見出し画像

裁量労働制見直しと労働基準法改正と厚生労働省検討会ー裁量労働制拡大は?ー

厚生労働省の裁量労働制など労働時間制度見直しに関する検討会(正式名称:これからの労働時間制度に関する検討会)の第8回検討会が本日(2022年1月17日)開催されるが、昨年(2021年)12月に開催された内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議の資料によると、厚生労働省は「これからの労働時間制度に関する検討会」議論を加速し、裁量労働制を見直す(つまり労働基準法を改正する)方針。だが、厚生労働省は裁量労働制対象(適用)拡大を含む裁量労働制見直し(労働基準法改正)なのか、明らかにしていない。

裁量労働制対象(適用)拡大と経団連要望

日本経済新聞が社説(「生産性向上へ裁量労働制を広げよう」、2021年6月30日配信)で「仕事の時間配分を働き手が決められる『裁量労働制』の拡大に向けた議論がようやく再開する。厚生労働省の調査データの不備が原因で2018年に頓挫していたが、改めて実施した調査結果がまとまった。厚労省は時間の空費を自省し、待ったなしの改革ととらえて議論を迅速に進めるべきだ」と主張。日本経済新聞は「厚労省は時間の空費を自省し」と辛らつなことを書いていた。

厚生労働省は昨年(2021年)6月25日、裁量労働制実態調査結果を公表したが、1日の平均労働時間は、裁量労働制は9時間で、適用されない人の8時間39分より長かったし、また、あらかじめ定めた『みなし労働時間』より長く働いていることも判明した。そして厚労省は(2021年)7月にも有識者検討会を設置し制度の見直しに着手すると報じられていた。

「改訂 Society 5.0の実現に向けた規制・制度改革に関する提言-2020年度経団連規制改革要望-」を2020年10月13日に経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)が公表したが、その「Ⅲ.2020年度規制改革要望」「2.テレワーク時代の労働・生活環境の整備」に「企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し」などが要望として記載されている。

No. 44. 企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し
<要望内容・要望理由>
労働基準法は、企画業務型裁量労働制の対象を「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」と定めている。
しかしながら、経済のグローバル化や産業構造の変化が急速に進み、企業における業務が高度化・複合化する今日において、業務実態と乖離しており、円滑な制度の導入、運用を困難なものとしている。
そこで、「働き方改革関連法案」の審議段階で削除された「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を早期に対象に追加すべきである。

<根拠法令等>
労働基準法第38条の4

2020年10月の経団連要望には「『働き方改革関連法案』の審議段階で削除された『課題解決型提案営業』と『裁量的にPDCAを回す業務』を早期に対象に追加すべき」とある。

だが、この「課題解決型提案営業」「裁量的にPDCAを回す業務」を付け加えて裁量労働制対象拡大しようとする案は2018年2月28日に安倍晋三首相(当時)は「働き方改革関連法案」から削除して一度は断念している。

日本経済新聞の社説「裁量労働制を広げよう」は、2018年に働き方改革関連法案から削除された「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を裁量労働制対象に追加すべきとする2020年度経団連要望に追従するものであろう。

上西充子教授「裁量労働制を問い直せ」
上西充子・法政大学教授は岩波書店『世界』2018年5月号に寄稿された「裁量労働制を問い直せ」の中で「どちらも対象業務が曖昧で、幅広く適用されるおそれがある」と記載して裁量労働制対象(適用)拡大案の問題点を指摘していた。

そして上西充子教授は、前者については「あらゆるホワイトカラー労働者が適用対象に含まれる可能性がある」、また後者については「法人相手の営業職は、すべて対象とされると考えて良いだろう」との嶋崎量弁護士の指摘を紹介。

2018年に閣議決定した裁量労働制に関する答弁書
厚生労働省は新たな検討会「これからの労働時間制度に関する検討会」を設置し、再び裁量労働制対象(適用)拡大議論が始まる。

この議論において、最も懸念すべきは2018年2月6日に閣議決定した「契約社員や最低賃金で働く労働者にも適用可能」とする答弁書。嶋崎量弁護士も「注意すべきは、年収要件がないこと、雇用形態に制限がないことだ」と指摘していた。

