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016 ブックレビュー『越境芸人』

読書は、タイミングが大事だと思っています。

なんとなく読書を楽しんでリラックスするのも大事だと思っていますが、僕のスタンスは「インプット欲求」が起きた時に読書です。目的意識を持って読むとか、目標設定でガチガチするのでなくあくまでも「自分の初期衝動」を見逃さないことです。

だから、僕は「積読」をある意味、読書とも据えています。それは、たとえ帯と目次だけしか読んでいなくても、「初期衝動」があったから購入した訳です。無駄ではないんです。「インプット欲求」がその本には詰まっているのです。

だいたい、数ヶ月後とかに、あっ!読みたいっていう気持ちがまた湧いてくるので、そこで読み始めるのでいいかと思ってるんです。結果、全く読みきってない本はない状態が僕の今です。最長は1年前とかに買った本とかも読んだりします。全てタイミングだな~と。

前置きが長くなりました。今回の本。積読3ヶ月以上は経ってました。

「越境」という言葉。3~4年前から、「越境EC」や「越境マーケ」など有望なビジネスモデルとして注目を集めていたと思います。そんな「越境」のバイアス満点の僕にとっては、もうタイトルからして興味津々。

きっかけは、安定の僕のブックコンシェルジュE氏のおすすめですが、個人的なタイミングとしても合致でした。

昨年末から弊社では、事業部を統合する組織変更、席替えをしてコミュニケーションの総量をアップさせるといったフラットな体制を目指し、クリエィティブの質を上げる施策を打ち出しました。

まさしく、そこには「越境クリエイター」というテーマがあり本書とがっつりシンクロしたのです。もう読むしかないと、、、。

ってな感じで読み出したのですが、、、もう、ある意味難書でなかなか進まないんです。250Pで、そこそこの文字数ですが、それにしても全然ページが進まないんです。

で、1/5くらい読んで積読状態に、、、

ただ、数ヶ月経った時に第二の衝動がありました。放映中のドラマ「面白南極料理人」にマキタさんが出演してるじゃないですか!しかもそのドラマは、友人の脚本でして、、、「これはなんかの縁!」だと誰にも理解されない完全な自己完結で再び読み出しました。そこからは、どんどん読んじゃいました。

一応、なぜ読み進めるのが大変かを考えたんです。
で、答えは、、、

「例え話やプチ情報がおもしろすぎて前に進まない」。

余韻を噛みしめたいっていうやつです。テーマの選定が絶妙で早く結論にいきたいのですが、それ以上に前段の思考や比喩が最高で、その構成に慣れないとうっかり1テーマ(1.5~2P)を読み終えるのに5分以上かかるんです。

さらに、6年半にわたってのTVブロスでの連載をまとめた一冊なので1テーマの重厚感が半端ないんです。そら、毎回、お味よく完結する連載がまとまってるわけですから、本全体の起承転結は薄まるのかと。

じゃあ「読みにくい本なのか?」と聞かれると答えはノーです。ただ、読む前にマキタさんのロジックとエモーションを紐解いておくとかなりサクサク読めるかと思いますし、何よりも読むのが更に楽しくなります。(あくまでも本書からの見解ですので悪しからず。)

では、まずロジックな部分。
最後の方のページに掲載されている「構造と文脈」というテーマで、マキタさんは「自分は「構造」に興味ある」と言っています。と同時に「世の中の人は文脈ばかり、、、」といった持論も展開しています。

このマキタさんの観点は、本書全て、いやマキタさんの頭の中を理解するのにとても役立ちました。最初に知っておきたかったくらいです。(ちなみに、ここで出てくるエロの例えは秀逸!割愛しますが、、、)

ディテールをいじり笑いをとる文章や言葉選びが成り立つのは、虫の眼だけでなく鳥の眼、すなわち「構造」を見ているからなのです。あちこちで、このアプローチは見つかります。

そしてもう一方のエモーショナルな部分。
当たり前ですが「はじめに」の内容を読み取ると見えてきます。文体が変わりますが「終わりに」も同じようなことが書かれていました。

