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彼女の色

ワクワクってどうやるんだっけ
ドキドキってどういう気持ちだっけ

感情を忘れるためにかけたフィルターは
何枚何十枚いろんな色を重ね
カラフルだった心はいつしか
限りなく黒に近くなった

「どうしたの?」
柔らかい笑顔で見つめる彼女に声をかけた
「桜の花びら持ってきてくれたの?」
僕の肩にそれはついていて
「手にしてみたいかなって思って」
桜を彼女の指にそっと乗せる
咄嗟に出た言葉だった

「触りたかったの、ありがとう」
そういって満面の笑みを浮かべる

梅雨のある雨の日に会いに行ったとき
彼女は大変驚いていた
「まぁ、今日はお友達と一緒?」
そういって僕の肩にいた蛙に人差し指を伸ばし
指先に乗せ「はじめまして」って、ご挨拶をする
どうも、俺の肩にはいろんなものがついてくる
僕は紹介してあげたんだ
「僕の友達のぴょん吉です」って
彼女は大笑いしていた

昨日はわざと僕の肩に
小さなてんとう虫のブローチを付けていった
とてもリアルでこれならずっと居られると思って

彼女はすぐに気づいてくれた
だけどベッドから起き上がることは出来なくて
てんとう虫を指さして微笑んだ
「そう、友達が増えたんだ。てんとう虫のてんちゃんです」
そう言って、ブローチを彼女の病衣へつけた

彼女は笑って撫でていた
これでずっと一緒だねって心の中で囁く

今日からもう会いに行けない
5年通ったここに俺はもう来ることはない

15年かけて限りなく黒に近かった
幾重にも重なるフィルターは
彼女の優しさで一枚ずつはがされ
たったの5年で彼女と同じ
優しい色になっていた

彼女との笑い声がまだ耳に響く
どこまでも広く美しい青い空は
彼女からのプレゼントのよう
青と白のコントラストの空を見上げる
涙と感情があふれ出ることを恐れず

僕の心に花を咲かせる


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