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アニメの楽しさと学校の楽しさは質が違うんだよ、Mちゃん

私は美術科の教員ではありませんが、美術部の顧問です。

去年までは当然のように美術科の先生が顧問をしていたのですが、その先生のご専門はバレーボール。
年度末に「といさん、オレどうしてもバレー部の顧問したいから、来年度美術部持ってくれない?生徒はほっといて大丈夫だし、週3回くらいの活動でいいから、どうかお願いします!」と頼まれたのです。
私は昨年度は陸上部の副顧問でしたが、運動はできればやらずに生きていたい派のためにすごく居心地が悪かったので、二つ返事で引き受けました。

しかし、私は知っています。
例の美術科の先生が、メンヘラアニオタ女子の集団に関わるのが嫌になっただけだということを…。

そう、本校美術部の部員は、「ヤミ女子」の集団なのです!
ヤミ。それは「闇」であり「病み」です。
美術部というと、「プルーピリオド」とか「かくかくしかじか」とかのように、石膏像を囲んでデッサンしたり、油絵を描いて美大を目指したり、というイメージがあるじゃないですか。違います!そんな部活は、予算のない地方公立中学校には存在しません!

少なくともウチの学校は(いや、前の学校もウチの子どもたちが通った学校も)、持ち込んだマンガやアニメグッズ、またはタブレットで検索したイラストを見ながら同じ絵を描く“模写”がメインのオニオタ部と化しています。
文化祭では、体育館の舞台の背景とする巨大な壁画“ステージバック”の制作と個人作品の展示をしますが、あとは特に目標もなく、ダラダラおしゃべりしながら絵を描いたり描かなかったり…という部です。
今年は少し活動を増やしましたが、基本的にはゆるーくお絵かきする部であることに変わりはありません。

ですが、彼女たちがアニオタであることは、まったく否定していません。
むしろ私、アニオタですから!

まだアニオタが市民権を得ていなかった平成初期。
凶悪犯罪の犯人がアニメ好きだったことから、アニメが好き=気持ち悪い人、変な人と言われていた頃。
中学生だった私は、そんな風潮にも負けずアニメージュやOUT(アニメ雑誌です)を毎月買っていました。
自分で絵は描かなかったけれど、「機動警察パトレイバー」のOVA(オリジナルビデオアニメの略)を制覇したり、「らんま1/2」のサントラを聴きまくったり、なんなら当時付き合っていた男の子と「ガンダムF 91」とか「サイレントメビウス」とか、映画館に見に行ったりしてました。

そんな感じの中学生だったので、大人になってもアニメはかなり見ています。
ちなみにマイベストアニメは、京都アニメーション制作の「氷菓」。
あの事件のせいで監督さんもスタッフさんもたくさん亡くなってしまい続編は難しそうですが、小説も含めて大好きです!

話が逸れました。
そんなわけで、今の中学生のオタクっぷりには共感できるし話が合うので、多分美術科の先生より美術部の顧問は向いていると思います。えへへ。
生徒たちと同じ熱量で、かわいい女の子や美少年のカップリングにキャアキャア言っている顧問です。

とはいえ、部員の中には現実逃避の手段としてアニメをたくさん見ている子も多いです。
だからこそ、自分の力で誰かに認めてもらったり評価してもらったりする経験が増えるように、模写もいいけどオリジナルもね、ということで、イラストのコンクールに応募するように勧めたり、校内に美術部ギャラリーを作ったりしています。
ただ絵を描くだけではなく、目標を持って、上手くなりたい!という思いを持って部活に来てほしいなあと思っています。



さて。
先日の部活中、私はヒマつぶしにイスラム美術の図鑑をめくりながら、何となく生徒の会話を聞いていました。
(何しろ美術科じゃないので、美術的なアドバイスはしていないのです)

学校には毎日3時間目から来て、授業中も絵を描いているだけ(部活もたまーにしか来ない)のSさん(心は男の子だそうです)と、
学校には毎日来ているけれどイマイチ盛り上がっていないMさんが、おしゃべりしながら絵を描いていました。

S「今度カノジョとイベント行くんよー。めっちゃ楽しみ」
M「いいなあ、私なんてアニメ見てるだけだよ」
S「いいじゃんアニメ。マジ神」
M「そうなの!アニメは神だよ!もう一生アニメ見て生きていきたい」
S「わかるー」

内容のない会話だなあと思いつつ、それが若い頃のおしゃべりの楽しさよね、と愛おしい気持ちにもなります。

M「なんかさ、アニメってめっちゃ楽しいじゃん?でも学校ってつまんないんだよね。だからアニメ見て過ごしたーい」
S「なにそれw」

MさんではなくSさんに同感です。なにそれw
そもそもアニメと学校は比較対象になるのでしょうか。
彼女たちを見てニヤニヤしていたら気付かれました。

S「先生ー、この子ヤバいです」
M「なんでー?もうアニメしか勝たんでしょ?」

ふむふむ。
でもねMちゃん。アニメが楽しいのは当然なんだよ。
30分の中に日常があり事件があり解決のカタルシスがあり…ってならないと、テレビだったら視聴率が取れないし、そうでなくても作品のグッズが売れないでしょ?
作品として、見ている人に楽しんでもらおうという意図があるのはもちろんだけど、それによってお金を儲けて生活している人がいるってことは、アニメは見ていて楽しくなるようにできてるの。
私もアニメは大好きだけど、だからといって自分の日常がつまらないとは思わないなあ。
アニメに出てくる人がずーーーーーっと部屋でアニメ見てたら、何の事件も起こらないでしょ?偶然異世界に転生する人も、元の世界での経験とかスキルがあるから異世界で無双できるわけでしょ?
やっぱりさ、与えられた娯楽をぼけっと楽しんでるだけじゃだめなんじゃない?
自分でいろんなことにチャレンジしたり、面倒なことに首を突っ込んでいったりすることによって、自分の人生がアニメみたいに面白くなっていくんだよ。
学校は、ぼーっとしてたらつまらないかもしれないけど、結構事件のネタが詰まってるところだよ?
とにかく色々やってみることで、日常が楽しくなるんじゃないのかなあ?
アニメの楽しさは受け身だけど、学校の楽しさは自分で作っていくもの。質が違うんだよMちゃん!

…と、アニオタの先輩として熱く語ってやりました。「ほほー」と言っていたのできっと伝わったのでしょう。そういうことにしましょう。
そして私は「とりあえず学校で事件起こしな」と、校内の美術部ギャラリー展示用の画用紙を差し出しましたとさ。

闇病み女子たちの美術部、結構楽しいです。

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