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2023.6.8 『海賊とよばれた男』の実話

貴方は、見出し画像の貝殻マークの看板を見たことがあるでしょうか?

これは、2021年まで日本にあった、昭和シェル石油のガソリンスタンドの看板です。

今でこそ、私たちが何気なく利用しているガソリンスタンド。

実は、この昭和シェル石油は、イギリスとオランダ資本の傘下だったのですが、こうした欧米の石油会社が、こぞって戦後の日本人を食い物にしていたことを貴方はご存知でしょうか…。

「欧米の巨大企業に楯をつけるはずがない」

第二次世界大戦後。
日本の石油業界は、英米を中心とする国際石油会社によってほぼ独占…。

なぜなら、圧倒的な財力の差を見せつけられた日本の石油会社が、軒並み欧米の巨大石油会社と提携し、実質的に経営を支配されていたからです。

これにより、日本には意図的に粗悪なガソリンが持ち込まれ、さらに談合によって価格が吊り上げられていました。

日本の消費者は何の情報も与えられず、粗悪で高価なガソリンを買うほかなく、欧米石油会社がボロ儲け…。

日本人は搾取される一方でしたが、
「敗戦国だし、どうしようもない」
と、関係者の誰もが諦めていました。

しかし、そんな中、この状況に一人異論を唱え、国家や消費者のために立ち上がった男がいました。

今回は、この男の行動が、高品質で安価なガソリンが流通する今の日本を作った話を書き綴っていこうと思います。

この男については、過去に『2019.8.22 ‟海賊と呼ばれた男”の知られざる秘密』という記事を書いていますが、こちらも併せてお読み頂けたら幸甚です。


日本人を想い、日本の国益を守るために戦った一人の企業家の偉業

1945年、日本敗戦…。

東京の焼け野原で全てを失い、一人立ち尽くす起業家がいました…。
明治の創業以来、34年続けてきた彼の事業は風前の灯火でした。

朝鮮・中国大陸・アジアに築いた資産は、敗戦と共に跡形もなく吹き飛んだ…。

本業の石油業は自由に行うことができず、残ったのは海外事業に投資した265万円(現在で約数十億円)の借金と本社ビル。
仕事の無い1000名の社員のみ。

一体、どうしたらいいのか…。
しかし、敗戦から1ヶ月後、この男は…、
「1人のクビも切ってはならない」
と社員の前で宣言…。

同業者は、
「とうとうアイツは自殺するらしい」
と陰口を叩き馬鹿者扱い…。
社員や知人・友人でさえも、本気で自殺を心配するようになりました。

誰もが敗戦の衝撃に打ちひしがれ、自信を失っていた中、この男だけは確信めいた勝算を抱いていました…。

それは、明治以前の先人から学んだ、日本独自の経営思想・哲学によるものでした。

この男の名前は…、

出光佐三。

かくして、『七人の魔女』と呼ばれた巨大な力を持つ欧米石油メジャー7社と出光の激しい戦いが幕を開けました…。

「これは第二の敗戦だ…」
「日本という国は、石油のために戦争を始め、石油が無くて戦いに敗れ、今度は石油によって支配される…」

当時、戦後復興を遂げる兆しが見えてきた日本には、自動車やトラックが急増。
ガソリンの需要が著しく伸びていました。

その状況に目を付けた『七人の魔女』は、巨大な財力と資源をバックに、日本の石油市場に触手を伸ばしていきます…。

圧倒的な力の差を前に、国内の大手石油企業は、
「その方が楽に金儲けができる」
と、軒並み欧米メジャーと提携を結ぶ道を選びました。

直ちにメジャーは日本企業へ重役を送り込み、経営に介入…。
僅か1年余りで日本の石油業界は、欧米の息がかかる企業にほぼ独占される状況が出来上がりました…。

すると、日本に持ち込まれるガソリンは意図的に粗悪品ばかりとなり、自動車は少し走るとエンジンが焼け、直ぐにエンストを起こす始末…。

更には、本来は安定供給のために定められていた石油カルテル(販売協定)制度を悪用…。
各社の談合によって、わざとガソリン価格を高騰させました。

日本の消費者は、何ら情報を与えられないまま、粗悪で高価なガソリンを買うほかなく、売る側が暴利を貪る状況でした。

この石油カルテルに、一人異論を唱えていたのが出光佐三でした。
安易な道を選ぼうとすれば、メジャーの傘下で一緒に金儲けをすれば良い。

しかし、創業時から、
「消費者のために高品質で低価格なものを提供し、社会国家に示唆を与える」
という企業理念を基に会社を運営してきた彼にとって、ただ自分たちの金儲けに走るやり方は、到底受け入れられません…。

出光は日本の消費者のために、石油市場をメジャーの独占と搾取から守らなければばりませんでした。
ですが、圧力に屈しない出光に想像を絶する逆風が待っていました。

GHQの経済科学局に根回しをしたメジャーは、日本政治にも圧力をかけ、三位一体で出光を潰しに掛かります…。

まずは、同業者から成る組合から出光を排除…。
<出光の石油直売反対>
を政府に提出し、その販売手法を非難する記事を新聞に載せるなどして、徹底的に攻撃を行っていきます。

更には、船舶業者に対し、
「出光にタンカーを貸してはならない」
と圧力をかけたことで、出光は石油の商いができなくなり、倒産寸前の危機に陥るまで追い込まれました…。

孤立無援となった出光…、この状況を打破するには大きな武器が必要でした…。

それが…、

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