業を想定し、2つ目のポツは、危険有害作業が行われる作業の敷地やそこに設置されている設備等を所有・管理する企業を想定していると受け止めました。
そこで質問です。例えば、工場で常時蒸気が発生している場所があり、そこに設置されている設備を修繕する場合、局所排気装置等の設置という保護措置の主体は、当該工場を運営する企業になるのではないかと受け止めました。他方、作業そのものによって初めて蒸気が発生する場合には、一般的には、当該作業を請け負う企業が危険性に関する知見や情報を有するので、保護措置の主体になると考えられるように感じたところです。このような理解で厚生労働省として提案されているのか、事実確認をさせていただきたいと思います。
最後に意見を申し上げます。9ページに記載のように、想定される保護措置は幾つかありますが、例えば保護具の使用について、一人親方等に着用を呼び掛けることは可能だと思いますが、着用を義務付けることは、実際問題として難しいようにも感じます。実効性確保の観点から、措置内容の範囲については慎重な議論が必要ではないかと考えております。
同様に、事故発生時の退避についても措置内容が議論の対象になっております。事故発生時の退避は、ケース・バイ・ケースで難しい部分もありますので、結果責任につながらないことを前提にしていただきたい。あわせて、措置の主体については、退避判断が可能な主体が誰かという観点も含めて、慎重な議論が必要ではないかと思った次第です。私からは以上でございます。

○城内分科会長
ありがとうございました。続いて、佐藤委員、お願いいたします。

○佐藤委員
労働側の佐藤でございます。私からは資料8ページの具体の論点、「労働者以外の者について、どこまでを保護対象とするか」に関して意見を申し上げます。計画課長からも御説明がありましたが、安衛法第22条で言う、事業者が措置を講じるべき対象は労働者に限定されておりません。最高裁判決でもそうした見解が示されております。①の当該危険な有害作業を行う者については、個人事業主や請負先の方も含めて、その作業を行う者は労働者でなくても保護対象とすべきだと考えますし、②の、上記①以外で当該危険有害の作業が行われている場所にいる者についても、その者が危険有害な作業に従事していなかったとしても、作業するに当たり、危険有害な作業が行われている場に立ち入る必要があるとすれば、ばく露等の危険性があるわけですから、こうした従事者も保護対象とすべきと考えております。
関連して、民法第715条では、使用者等の責任について、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」とされていることにも留意が必要ではないかと考えております。危険有害業務が行われている場で作業などをすることで何らかの危険が生じるのであれば、判決の趣旨を踏まえ、安衛法上の保護の対象を拡大する必要があるというのが労働側の立場、意見でございます。以上です。

○城内分科会長
ありがとうございました。続いて、門﨑委員、お願いいたします。

○門﨑委員 労働側の門﨑でございます。私からは意見と質問を3点ほど述べさせていただきます。まず、意見ですが、8ページ以降について、労働者以外の者で、少なくとも危険有害な作業を行う者については、現行法で労働者について義務付けられている措置と遜色ない保護が必要だと考えております。責任は誰が負うかということは別としても、安衛法の保護対象を労働者だけに限っていては、今回の判決が示した趣旨が果たせなくなっているのではないかと考えているところです。
次に質問ですが、今後の分科会での議論のスケジュール感というか、今回は最高裁判決の争点であった安衛法第22条と第57条、これについて改正を行うということですが、今後、それにあわせて関連する箇所の修正なども検討を行っていくという理解でよろしいでしょうか。また、先ほどの佐藤委員の質問にも関連しますが、民法第715条の使用者等の責任又は労働契約法第5条に安全配慮義務がありますけれども、これと今回の検討との関係はどうなっていくのか、その辺を教えていただきたいと思います。私からは以上でございます。