企画業務型裁量労働制が予定している適用対象者は、企業の中枢にいるホワイトカラー労働者だ。
ただ、注意すべきは、年収要件がないこと、雇用形態に制限がないことだ。(嶋崎量『「働き方改革」に含まれる猛毒・裁量労働制の「本当の姿」と「あるべき姿」』2018年2月28日)

この嶋崎量弁護士の言葉を明確にしているのが、2018年2月6日に安倍政権が閣議決定した「衆議院議員山井和則(希望)提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」になる。

「衆議院議員山井和則(希望)提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」には「企画業務型裁量労働制の対象労働者についての賃金、労働契約の期間、雇用形態、勤続年数及び年齢に関する要件はない」と記載されている。まさに上西充子・法政大学教授の「対象業務が曖昧で、幅広く適用されるおそれがある」との指摘を明確に裏付けるものとなっている。

企画業務型裁量労働制の対象労働者についての賃金、労働契約の期間、雇用形態、勤続年数及び年齢に関する要件はないが、労働基準法第三十八条の四第一項の規定により、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であること等が必要であり、これらの要件に該当する労働者に限り、企画業務型裁量労働制を適用することができる。
また、法案要綱においては、「対象業務に従事する労働者は、対象業務を適切に遂行するために必要なものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する知識、経験等を有するものに限るものとすること」とされており、これを企画業務型裁量労働制の対象労働者の要件として定めることを検討中である。さらに、新対象業務に係る企画業務型裁量労働制についても、当該要件を満たすことを必要とすることを検討中である。(衆議院議員山井和則君提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」抜粋、2018年<平成30年>2月6日)

衆議院議員山井和則君提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書(衆議院公式サイト)

規制改革実施計画 (2021年6月18日閣議決定)
2018年の安倍政権閣議決定「裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」から(前政権)菅政権に話を映すと、2021年(令和3年)6月18日、菅政権は「経済財政運営と改革の基本方針2021」「規制改革実施計画」を閣議決定した。

まず「経済財政運営と改革の基本方針2021」「第2章 次なる時代をリードする新たな成長の源泉 ~4つの原動力と基盤づくり~」「5.4つの原動力を支える基盤づくり」「(5)多様な働き方の実現に向けた働き方改革の実践、リカレント教育の充実(フェーズⅡの働き方改革、企業組織の変革)」には次のような記載がある。

(前略)労働時間削減等を行ってきた働き方改革のフェーズⅠに続き、メンバーシップ型からジョブ型の雇用形態への転換を図り、従業員のやりがいを高めていくことを目指すフェーズⅡ の働き方改革を推進する。

ジョブ型正社員の更なる普及・促進に向け、雇用ルールの明確化や支援に取り組む。裁量労働制について、実態を調査した上で、制度の在り方について検討を行う。(後略)

また「規制改革実施計画」「Ⅱ 分野別実施事項」「5.雇用・教育等」「(4)多様で主体的なキャリア形成等に向けた環境整備」には次のように記載されている。

(4)多様で主体的なキャリア形成等に向けた環境整備
No.5 
事項名:社会経済環境や雇用慣行などの変化を踏まえた雇用関係制度の見直し
規制改革の内容:a  厚生労働省は裁量労働制について、現在実施中の実態調査に関して、適切に集計の上、公表を行う。その上で、当該調査結果を踏まえ、労働時間の上限規制や高度プロフェッショナル制度等、働き方改革関連法の施行状況も勘案しつつ、労使双方にとって有益な制度となるよう検討を開始する。
実施時期:a 令和3年調査結果公表、調査結果が得られ次第検討開始
所管府省:厚生労働省

規制改革実施計画 (令和3年6月18日閣議決定)(PDF)

規制改革実施計画には、裁量労働制 について「労使双方にとって有益な制度となるよう検討」とある。学者の方々ばかりがそろった有識者会議「これからの労働時間制度に関する検討会」で、労使双方にとって有益な制度となるよう検討することが可能だろうか、疑問が残る。

田村(前)厚労大臣と厚労省・労働政策課長発言

田村(前)厚生労働大臣会見
厚生労働省による裁量労働制実態調査結果が公表された昨年(2021年)6月25日の朝、厚生労働省内会見室で田村憲久・厚生労働大臣記者会見が行われた。その会見において、裁量労働制に関して記者から次のような質問が行われ、田村厚生労働大臣は次のように回答している。

