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【海外芸術祭参加体験談】インドネシア農村の芸術祭で展示&共同生活

こんにちは。柴田早理と申します。今回は私が女一人でインドネシア東ジャワ島の農村Kalisatの芸術祭に参加した時の経験を書きます。


東南アジアのアートコレクティブ(共同体)文化

東南アジアではアートコレクティブ(共同体)文化があり、多くのアーティストやキュレーターが集団や共同体を作り活動しています。

今回私は観客としてではなく、招聘作家として内部に入りコレクティブ(集団,共同)で生きるインドネシアの現代アートシーンの生の姿を見ることが出来ました。

個人で活動することが多い日本とは全く異なった集団での生活を経験し、作家としての生き方を探る経験にもなりました。

どんな芸術祭?

「石」を通して地元環境、地質学について考えることを主題とした芸術祭です。このkalisatという場所は千の塚がある場所とされています。またこの塚は地域の神話においても大切な役割を果たしている大切なものです。

この土地の地形をテーマにしたアート

その大切な塚が削られ、減っていることを問題とし、地域コミュニティで考えるきっかけとして、国からの補助を受け芸術祭「kalisat tempo dulu 8 PAMERAN ARSHIP BATUAN BERKISAH」が開催されました。

芸術祭の看板

なぜインドネシア農村の芸術祭に参加したか?

東京都曳舟にあるReminders photography strongholdで行われた公開ピッチに参加した際、たまたまインドネシア人のキュレーターが見学に来ており、その後こちらのコレクティブに繋がりました。

アートコレクティブは当初、日本から私が現地に行くのは現実的ではないと考えており、作品だけを展示するのはどうかと考えていたようです。しかし私はインドネシア農村にありながら、フォロワー1万人を持つアートコレクティブのことが非常に気になったので絶対に現地に行こうと思いました。

どんな作品を持っていった?

インドネシアの芸術祭につながった作品は海洋プラスチックが石のように変容していることに注目し、写真に収めたシリーズです。
芸術祭のテーマである「石」に合う作品だったので、お誘いを受けました。

海洋プラスチックの変容を捉えたAnthropocene Plasticsという作品。

詳しくはHPでご確認ください。

事前打ち合わせ

事前に2回の打ち合わせをしました。
初めは顔合わせとしてこのコレクティブについて英語で説明を受けました。
2回目は具体的な芸術祭に向けた打ち合わせになり、その後に簡易な展示プランを送るなどのやりとりをしました。

いざインドネシア農村へ

飛行機でインドネシアのスラバヤという都市に行き、さらに7時間電車に乗りkalisatへ。どんどん農村になっていく風景に一抹の不安がありました。

インドネシアの農村

アートコレクティブの生活

アートコレクティブは正式なメンバー数は決まっておらず、またリーダーなどの権力を持つ人を作っていませんでした。
その場に集まった人、地域の人みんなに開かれたアートのための共同体です。

地域に開かれたアートコレクティブ Sudut Kalisat

作品展示をするのは特別なスキルを持った人だけではありません。
地域の子どもたちや女性コミュニティがダンサーや料理家として芸術祭に参加します。芸術祭の前にはダンスの練習を重ねていました。

大学からのインターン

また街の大学から芸術祭のために9人のインターンを受け入れていました。学生たちは食事の準備や運営の役割を担っていました。
これはただのギャラリーでの展示ではなく、教育機関やいろいろな団体が協力している公的な芸術祭なのだと実感。

経済的な事情

何人かは歴史や環境などに高い専門性を持ち、外資系の企業に向けてインドネシアの記事を書く仕事をしていました。
そのほかの学生以外のメンバーの何人かは教師などの仕事についていました。しかし多くのメンバーの収入源はわかりませんでした。施工などに高いスキルを持っていたので、そういったスキルを活用しながら地域で生活していることが想像できます。
またギャラリーに寝泊まりし、協力しながら共同生活をすることにより、生活費を大きく浮かせていました
芸術祭自体は前述の通り公的なお金で賄われていました。

食事や差し入れなども無料でいただくことができ、景気の悪い話が多い日本とは異なり非常に豊かで、景気が良い印象を受けました。
成長している国の、暖かい農村ならではの現象でしょうか?