○城内分科会
ありがとうございました。それでは、ここまでの御発言に対して、事務局からお願いします。

○小宅計画課長
まず、勝野委員からは、今後の検討に当たっての御意見としまして、保護対象について幅広くということだったかと思います。
鈴木委員からの御質問の1点目ですが、屋内・屋外作業を明記している条文があります。今回の11ページの絵ですと、屋内作業のイメージですけれども、御指摘のとおり条文ごとにいろいろなパターンが想定されておりますので、条文の解釈ごと、条文ごとに、その範囲が屋内、屋外いろいろあり得るのだろうと考えております。
2点目の御質問で、措置義務者について、その作業者なのか、それとも機械等の所有者、設備等の保有者なのかというような論点かと思いますが、そもそも労働安全衛生法におきまして、それぞれの作業者が責任を負うべき条文、それから、保有者が負うべき条文というのがありますので、それがベースになってくるのだろうと思います。雇用労働者に対する措置内容があって、それと見比べてどうなのかという議論になってくるかと思います。
それから、御意見という形でしたけれども、例えば保護具の着用などについて、呼び掛けることはできるとしても、義務付けは実際に難しいという御指摘がありました。それから、対象についても、実効性の担保というような観点からの御指摘があったかと思っております。
佐藤委員からは、対象者の範囲について幅広くということがありました。それから、門﨑委員とも同意見でしたけれども、民法との関係についても留意すべきであるということ。
門﨑委員からは、労働契約法第5条との関係如何ということでした。労働契約法におきます安全配慮義務というのは、一律にというよりは、個別具体のところの話になってきますので、それぞれの条文に照らして、どこまでやっていただくかという具体的な議論をしていただくことになるのかと思っております。
それから、質問としまして、スケジュール感の話がありました。先ほど申しましたとおり、第22条、第57条については、明確に違法性というのが言われておりますので、まず、そこについて御議論いただきまして、それから、関連するところも、今後やっていくのかということに関しては、そのように考えております。以上でございます。

○城内分科会長
そのほか何か御発言はありますでしょうか。

○中村(節)委員
中村から発言よろしいですか。議題2に関して、1点、要望がございます。この度の最高裁判決において、安衛法の考え方が、「物の危険性及び場所の危険性に着目した規制として、労働者以外の者も保護する趣旨」と示されたことは、アスベストへの対応のみならず、他の危険有害作業へも関連する内容と受け止めています。本件の議論に当たり、危険有害作業については、建設現場のみならず、製造現場など、多様な現場が想定されることからも、それぞれの現場の実態を丁寧に把握した上で、議論することが必要と考えます。
事務局へのお願いですが、今後、「保護対象とするべき範囲」及び「誰に保護措置を行なわせるべきか」といった、具体的な論点を検討するに当たっては、危険有害物質を取り扱う業界団体をはじめ、関係する団体からのヒアリングなどにより、現場の実態を丁寧に調査した上で、その結果をお示しいただきたくお願いいたします。以上です。

○城内分科会長 ありがとうございました。そのほか御発言等はありますでしょうか。ありがとうございました。本議題については、議論が継続していくものと理解しています。今後ともよろしくお願いいたします。
次に議題3「第13次労働災害防止計画の実施状況について」に関して、事務局から説明をお願いします。

第140回労働政策審議会安全衛生分科会議事録(厚生労働省サイト)

第140回労働政策審議会安全衛生分科会資料(厚生労働省サイト)

労働者以外の者に対する安全衛生対策(委員意見)

「労働者以外の者に対する安全衛生対策」に関する委員意見(第141回労働政策審議会安全衛生分科会資料より)。

前回(第140回)の主なご意見
(保護対象者の範囲関係)
○ 保護対象者を細かく分けて議論するのではなく、判決の物や場の危険性という考え方を踏まえて、現場にいる全ての人を対象に、同等の保護措置を求めるべき。
労働者以外の者も、幅広く対象に入れるべき。

(保護措置の内容・措置義務者関係)
○ 誰に措置義務を課すのかという点については議論があるところだが、労働者以外についても、労働者に義務付けられているものと同等の保護措置を行うべき。
○ 保護具の着用について、労使関係のない事業者が、一人親方等に着用を義務付けるのは難しいのではないか。
○ 退避措置について、労使関係のない事業者について、一人親方等の退避という結果についての責任を負わせることについては慎重に検討すべき。
○ 民法第715条(使用者等の責任)や労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)にも留意して議論する必要がある。