記者:本日、裁量労働制の実態調査に関する専門家検討会が予定されています。裁量労働制の適用拡大は、2018年に「働き方改革関連法」で対象者の範囲を拡大する方針だったのですが、当時の実態調査がずさんだったことが問題になって断念した経緯があります。新たな実態調査を踏まえ、厚労省として今後も裁量労働制の適用拡大を目指すのか。議論のスケジュール感も含めてお願いします。

大臣:本日16時から開催いたします、「裁量労働制の実態調査に関する専門家検討会」ここで調査結果を公表する予定であります。
ここでご議論いただいて適正ということになれば、これを基に、次にどういう検討をしていくかという話になると思いますが、既に一度検討いただいた上で法案として提出をして取り下げたという経緯がございます。
その時のいろいろな議論の経緯、こういうものも踏まえて今度新たな調査が出てまいりましたので、その調査を踏まえてまた議論をいただかないといけないと思います。今、いつ議論の結論を得るかというところまでは考えてはおりません。
当然、その議論の中でいろいろなご議論が出てくるわけでありまして、それに合わせてどのような形にしていくべきかということを決めてまいりたいと思っております。(厚生労働省公式サイトより)

田村厚生労働大臣の裁量労働制に関する発言を整理すると次のようになる。

1 裁量労働制調査結果を踏まえて議論をしないといけない。
2 6月25日時点では、いつ議論の結論を得るかというところまでは考えていない。
3 裁量労働制適用(対象)拡大については今後の議論の中でいろいろな意見が出てくると推察している。
4 裁量労働制適用(対象)拡大の議論において、いろいろな意見が出てくるが、「それに合わせてどのような形にしていくべきか」を決めてたい。

労働基準局労働条件政策課長発言
また、厚生労働省の黒澤朗・労働基準局労働条件政策課長は「裁量労働制の方が時間が長いというのが正しい実態だ。結果を踏まえ、制度全般を幅広く議論していく」と述べている(毎日新聞デジタル版「裁量労働制、適用者の勤務時間長く 厚労省調査 制度見直し」2021年6月25日配信)。

労働条件政策課長の考えは「結果を踏まえ、制度全般を幅広く議論していく」ということらしいが、「幅広く議論していく」という表現が曖昧で理解しがたい。

これからの労働時間制度に関する検討会

昨日(2021年)7月19日、厚生労働省労働基準局は新たな検討会(有識者会議)として設置された「これからの労働時間制度に関する検討会」を新たに開設。

第1回 これからの労働時間制度に関する検討会
第1回「これからの労働時間制度に関する検討会」は2021年7月26日、労働委員会会館講堂にて開催されたが、議題は(1) 裁量労働制に関する現状等について、(2)その他。

これからの労働時間制度に関する検討会 開催要綱
2021年7月19日に労働条件分科会資料のページに公開された「これからの労働時間制度に関する検討会開催要綱」によると、新たに設置された検討会の趣旨・目的は次のとおり。

1.趣旨・目的
労働時間制度については、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)により、罰則付きの時間外労働の上限規制や高度プロフェッショナル制度が設けられ、働く方がその健康を確保しつつ、ワークライフバランスを図り、能力を有効に発揮することができる労働環境整備を進めているところである。

こうした状況の中で、裁量労働制については、時間配分や仕事の進め方を労働者の裁量に委ね、自律的で創造的に働くことを可能とする制度であるが、制度の趣旨に適った対象業務の範囲や、労働者の裁量と健康を確保する方策等について課題があるところ、平成25年度労働時間等総合実態調査の公的統計としての有意性・信頼性に関わる問題を真摯に反省し、統計学、経済学の学識者や労使関係者からなる検討会における検討を経て、総務大臣承認の下、現行の専門業務型及び企画業務型それぞれの裁量労働制の適用・運用実態を正確に把握するための統計調査を実施したところである。当該統計調査で把握した実態を踏まえ、裁量労働制の制度改革案について検討する必要がある。

