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古希の父と悪魔のビール

あ、忘れとった。

私が大事なことを忘れていたことに気づいたのは、父の誕生日の翌日である1月24日のことだった。私は1月24日を完全に1月23日だと思い込んでいて、父にお誕生日おめでとうのLINEをしようとしたところ、もうすでに父の誕生日を一日経過していたことに気づいたのだ。

私は今年古希になる父の誕生日を忘れていた。

ああ、もう遅かった〜。
時期を逸したと思い、私はおたおめLINEをするのをあっさりと諦めた。

いずれにしてもその週の土曜日に父の誕生日会をすると母から言われていたので、お祝い伝えるのはその時でいいや、と思ったのだ。

そして、その土曜日。
長男がインフルエンザB型の診断を受けた。流石に濃厚接触者である私たちも発症するリスクがある。一緒に食事をするのはどうかと言うことになり、私たちは誕生日会出席を諦めることにした。

とはいえ、我が家から私の実家までは直線距離で100mくらいの距離にある(多分)。歩いて三分もあれば余裕で着く距離だ。そのため、用意していたプレゼントを持参し、直接、おめでとうを伝えにいった。

カップヌードルが出来上がるくらいの時間をかけて、山も越えず谷も越えず、平坦な舗装された道路をえっちらおっちらと歩き、実家に行った。私はお誕生日おめでとうの言葉を添えて、無事に父にプレゼントを渡すことができた。実家を後にする時、母が大量に用意しておいてくれたご馳走を持たせてくれた。

プレゼントを持っていくのがメインのように話を進めたが、ご馳走をおすそ分けしてもらうこともメインのひとつだった。私は無事にその日の晩御飯を手に入れて家に帰った。帰宅後すぐに「ビールを渡すのを忘れた!」とのLINEが入り、妹が自宅までしっかりと冷えたビールを持ってきてくれた。至れり尽くせりである。

その中には、悪魔のビールが入っていた。

妹がビールを運んできてくれて、何分と経たないうちに父から悪魔のビールの感想を求められた。

一緒に飲むのを楽しみにしてくれてたんだろうなと思うと、なんだか参加できなかったことを申し訳なく思った。それと同時に、可愛らしいなという気持ちにもなった。
私はご飯の支度をするとすぐにビールを開けて、家族LINEに感想を上げた。「おいしいよ〜」と。

悪魔のビールは、しっかりとした苦味がありつつもフルーティーな香りもあり、楽しい飲みごたえのあるビールだった。癖があるようで、万人ウケしそうな飲みやすさも感じた。

悪魔のビールにも癖を感じたが、私は父もクセがあると思っている。そんな父は70歳になった。古希である。
今年はまだ現役で仕事をするらしい。

父の職業はインテリアデザイナーなので、引退後もぼちぼち自宅でできる範囲で仕事をするのかもしれない。母が一気に引退するのを望んでいなさそうな雰囲気を醸し出している。退職後の夫婦の生活というのは色々と課題もあるのだろう。

性格に少し癖がある父はヘアスタイルにも癖がある。天然パーマの癖毛をボブぐらいまで伸ばし放題にして、後ろでひとつ結びにしている。髪を切りに行くのが面倒くさいことと、後頭部の薄毛を隠すためらしいが、髭の生えた長髪のじいさんというのはそうそう見かけない。ものすごくよく言えばワンピースのレイリーっぽいイメージだ。

父との思い出で記憶に残っていることは色々あるが、改めて変な人だなと思った出来事がひとつある。
父はある日、足の親指を真っ黒にして帰ってきた。かなり黒ずんでおり血豆をこしらえたにしてはあまりに大きすぎる黒ずみに私は心配した。「どうしたの?」と尋ねたら、父は笑ってこう答えた。

「靴下に穴が空いとったけん」

どう言うことかと尋ねると、その日は座敷のある場所で食事をすることになっていたらしい。靴下に穴が空いていることに気づいた父は、幸いにも靴下が黒であったため、靴下の穴の空いている部分の指を油性ペンで黒く塗りつぶすことを思いついたそうだ。
しかし、靴下の穴は大きくなるしズレてくる。そのため、ちょっと多めに指を塗りつぶしたとのことで、親指が真っ黒になっていたと言うのが足の指が黒ずんでいた事の顛末だった。

家族内の誰一人として、彼のアイデアをナイスアイデアだとは思わなかった。
指を塗りつぶすくらいなら、靴下を買えばいい。穴を塗りつぶす暇があるならコンビニにでも行ったほうが早いのにと誰しもが思った。

でも、そういう父なのだ。

顔立ちも日本人ぽくない顔をしていて、博多区のとある寺で写真を撮っていたら、寺のスタッフの方に英語で話しかけられたり、外国に行けば現地の人に間違えられたりする。
会話をするときは、なぜか一段飛ばしをするように、間をすっ飛ばして話していくので、母によく怒られたりしている。それでも彼は、「僕の発想は人よりもひとつ先をいっているから」と会話が一段飛ばしでも仕方がないと言わんばかりであり、それを悪いことだとは微塵にも思っていない様子だ。

70歳だが貪欲に新しいものを取り入れ、iPhone15で写真を撮り、Instagramのフォロワーは私より断然多い。

ユニークでマイペースなお父さん、お誕生日おめでとう。
いつまでも元気でいてください。


喜寿の時は忘れないようにしっかりお祝いしようと思います。




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