(その他)
○ 現場の実態も含めての検討が必要であり、関係業界団体などからヒアリングを行い、その結果を報告頂きたい。

資料1 建設アスベスト訴訟に関する最高裁判決等を踏まえた対応について(PDFファイル)

労働者以外の者に対する安全衛生対策(業界意見)

「労働者以外の者に対する安全衛生対策」に関する業界意見(第141回労働政策審議会安全衛生分科会資料より)。

建設アスベスト訴訟に関する最高裁判決等を踏まえた対応に関する業界の意見について(令和3年11月1日、労働基準局安全衛生部)

今回の検討に当たり、一人親方が多く働いている建設業関連の主要4団体と、検討対象となる有害物を製造し、又は取り扱う化学工業を代表する団体の意見をとりまとめた。

(建設業関係団体)
・建設労務安全研究会(労研)
※ 建設労務安全研究会(略称:労研)は、建設業界の労務安全衛生管理及び専門工事業者の指導・育成等、関連する諸問題の調査・研究を行い、関係省庁及び関連団体との連携をはかり、建設業の資質の向上・改善を目的とし活動する建設会社等をメンバーとする団体
・(一般社団法人)日本建設業連合会(日建連)
・(一般社団法人)全国建設業協会(全建)
・(一般社団法人)住宅生産団体連合会(住団連)

(製造業関係団体)
・(一般社団法人)日本化学工業協会(日化協)
労働者以外の者に対する安全衛生対策
(検討対象とする法令の範囲について)
<意見>
○ 建設事業者に対して自ら雇用する労働者以外の者に対する措置義務を負わせるための法令改正は、建設事業者の責任範囲を大幅に拡大させるとともに、建設現場における安全衛生管理に多大な影響を及ぼすおそれがあるため、より時間をかけた丁寧な検討が必要不可欠である。【日建連・全建・労研】
○ 検討対象とする法令の範囲については、建設現場の実情を十分に踏まえた上で慎重に決定していくべきであり、建設事業者に重大な責任を負わせる法令改正を拙速に一括して行うことには反対である。【日建連・全建・労研】
○ 最高裁判決を踏まえた対応策については、判決で指摘された範囲内に限定することを基本とすべきであり、判決の趣旨を斟酌して徒に検討範囲を拡大させるべきではない。【日建連・全建・労研】
○ 最高裁判決は、物の危険性や場所の危険性に関する「表示」又は「掲示」については「労働者以外の者も保護する趣旨」である旨を判示したものであり、「表示」又は「掲示」以外の事項については見直しの必要性自体について十分に検討する必要がある。【日建連・全建・労研】
○ 対象となる物質によって人体への影響、作業内容、場所など異なるため一律に規定する事は難しい。個々に丁寧な対応が必要であり、短期間で行う内容ではない。まずは石綿対して検討し、その後、そのノウハウを用いて他の物質に対して検討したらどうか。【住団連】
○ リスクアセスメントが義務化されているものだけに限定したらどうか。【住団連】

(保護対象者の範囲について)
<意見>
○ 建設現場では、一人親方だけではなく他社の事業主等本来であれば事業者としての措置義務を負う者も混在して稼働しているため、保護対象者の範囲については予め明確に定めておく必要がある。【日建連・全建・労研】
○ 建設現場では警備や測量等建設事業以外の作業に従事する労働者が数多く就労している。それら労働者については雇用主である警備会社や測量会社が基本的な措置義務を負うことになるが、有害業務を行っていることを理由として雇用主以外の建設事業者に対しても措置義務を負わせることとする場合には、それぞれが責任を負う範囲を明確に整理しておく必要がある。その際には、雇用主ではない建設事業者の責任範囲は必要最小限にとどめることを基本とすべきである。【日建連・全建・労研】
○ 運送事業者に雇用される労働者又は事業主自らが建設資材等の搬入・搬出作業を行うため一時的に建設現場内に立ち入ることは日常的に行われている。運送業務に従事する者など、場所的又は時間的に限定された状況下で建設現場に出入りする者については、有害な作業が行われている場所に立ち入る可能性の有無等作業実態を十分に踏まえた上で検討していく必要がある。【日建連・全建・労研】
○ 一人親方を安全衛生法令の保護対象に位置付ける方向で検討が進められているが、一人親方の定義が曖昧なまま検討を進めるべきではない。本来一人親方は個人事業主であり、請け負った仕事に対し自らの責任で完成させることができる技術力と責任感を有し、現場作業に従事する個人事業主であるべきである。個人事業主等(一人親方含む)も安全衛生法令の措置義務者になり得ると考えるべきである。【全建】