また、裁量労働制以外の労働時間制度についても、こうした状況を踏まえた在り方について検討することが求められている。

このため、裁量労働制その他の労働時間制度について検討を行うことを目的として、「これからの労働時間制度に関する検討会」(以下「本検討会」という。)を開催する。

つまり「これからの労働時間制度に関する検討会」は「裁量労働制その他の労働時間制度について検討を行うこと」を目的とし、「裁量労働制の在り方」と「その他の労働時間制度の在り方」を検討事項としている。

2.検討事項
本検討会においては、次に掲げる事項について検討を行う。
・ 裁量労働制の在り方
・ その他の労働時間制度の在り方

これからの労働時間制度に関する検討会 委員名簿
「これからの労働時間制度に関する検討会」参集者(委員)名簿についても開催要綱(別紙)に掲載されている。

これからの労働時間制度に関する検討会
参集者名簿
荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
小畑史子 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
川田琢之 筑波大学ビジネスサイエンス系教授
黒田祥子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
島貫智行 一橋大学大学院経営管理研究科教授
堤 明純 北里大学医学部教授
藤村博之 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授                       (敬称略・五十音順)

荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授は、東京大学公式サイトによると、関心分野は労働法、比較労働法、労働政策、担当授業科目は労働法、比較労働法、所属学会は日本労働法学会、国際労働法社会保障法学会、労使関係研究協会、日独労働法協会、公的活動等は東京都労働委員会公益委員(2002~2013)・会長(2012~2013)、中央労働委員会公益委員・会長代理(2017~)、労働政策審議会労働条件分科会公益委員(2001~2013、2015~)・会長(2017~)、国際労働法社会保障法学会理事(2006~)・副会長(2009~2012、2018~)。

小畑史子・京都大学大学院人間・環境学研究科教授は、京都大学公式サイトによると、研究分野は労働法、労働環境法、所属学会は日本労働法学会。

川田琢之・筑波大学ビジネスサイエンス系教授は、筑波大学公式サイトによると、担当科目は労働法、研究分野は社会法学、所属学会は日本労働法学会。

黒田祥子・早稲田大学教育・総合科学学術院教授は、早稲田大学公式サイトによると、所属学会は行動経済学会、日本経済学会。

島貫智行・一橋大学大学院経営管理研究科教授は、一橋大学公式サイトによると、研究分野は人的資源管理論、所属学会は日本労務学会、組織学会、日本経営学会。

堤明純・北里大学医学部教授は、北里大学公式サイトによると、研究テーマは職業性ストレスの健康影響とその予防に関する研究、労働者の健康の社会格差のメカニズムの解明と制御に関する研究。

藤村博之・法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授は、法政大学公式サイトによると、所属学会は日本労使関係研究協会、社会政策学会、日本キャリアデザイン学会など。

第7回 これからの労働時間制度に関する検討会
これからの労働時間制度に関する検討会の第7回検討会が昨年(2021年)12月16日)開催されたが、議題は「これまでの裁量労働制等に係るヒアリング概要について」「年次有給休暇の概要及び現状について」「これまでの議論を踏まえた主な論点について」。この第7回検討会の資料は次のとおり。

資料1-1 企業からのヒアリング概要について(PDF)
資料1-2 労働組合からのヒアリング概要について(PDF)
資料1-3 労働者からのヒアリング概要について(PDF)
資料2-1 年次有給休暇制度の概要等(PDF)
資料2-2 年次有給休暇の現状について(PDF)
資料3-1 主な論点(案)(PDF)
資料3-2 これまでの構成員の主なご意見(PDF)

第7回検討会資料3-1は「主な論点(案)」には次のように記載されている。

主な論点(案)
○それぞれの労働時間制度の意義をどう考えるか
○裁量労働制が、その制度の趣旨を踏まえたものとなるための方策についてどう考えるか
・労働時間、健康・福祉確保措置、処遇・評価
・対象業務、対象労働者、本人同意、同意の撤回
・集団的労使コミュニケーション、導入後の運用 等
○年次有給休暇(時間単位年休を含む)の取得促進の在り方についてどう考えるか
○経済社会の変化、デジタル化による働き方の変化、(略)禍等による労働者の意識変化の中、アフター(略)の働き方を見据えた労働時間制度等についてどう考えるか