コミュニケーション

英語が通じるメンバーは2人でした。
しかしGoogle翻訳を使って様々な会話をすることが出来ました。
kalisatの人たちは明るく人懐こく、歌や踊りが好きな人が多かったです。
芸術祭では、地元のお母さんとステージに上がって踊ることもあり、そういった交流からたとえ言葉が通じなくても一緒にいて楽しいという感情を共有できました。

インドネシアのお母さんとステージに乗っているところ 笑

設営

スキルのあるメンバーの全面バックアップのもとで設営しました。
今回の展示のためには黒い背景を使いたかったので、メンバーに黒いボードを制作していただきました。

あっという間に作ってしまいます。

ライトは、いろいろなものを試してこだわった部分です。

様々な方法を提案してくれました。

結構面倒な方法を指定したのですが、次の日にギャラリーを訪れるとそのライトが作ってありました。

鉄材を組み合わせて作ってくれたライティング

おかげ様で展示によく映えるライティングができました。

写真が黒に映えています!

この芸術祭の持つ教育的な要素も考え、プラスチックの石の実物を博物館風に並べました。多くの人に興味を持っていただける仕上がりになったと思います。

博物館風の陳列。

変更されている展示

誰なのかわからないですが、展示が変更されていました。
もう勝手に変わっていたというのもなんだか神秘的で、神性を帯びた気がします。

畳まれた布が敷かれており、プラスチックがイスラム風の神性を帯びています。

文化実践者、ブダヤワンとのトークイベント

ステージイベントの一環で、インドネシアの文化実践者であるというブダヤワンの方、キュレーターの方とのトークイベントが設置されていました。

私は不安で、どういうことを話すのか、大体の流れを把握したかったのですが、インドネシアでは全く準備をしないのが普通だそうです。

私は自分の作品についての話と、海洋プラスチックの話なので、多くの人がゴミを捨てないように気をつければ、みんなの力で達成出来るという話をしました。
かなり緊張していて、英語も下手で反省。

観客からの反響

ひっきりなしにたくさんの人が。

学校など教育機関からもたくさんの方が来てくださりました。英語や翻訳アプリを使い様々な質問をされました。
日本のプラスチックのリサイクルのシステムや、日本人がそれをどう考えているのか、また容器包装プラスチック削減の取り組みについても話しました。

メディアからの反響

私の作品について多くのメディアが取り上げてくださりました。
寒い中キャンプをしながらの撮影でしたが、やってよかったと思いました。

複数のメディアが私の作品について取り上げてくれました。

生活環境

食べ物

地元のお母さんたちが作るインドネシアの美味しい料理が毎食食べられました!毎回みんなで分け合って食べるのも、楽しかったです。

みんなで食べる美味しいインドネシア料理

ただ一口目から思ったのは、スパイスの量がものすごい
お腹は大丈夫なのかという不安が。後でその不安は的中します…。

寝る場所

メンバーの一人が快適な部屋を貸していただきました。
お母さんが毎日朝食を用意してくださり、とても有り難かったです。

トイレ

メンバーの家のトイレは快適でしたが、ギャラリーのトイレはかなり難しかったです…。お腹を壊すことも含め、覚悟が必要です!

農村の人たちの楽しいステージ

トークショーやイスラム音楽、歌や地元の子どもたちによる伝統的なダンス、レゲエバンドなど様々なステージが深夜まで続きます

お母さんたちによるステージ
この地方の女の子による伝統的ダンス
盛りだくさんのステージ

襲う腹痛

スパイスたっぷりの料理を毎食美味しくいただいていたら、案の定、3日目くらいには腹痛になってしまいました。

大量のスパイスをすり潰すための石の皿。

素敵な場所で、芸術祭後もしばらくKalisatに居たい気持ちでいっぱいでしたが、後半は実は結構必死だったので仕方なく帰ることに。

コレクティブへの感謝

芸術祭のため、テーマに沿った石を集めたそう。

芸術祭において作品や作家を輝かせるのは、周囲の運営の方や地域の人々です。

芸術祭を成功させるためにコミュニティ全体で協調する力、それにより無事に終えることが出来ました。アートという、理解を得ることが一見難しいものをやりながら、地域コミュニティを尊敬し対立することなく、助け合い理解を得ていました。

また、みんなで共同で生活していたので連帯感も生まれました。滞在期間中に必要なものは全て無料で提供していただいたので、お金をほぼ使わずに過ごしました。流石にそれでは気が悪いので、せめてもの寄付をし村を後にしました。アートコレクティブsudat kalisatの皆様、kalisat地域の皆様に、心より感謝です。

イスラム社会のコミュニティでもあり、外国人として戸惑うばかりで恐縮でしたが、外国からアーティストが来たときには私も優しくしようと心に決めました。

日本の景気が厳しくなる中、個人として生きるのは難しくても、複数人で協力すればできることもたくさんあります。

東南アジアの共同体的な生き方はコストパフォーマンスに優れており、作家として生きていくために一つの方法になり得るかもしれません。

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