<現場の実態>
○ 化学工業において、定期修理等では、規模の大小に関わらず一人親方も業務を行っているが、
一人親方も統括管理体制の下に入っている。【日化協】

(措置義務者について)
<意見>
○ 厚生労働省が第140回労働政策審議会安全衛生分科会に提示した資料2の中の「最高裁判決を踏まえた対応(イメージ図)」に記載されている「下請指導、協議組織設置・運営、作業間の連絡調整、作業場所の巡視等」は、特定元方事業者に措置義務を課した安衛法第30条に規定されている事項である。元請の統括管理責任が関係請負人の労働者以外の者にまで及ぶということになれば、最高裁判決の趣旨を逸脱した過剰な対応になりかねないものと危惧している。【日建連・全建・労研】
○ 安衛法上の措置義務者については、労働者を使用する事業者が負うとする条文だけではなく、最高裁判決が指摘した第57条のように事業者以外を措置義務者としている条文も少なくない。そのため、自らが雇用する労働者以外の者を保護対象とする措置義務者を定める際には、措置義務の具体的内容と照らし合わせて条文ごとに個別に検討していく必要がある。当初から有害業務を行う建設事業者にすべての措置義務を負わせるという前提で検討を行うべきではない。【日建連・全建・労研】
○ 建設現場内の同一場所で有害業務を行う建設事業者は複数存在するのが一般的である(1次下請と2次下請、複数の2次下請など)。措置義務者を同一場所で有害業務を行っているという要件のみで定めた場合には、複数の措置義務者が併存し責任の所在が曖昧になる懸念が生じる。また、有害業務を行う建設事業者のうち直接請負契約を締結している相手方等に限定した場合には、注文者責任を負う者を最先次の元請以外にも拡大する結果を招くことになる。いずれにしてもどのような要件に該当する建設事業者が措置義務を負うのか予め明確に定めておく必要がある。【日建連・全建・労研】

<現場の実態>
○ 工事毎に、作業を行うメンバーを確定させている。A社(1次下請)が主体となり事前に危険予知シートを作り、作業内容、保護具などKYを実施して作業にかかる。【日化協】
○ プラントに入る前に、S社(元方事業者)が主体となり、全員にプラント教育をしている(送り出し教育という。)。併せてA社も全員に対して安全教育を実施している。【日化協】
○ 電気、土建、機械などが工事をそれぞれに発注するが、それらをまとめて統括体制を組む。プラントの中では統括体制は1本である。【日化協】
○ S社(元方事業者)は、化学プラントにおける(有害物質の漏洩などのリスクのある)危険箇所は、関係者以外立ち入り禁止にし、弁当の配達、郵便などの業者に対し、動線を管理し、危険な作業現場を通らせず、見学者は、基本的に安全なところしか入れない。【日化協】

(保護措置の内容等について)
<意見>
○ 石綿等の有害物による健康障害の危険がある作業場所で就労する者を対象とする保護措置(表示又は掲示)に限定して検討すべきであり、最高裁判決の対象となっていない範疇にまで踏み込むべきではない。【日建連・全建・労研】
○ 保護措置の対象を自らが雇用する労働者以外の者にまで拡大させた上で罰則をもって事業者に履行を強制するということになれば、建設業界に与える影響は甚大であり、罰則を適用する必要性については十分に検討すべきである。【日建連・全建・労研】
○ 行政指導により事業者に対し自主的な取組みを促すことも有効な施策となり得るはずである。実際に建設現場では一人親方等も対象とした安全指導が元請の自主的な判断で行われている。法令改正のみに囚われることなく一人親方制度をどのように整備していくべきかといった点なども加味した総合的な検討が求められていると考えている。【日建連・全建・労研】
○ 建設事業者の措置義務の範囲を拡大させることになる場合には、どのような措置を講じていれば法違反とはならないかなど、具体的な措置義務の内容及び程度等について明確に示す必要がある。【日建連・全建・労研】
○ 労働者を対象とした掲示を同一場所で就労する労働者以外の者も対象にした掲示とすることは、従来から行ってきた取組みの延長線上にあるとも考えられるが、従来から労働者を対象に講じてきた措置とは別の措置を新たに義務付けるといった対応は極力避けるべきである。【日建連・全建・労研】