第7回検討会資料3-2は「これまでの構成員の主なご意見」(「構成員」とは検討会委員の有識者)。

これまでの構成員の主なご意見
<総論(制度の意義等)>
○個々の労働者が自らの知識、技術や創造的な能力を活かして具体的な成果に反映させていくことが求められる業務における、自由度の高い働き方に対応した制度の在り方という視点で考えていくことが必要。そのような自由度の高い働き方は、適切な制度の下で行われると、働く側、企業・事業者双方にメリットがあるのではないか。
○裁量労働制のほかに、管理監督者あるいは高度プロフェッショナル制度、フレックスタイム制、事業場外労働に対しても、例えば、テレワークみたいなものを視野に入れると、その他の裁量的な働き方との関わりはそれなりに深いので、そのような制度も視野に入れた上で全体として内容的にも適切で、全体的な整合性の取れた制度を考えるという視点が大事ではないか。
○裁量労働制の位置づけを労働時間制度の全体の中で考えていく必要がある
のではないか。労働法上の位置づけや整理とは別に、企業の立場からすると、裁量労働制は様々な労働時間管理の中の一つのオプションであり、どういう人にこの裁量労働制を使ってほしいのか、フレックスタイム制度よりもさらに自由度の高い働き方であるなど、労使に対して裁量労働制の位置づけを分かりやすく示す必要があるのではないか。
○裁量労働制の趣旨としては、労働者自身の健康状態に合わせることができる、また、家庭の事情などに合わせることができるという意味で、マイペースを大事にする労働者にとっても魅力的な制度ではないか。
○労使ともに裁量労働制の本来の趣旨をちゃんと理解し、きちんと使っているところと、少し逸脱してしまっているところがあるのではないか。本来の裁量労働の働き方とは違う働き方を強いられている人たちに対して、何らかの支援、ある種の歯止めをかけていく必要があるのではないか。
○働き過ぎによる健康被害の防止という点はしっかり確保する、その中で効率性の高い働き方を実現していく、濫用的な使い方に適切な規制をかけるといった点などが重要ではないか。メリットがあること、大きなデメリットを生じさせないようにするというところを意識することが必要ではないか。
○対象になる労働者に関する要件、裁量性の要件が特に重要ではないか。自由度が十分に発揮できなくなる可能性なども視野に入れた上で裁量性の要件
を考えるとともに、健康確保措置の在り方、賃金等についての額や決め方な
ども検討の対象ではないか。
○手続に関しては、集団的な合意の枠組み、個別的な同意の枠組み、記録の作成・保存、関係する様々なものの行政機関への届出、周知などが課題ではないか。
○今後は、(略)前には想定していなかった大きな変化が現在の労働市場に起こっていることを踏まえた上で、どのような法制度の整備が必要になるかを考えていく必要があるのではないか。

<労働時間>
○健康を害するような労働時間にならないように、そういうことが起こらない制度を基本に考えていくことが大切ではないか。
○みなし時間制度、とりわけ、裁量労働制のみなし時間制度の場合は、実労働時間ではなくてみなし労働時間制を取ることによって、自由度の高い働き方を認めようという考え方から導入されたことは念頭に置くべきではないか。

<健康・福祉確保措置>
○労働者の健康確保については、労働者自身も、正しい知識、認識、自律的な行動が必要ではないか。
○健康確保を行っていくことと労働生産性の向上は必ずしも背反しないので
はないか。

<処遇・評価>
○労働意欲、モラルといったものも労働者の健康と関連するということが分かっており、例えば、一生懸命頑張っているが十分な評価が得られないといったことが心身の不調が発生するストレス要因になることが示されている。健康問題に関わることとして、正当な評価がなされるかどうかという視点もあるのではないか。
○本来割増賃金を支払うべき労働時間を経営側が減らしたいというときに、裁量労働制が使われているという実態も一部あるようであり、その点をどう考えるのかも課題の一つではないか。
○裁量労働制の特別手当というものがどういう趣旨の手当なのかという整理
が必要ではないか。
○裁量労働制の労働者の不満の内容が、みなし時間と実働で乖離があり、その分の割増賃金をもらっていないということなのか、そうでないのかということが重要ではないか。
○裁量労働制の理解の仕方がいろいろと違っているようだ。時間外手当の簡便な払い方を可能とする制度だと理解して、実働時間に対する時間外労働は幾らとなるかを逐一チェックすることなくざっくり決めることを許容する制
度と受け取る向きもある。これは実働時間に比例して割増賃金が支払われる
べきことを前提としているが、もともと裁量労働制を導入したときには、時
間比例で賃金を支払うのが合理的でない働き方に対して、時間の縛りを取り
払ったほうが労使双方にとってよい制度となるのではないかという議論で
あった。裁量労働というのはどういう目的の制度なのかということを改めて
確認する必要があるのではないか。