引用すると、、、

「〝そこに定住している人”からしてみたら非常にいい加減な存在に見えるかも知れない~、、、違うんです。そうするしか方法がなかったら、、、」

芸人、ミュージシャン、作家、ラジオDJ、俳優などなど、越境して活動をするしか自分が成り立たなかったという意味です。

更に引用すると、そこには
「日々の固定化された決まりごと、なるべく動かしたくない慣習、疑いようのない定式。その「どうして?」が許されない世界に侵入していく。」

「何でも取り入れられる一見いい時代は、一体何が何やらわからないのが本音。日本史上これほど、生き方を自分で決めていい、材料もいっぱいあることは稀、、、」

このマキタさんの社会の反応や人間の行動を「構造」的に考えるとこういった思いが芽生えたんではないでしょうか?個人的には、とても共鳴しました。これは決して天の邪鬼でなないと思いますしパンク的の反抗の裏返しでもなく、明確なカウンターカルチャーでもない。

「越境」という言葉が
やはりふさわしい考え方だと思いました。

グロバール視点やビジネス界では、「レス」という言葉が台頭しています。垣根がないということ、ボーダーレス、ジェンダーレスなどなどです。より俯瞰で見ると、そういった構造的にもマキタさんの存在を表す「越境」は適切な選択だったと思いました。

内容の解説に入る前に、かなり書き込んでしまい反省していますが、ここからは、後編的なノリで印象深かったテーマをピックします!

「バカ・エンタメ」
世間は支配する側とされる側。被支配者は支配する側にまわることがない。ストロング缶を飲み、サッカーの国際戦に酔いどれ、アイドルのDVDを観て床に就き、ファストフードを喰い、ファストファッションで身をくるみ、月曜から働く、、、大半は餌付けされている。皆、わかっているけど、そうすることで「バカにしてくれる」一時の癒し、刹那な欲望の昇華が欲しくて、、、。ここまで言われると危機感よりも構造は変えられなくても、自分はこうなりたくない!と思った。サッカーは応援するし、エンタメも楽しむ。でも、楽しむ意味や欲望の理由を自分で咀嚼してから生活したいと思った。ってなると、確実に飲酒は悪習だから減らしながら最後は辞めたいw。

「勝てる気がしない」
海外の野暮ったい感覚で裁かれるよりも、高度に内向化を選び、完成度を高め秩序を保つ我々、、、みたいな切り口でアルフィーさんが例え話で登場するのですが、もう、絶妙でクスッとなります。これがなかなか読み進まない理由を実感したテーマでした。

「批判と編集」
ここは、ものすごく好きな内容です。日本人は文脈が大好きという話。「裏側に潜んでいる情報までをしゃぶり尽くそうとする。」ポップスのサンプルとデータの組み合わせが顕著。「おば写」という何を撮ったん?それ?って写真の主観の強さを引き合いに、今求められている「主観」と「客観」の話。

「童貞は役に立たない」
童貞(自分はモテないとか、女性に興味がないと豪語する人も含む)は、自意識が高く、気が回らない。だめ側の人間。かなり乱暴な言い分ですが少し賛同もできる。モテる人、合コンで人気な人、ナンパがうまい人は、相手の気持ちを想像する力や自分が得意な状態へ相手を引き込んだりするのがうまいのでビジネスセンスもあるという持論がありまして。(全てが全てではないですよ!特性や傾向としてです。)あとこのテーマでは、モテと非モテの経済活動の対比話も面白い。

「未開」
これは、僕の中ではマーケティングの話。10分どん兵衛は、本来、「ここだけの話」や「少し恥ずかしい話」こっそり的な内容。でも、この告白がウケるというのは未開の開発をしたから。少しインサイトの話にもつながるかと。ユーチューバーが受け入れられる理由の考察も面白い。インフラとかツールに起因する話が多いけど、表現者として分析は新鮮。