<現場の実態>
○ 化学工業界では、請負に工事を発注するときに、元方事業者は、使用すべき保護具も含めて作業の危険性や必要な措置などの情報を提供するのが通常である。【日化協】
○ 保護具については、長期契約の場合は、契約時に具体的な保護具を伝え準備してもらうが、短期や臨時の業者が入ってくる場合は、S社側(元方事業者:発注側)で保護具を用意し、それを使わせるのが通常である。【日化協】
○ 請負業者に対しては、化学メーカー側(S社;元方事業者)で工場におけるルールに関する説明を行っている。【日化協】
○ 現場管理について、大きな定期修理等では、A社に安全統括管理者がいて、現場全体の安全管理(下請に対する指導や巡視など)を行うのが通常である。【日化協】
○ 作業者に対して、適正な保護具を使いなさい、と元方事業者(S社)も1次下請事業者(A社)も注意喚起している。【日化協】
○ 放射線発生源の場合、Xm離れろ、と決まっている。元方事業者(S社)が指導している。【日化協】
○ 元方事業者(S社)が、安全指示書を工事発注の際に作る。その作業の必要な保護具の一覧も載せている。これを基に、 1次下請事業者(A社)が施工に向けて安全の手順書をつくる。オペレーション部門(S社設備運転)、技術部門(S社の工事担当)、実際に工事を請け負うA社の3者で工事に関する情報をやり取りし、安全対策を作る。【日化協】

(労働者以外の者に求める事項について)
<意見>
○ 安衛法第22条は事業者に対して健康障害を防止するための措置義務を課しているが、同法第26条では「労働者は事業者が第22条の規定に基づき講ずる措置に応じて必要な事項を守らなければならない」旨を定めている。また、安衛法第26条に違反した場合には同法第120条により50万円以下の罰金に処せられることになっている。事業者と雇用関係にある労働者でさえ罰則付きの遵守義務が課せられていることを鑑みれば、一人親方や他社の事業主等を保護対象に加えることになる場合には、それらの者が遵守すべき事項についても予め明確に定めておくべきである。【日建連・全建・労研】
○ 一人親方や他社の事業主等は自ら安全と健康を確保すべき義務を本来負っているものと考えることが出来るため、安衛法第26条により労働者に義務付けられている遵守義務を下回るようなレベルの対応は行うべきではない。【日建連・全建・労研】
○ 事業者である一人親方や中小事業主に対しても、石綿除去作業に従事した記録を法律上の保管期間として定義し、自己の作業においての安全配慮に関し整備すべきである。【住団連】

<現場の実態>
○ S社(元方事業者)は、化学プラントにおける(有害物質の漏洩などのリスクのある)危険箇所は、関係者以外立ち入り禁止にしている。立ち入り禁止区域外でも、各エリアで必要な保護具などを指定し、エリア管理を実施している。【日化協】
〇 弁当の配達、郵便などの業者に対し、動線を管理し、危険な作業現場を通らせない。それでもヘルメットと安全靴等は使用させる。【日化協】
〇 見学者は、基本的に安全なところしか入れない。必要な保護具の着用は実施する。【日化協】

資料2 建設アスベスト訴訟に関する最高裁判決等を踏まえた対応に関する業界の意見について(PDFファイル)

第141回労働政策審議会安全衛生分科会資料(厚生労働省サイト)

第141回労働政策審議会安全衛生分科会議事録

第141回労働政策審議会安全衛生分科会議事録は現時点(2021年11月18日)時点では未公開。そのため議論内容は不明だが、議事録は次の厚生労働省サイトのページに公開される予定。

労働政策審議会・安全衛生分科会(厚生労働省サイト)

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*ここまで読んでくださり感謝。(佐伯博正)