<集団的労使コミュニケーション>
○ 自由度の高い柔軟な働き方の導入過程について、この導入過程をうまく進めないと、そのあとで柔軟な働き方を現場で実践するのは難しいのではないか。裁量労働制に関しても、経営にとっては生産性が向上する、労働者にとってはワーク・ライフ・バランスが実現するといった双方にとってのメリットは指摘されているが、そもそも裁量労働制を何のために導入するのかというところが、労使の間できちんと合意できていないといけないのではないか。

<導入後の運用>
○ 労働時間管理の重要なところは職場での運用段階ではないか。実際に職場も変わるし、取引先も変わる、仕事の内容も変わっていくという中で、事前の想定とは違った状態になったときにそれをチェックできる、それに気づいて是正していく仕組みが必要ではないか。例えば裁量労働制であれば、当初想定されていた裁量が実現できていない、あるいは想定していた労働時間を超えているなど、そういったことを把握したら放置せず、適用対象から除外する、そして問題を解決したらまた戻すなど、運用段階でのチェックとその改善策が必要ではないか。

規制改革推進会議「子育て・教育・働き方」WG

内閣総理大臣諮問機関(新)規制改革推進会議のワーキング・グループ(WG)の一つに「子育て・教育・働き方ワーキング・グループ(WG) 」が設置されていた。

この子育て・教育・働き方WG(第4、6、7回)で裁量労働制 など労働時間制度について昨年(2021年)議論された。説明者は経団連や連合幹部、厚労大臣や副大臣や審議官。また専門委員には労働法の水町勇一郎氏ら。このWGの議事録は内閣府サイトに公開されている。

第6回 子育て・教育・働き方ワーキング・グループ
内閣府規制改革推進会議「子育て・教育・働き方ワーキング・グループ 」(第6回)、2021年11月22日、オンライン会議で開催。議題は「労働時間制度の在り方」。

公開された資料は「資料1 裁量労働制に対する連合の考え方(日本労働組合総連合会<連合>提出資料)」。

裁量労働制に対する連合の考え方
・裁量労働制については、業務の進め方だけでなく業務の量についても真
に裁量が認められる労働者に限ってその対象としなければ、みなし労働
時間制によって労働時間規制が事実上かからなくなり、結果として長時
間労働・過重労働を生み出すことになってしまう。
・「裁量労働制の新たな枠組みの構築」や既存の裁量労働制の見直しに
あたっては、長時間労働防止や健康確保の観点から、適正な労働時間
管理や健康・福祉確保措置の充実等こそ措置されるべきであり、対象者
の安易な拡大等は認められない。

第7回 子育て・教育・働き方ワーキング・グループ
内閣府規制改革推進会議「子育て・教育・働き方ワーキング・グループ 」(第7回)、2021年12月1日、オンライン会議で開催。議題は「労働時間制度の在り方」および「労働市場における雇用仲介制度の在り方」。

この第7回WGの資料1は「裁量労働制実態調査を踏まえた裁量労働制の検討状況等について(厚生労働省提出資料)」。

資料1 裁量労働制実態調査を踏まえた裁量労働制の検討状況等について(厚生労働省提出資料)(PDFファイル)

新WG「人への投資ワーキング・グループ」
昨年(2021年)12月開催の規制改革推進会議資料「当面の規制改革の実施事項案」30頁に「労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し」との項がある。この項は3節「『人』への投資 」の中に記載されており、裁量労働制見直し については新たなワーキング・グループ「人への投資ワーキング・グループ(WG)」に引き継がれることになる。