「芸能界の定番の話」
思想も肉体もアップデートする長渕さんの話が最高。三島由紀夫~松っちゃんラインに長渕さんも入っている僕の中では、そわそわする内容。(正直、歳とってマッチョになるのに憧れがあったのでw)長渕さん特有の「敵か味方の思考」。「田舎vs都会」「個人vs国家」、震災後は「俺たちが何をしたというんだ!」というメッセージとともに「自然災害vs人間」という解釈まで。価値的相対主義な「面白がり」が有効ではないこのご時世でも安定して「ボケている」長渕さんの超人感。(褒めている内容です)

「ビジネスモデルとしてのヴィジュアル系」
「問題→解決」の結果には「安心やトキメキ」があります。「安心やトキメキ」はお金になる。このフレーズは商売の本質かと。恥ずかしながら、中高ビジュアルバンドのコピーをやったり、バンドのローディーをやっていたので、このあたりの話はものすごくわかる。ヨシキのエクスタシーレコードは中学の僕でもすごいことはわかったし、関西ではfree willレコードというインディーズレーベルもありました。当時、青二才の僕は、独立、自由、不良、反抗、自立、モテる、恋愛といったものの考え方をビジュアル系バンドの彼らから学んだ部分もありるかと、、、。

ルナシーは、お客を「スレイプ(奴隷)」と呼んでいました。退廃的で耽美的な歌詞(堕天使とか、、、)の妙、全ては変換。そこに横展開の底力を見ました。

「TBSラジオ」
マスコミは別人に向けて作られ、ミニコミは同人。ラジオはミニコミ。要は、話の通じる相手に向けたメディア。口コミ、クローズドから火が付く昨今の広告との親和性の良さを感じました。ちなみに、マキタさん的にはTBSは同人、ニッポン放送は別人。

「海外ウケ」
ヘビーメタルは国際規格。

「ピン芸人の生態」
バラエティという競技には、協調性と政治力がいる話。「笑いのカイブツ」でも書いてあった内容で驚き。

「筋肉とお笑い」
鍛えやすい腕周りの筋肉は、ライブやCS番組。下半身周りの筋肉は、地上波の深夜番組。ゴールデン番組は腹筋。基礎筋力、みせる筋力、なるなる。

「便道」
世の中を逆算で考えることが必要。家族とか仕事とか入口にあたる今のことばっかりを気にせず出口をちゃんと考えないと、お腹を壊した時のようなヤバイ便が出るよ!というお話。

「風刺と日本人」
話が通じる相手にお笑いを提供、ヤクザは「脅し」が通じる相手がいないと成り立たない。社会構造や人間関係のあり方を考える必要がある。芸人が腰抜けではない。内需が整う日本。ニーズを踏まえたシンプルな話だけど、仕組みにフォーカスするところがすごい。自分の存在価値がわかるマキタさんらしい内容。

「時間」
時間の支配者。社長は誰かから時間を奪っているという言葉は身にしみました。確かに、できる人は、人の時間を奪っている感覚を自分で持っているな~。だから無駄な連絡とか会議はしない。それは効率的でもあるが実はとても感情的で相手を思いやる気持ちがあるからかな。

「夜中のラーメン」
深夜のラーメン屋は、様子のおかしい人ばかり。酔ってる、訳ありそうなカップル、あと、僕的にはブラック企業の社員やフリーランスの時間軸がおかしくなった人も。そんな人が食べるラーメン。とんこつラーメンはウンコ味だと豪語するマキタさん。ってかそう思った方がいいのです、、、というコメントも。これはかなり深い。最近ダイエットでラーメン食べなくなって、でも、たま~にラーメン食べたくなるけど、店の前でやめようというのが何度もあった。確かに豚骨でなくても、あのラーメンの匂いは、もう苦手かもしれない。手の込んだスープで独創的な味でも、よく考えたら、過剰な油と小麦粉というやばい料理だもんな~。

●人生をサバイブするという今の時代だからという背景でも楽しめる。  ●タレント作家のおもしろ本としても楽しめる。            ●TVブロスのアーカイブ的な側面でも楽しめる。

マキタスポーツという多才を感じ、高低差も斜めも裏側も様々な視点、視座を楽しめた本書は、僕の中ではビジネス書でした!


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