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【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ!

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中学生、磯野伊流花は、世界平和の実現を考える「世界平和部」の部長。 地道に署名活動をしていた伊流花たちの前に、平和と引き換えに地球をよこせというイルカ型エイリアン「フィンドリアン… もっと読む
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【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ①

【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ①

「このままでは、いつまでたっても平和は来ない!」
 磯野伊流花は叫んだ。
 ビン底メガネの奥の瞳をギラつかせながら。

 久根川市立第三中学校「世界平和部」の部室には、部長と全部員が集合し、ミーティングの真っ最中だった。
 世界平和実現のために何をすべきか。
 それを中学生なりに追求するという主旨の「世界平和部」は、ある国で大きなテロが発生した2000年代には、数十人の部員を擁していたという。
 

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【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ②

【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ②

 翌朝…
 久根川駅前に立てられた簡易テントには、世界平和部の三名が集合していた。
 各地の紛争の現実を示したパネルを設置し、テーブルに備品のラジカセを置く。

「ぶちょ〜、テープってどうやって入れるんですかあ〜?」
 署名の呼びかけを録音したカセットテープを手に、恭子がラジカセをいじくり回していた。
「ラジカセ使ったことないの?ほら、その三角マークがイジェクトボタンだからそれを押して…」
「ラジ

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【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ③

【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ③

 伊流花は立ち上がると、イルカに話しかけた。
「あなた…誰?」
「我々はフィンドリアン。この星から138光年ほど離れた惑星からやって来た来訪者だ」
「宇宙人!…いや、宇宙イルカ???」
 信幸も立ち上がった。
「なんと呼んでもいい。で、君たちはこの星に恒久的な平和をもたらしたいと望んでいるのだろう?我々はその手伝いが出来ると思うのだ」
「どうやって?」
 伊流花は聞いた。
「我々は、この星で戦争に

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【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ④

【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ④

 東欧ナクリア…
 その、ルキヤ共和国連邦との国境近くの村で、マフトフ中尉の部隊は制圧した地域の住民たちを一ヶ所に集めてスパイの炙り出しを試みていた。
 村の中央広場に集められ、怯え切った様子の貧しい村人たちを眺めながら、マフトフは苦々しい表情を浮かべた。

 彼は貧乏人が嫌いだった。
 かつての惨めな自分自身と、捨ててきた家族を思い起こさせるからだ。
 ルシア共和国軍に志願したのも、貧しさから抜

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【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ⑤

【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ⑤

 紛争地に現れ、全ての兵器を無力化し、その地域の制圧を宣言する謎のイルカ軍団…

 その存在は、現地で撮影された写真や動画とともに少しずつネットに流れ出した。
 OSINT(Open Source Intelligence=ネットで公開された情報を元にしたボランティア市民による調査諜報活動)によって、I.L.P.K.A.は知る人ぞ知る存在となり、ニュースメディアを通じて一般社会にも知られ始めた。

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【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ⑥

【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ⑥

 ブルネットの少女は続けた。

「私たち国際戦争撃滅軍は、いま助けを必要としています。特に私たちの強力な同志であるI.L.P.K.A.の皆さんの…」

 アマンダの言葉は英語だったが、画面にはきれいに翻訳された日本語字幕がのっていた。
 そして話の内容は、動画のタイトルにあった通り救援要請だった。
 中南米アマカラグ共和国の密林地帯奥地に入った組織のボランティアチームと連絡が取れなくなったというの

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【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ⑦ 最終回

【SFラノベ】伊流花がせめてきたぞっ! ⑦ 最終回

「このままでは、いつまでたっても平和は来ない…」
 宇宙イルカ…フィンドリアンが言った。
「一体、地球人は本当に平和を望んでいるのかね?」
 伊流花は手酌でウーロン茶を氷の入ったグラスに注ぎ、目の前に浮かぶフィンドリアンに差し出して見せた。
「そうね。このウーロン茶と同じくらいの比率で人類は平和を望んでるわ。でも、この氷くらいの人たちは戦争や紛争を起こすことで何かを得ようとしている…この現実はこの

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「伊流花がせめてきたぞっ!」完結にあたっての創作メモ

「伊流花がせめてきたぞっ!」完結にあたっての創作メモ

先日完結した連載SFラノベ「伊流花がせめてきたぞっ!」についての雑記です。

決して良いアプローチとは言えないかもしれませんが、自分はよくタイトルから創作に入っていきます。
しかもそこには大抵元ネタがあって、それをひねったりパロディ化したりしたものがほとんどという不真面目さ。
今回タイトルの元ネタになったのは、1974年に刊行された児童向け書籍に掲載された1枚のイラストのキャプション
「イルカがせ

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