この新WG「人への投資ワーキング・グループ」の委員・専門委員は次のとおり。

人への投資ワーキング・グループ(新WG)
(委員)大槻奈那、菅原晶子、中室牧子、本城慎之介
(専門委員)宇佐川邦子、工藤勇一、鈴木俊晴、水町勇一郎、森朋子

旧WG(子育て・教育・働き方)と新WG(人への投資)を比較すると、大槻奈那、菅原晶子各委員が再任、中室牧子委員、本城慎之介各委員が新任。また、宇佐川邦子、工藤勇一、鈴木俊晴、水町勇一郎、森朋子各専門委員全員が再任。

新たに選ばれた中室牧子委員は経済学者・慶應義塾大学総合政策学部教授、本城慎之介委員は学校法人軽井沢風越学園理事長・楽天グループ創業者の1人で元楽天グループ株式会社取締役副社長。

規制改革推進会議・当面の規制改革の実施事項案

また、昨年(2021年)12月開催の規制改革推進会議資料「当面の規制改革の実施事項案」には裁量労働制などの労働時間制度に関する厚生労働省有識者会議(正式名称「これからの労働時間制度に関する検討会」)での裁量労働制の見直し議論を加速するようにと記載されている。

つまり、資料「当面の規制改革の実施事項(令和3年<2021年>12月22日)」3.「人」への投資のエ 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し(30頁)に今後の裁量労働制見直しの方針とスケジュールが記載されている。

当面の規制改革の実施事項
3.「人」への投資.
エ 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し
【a:令和4年度(2022年度)中に検討・結論、結論を得次第速やかに措置、b:令和4年度(2022年度)検討開始】
a 厚生労働省は、働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備を促進するため、「これからの労働時間制度に関する検討会」における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる。
b 厚生労働省は、労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)上の労使協定等に関わる届出等の手続について、労使慣行の変化や社会保険手続を含めた政府全体の電子申請の状況も注視しつつ、より企業の利便性を高める方策を検討し、必要な措置を講ずる。

当面の規制改革の実施事項 令和3年 12 月 22 日 規制改革推進会議(PDF)

規制改革実施計画(2021年6月閣議決定)と比較
昨年(2021年)6月18日、菅政権は「経済財政運営と改革の基本方針2021」「規制改革実施計画」を閣議決定したが、「規制改革実施計画」「Ⅱ 分野別実施事項」「5.雇用・教育等」「(4)多様で主体的なキャリア形成等に向けた環境整備」には次のように記載されている。

(4)多様で主体的なキャリア形成等に向けた環境整備
No.5 
事項名:社会経済環境や雇用慣行などの変化を踏まえた雇用関係制度の見直し
規制改革の内容:a  厚生労働省は裁量労働制について、現在実施中の実態調査に関して、適切に集計の上、公表を行う。その上で、当該調査結果を踏まえ、労働時間の上限規制や高度プロフェッショナル制度等、働き方改革関連法の施行状況も勘案しつつ、労使双方にとって有益な制度となるよう検討を開始する。
実施時期:a 令和3年調査結果公表、調査結果が得られ次第検討開始
所管府省:厚生労働省

「当面の規制改革の実施事項」(2021年12月22日、規制改革推進会議)と「規制改革実施計画」(2021年6月18日、閣議決定)において記載された裁量労働制に関する記述を比較すると、次のようになる。

つまり、6月18日閣議決定・規制改革実施計画では「労使双方にとって有益な制度となるよう検討を開始する」(ここに「労使双方にとって」と記載されていることを忘れてはいけない。)としか書かれていなかったが、12月22日・当面の規制改革の実施事項には労働時間制度(特に裁量労働制)の見直しについては「『これからの労働時間制度に関する検討会』における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる」と詳細な記述がされた。

なお、当面の規制改革の実施事項(12月22日)と規制改革実施計画(6月18日)とで共通する表現は「労使双方にとって有益な制度となるよう」検討になる。

規制改革推進会議WG厚労省審議官発言
規制改革推進会議「当面の規制改革の実施事項」には、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しは「令和4年度(2022年度)中に検討・結論、結論を得次第速やかに措置」となっている。

そして「『これからの労働時間制度に関する検討会』(厚生労働省の裁量労働制など労働時間制度に関する有識者会議)における議論を加速し、令和4年度(2022年)中に一定の結論を得る」と記載された。

規制改革推進会議(内閣総理大臣の諮問機関)第7回「子育て・教育・働き方ワーキング・グループ(WG)」(2021年12月1日にオンライン開催)の議論の中で、大槻WG座長の「大体年度(2021年度)内に、これは検討会(これからの労働時間制度に関する検討会)の議論をまとめるという形の理解でいいのでしょうか。今後のスケジュールについて教えてください」との質問に対し、厚生労働省の青山審議官は「今(12月1日時点)、ヒアリングを重ねておりまして、現状の分析という状況でございまして、確かに在り方の議論というのは、裁量労働制、その他の制度も視野に入れたものを含めてやっていきますけれども、まだ、スケジュールは見通せていないというのが正直なところです」と回答。

この12月1日のワーキンググループでの議論を経て、「当面の規制改革の実施事項(令和3年<2021年>12月22日)」への「令和4年度(2022年度)中に検討・結論、結論を得次第速やかに措置」との記載に。

○大槻座長
当面のところで、検討会(これからの労働時間制に関する検討会)について教えていただきたいのですけれども、2つありまして、先ほど検討会のこれまでのところの議論ということで、例として出た意見として、働き過ぎ防止、濫用、それから健康等についてということで、どちらかというと保守的だなという感じで聞いていたのですけれども、これについて、裁量労働制を入れたために、先ほどの論点でもありますけれども、効率が上がったですとか、そういったポジティブな意見もあったのではと推測するのですが、そこら辺について教えていただきたいというのが1点です。
もう一つは、今後のスケジュールなのですけれども、先ほどもお示しいただいたように、ヒアリング、もともとの予定を見ましたら3から4回ぐらいヒアリングということで、もう4回やられているので、ここから先は、裁量労働制に対応に関する個別の論点と、その後に、柔軟で自立的な働き方を可能とする労働時間制度についてということで議論されると理解しています。
月1ぐらいでやっているということが、大体年度内に、これは検討会の議論をまとめるという形の理解でいいのでしょうか。今後のスケジュールについて教えてください。

○厚生労働省(青山審議官)
1点目のこれまでの構成員の御意見でございます。まだ、調査を確認していることと、ヒアリングをした段階なので、まだ、構成員の中で十分に議論はされていないと思いますけれども、ポジティブな意見がなかったということではないと認識しております。先ほどの調査にもありましたとおり、満足度は、そんなに高い人が少ないわけではなかったということもあって、基本的には、趣旨に沿って活用すれば、効果的なものであるという、それなりの認識は、構成員にあるのかなと、私も議論を聞いていて思います。
先ほど、構成員の議論を紹介する最後に、自由度の高い働き方というのは、適切な制度のもとで行えば可能という御意見を紹介しましたが、そういう御意見は、構成員の皆様の中で、そんなに異論はないように感じております。
その上で、課題があったところを中心に紹介してしまったところですが、それにしても不満とかの部分を見ると、健康被害とか、濫用といったところは対応していかないと、制度の本質が達成されないと、まだ、今の段階ですけれども、聞いております。
スケジュールでございますけれども、恐縮でございます、今、ヒアリングを重ねておりまして、現状の分析という状況でございまして、確かに在り方の議論というのは、裁量労働制、その他の制度も視野に入れたものを含めてやっていきますけれども、まだ、スケジュールは見通せていないというのが正直なところです。

つまり、裁量労働制は「趣旨に沿って活用すれば、効果的なもの」であり、また、「自由度の高い働き方」(言い換えると「柔軟な働き方」)というのは「適切な制度のもとで行えば可能」という意見が、裁量労働制に関する検討会(これからの労働時間制度に関する検討会)委員(構成員)の認識であって、その共通認識のもとで幾つかの課題を解決する方向で議論し結論を導くようにするということであろう。

ただし、連合や野党から反対されている裁量労働制対象(適用)拡大を含めた裁量労働制見直し(労働基準法改正)にするかどうか、厚生労働省はこの時点においても明確にしていない。と言いうよりも「ふれたくない」「かくしている」と言った方が的確かも知れない。(2022年1月17日 佐伯博正)

<記事投稿者プロフィール>

*ここまで読んでいただき心より感謝!