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(鑑賞記録)映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』

広坂シネマクラブ ユニバーサル上映会にて『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』を鑑賞してきました。広坂シネマクラブとは金沢21世紀美術館の企画するプログラムで、チラシによると「映画をテーマに多世代で多様な人たちがつながる、まちに開かれた新しいコミュニティ」とのことです。ユニバーサル上映会ということで、さまざまな人が映画を楽しめるように「日本語字幕版」と「音声ガイド版」の上映がありました。また、音声ガイドや字幕ガイドを利用出来るアプリ「UDCast」にも対応しています。

さて、映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』(監督:三次大輔、川内有緒)は、川内有緒さんによるノンフィクション書籍『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』があって生まれた映画と言えばいいでしょうか。映画の主人公である白鳥建二さんの長年に渡る美術鑑賞活動を、まず川内さんが本にしました。その後、白鳥さんの活動を映像でも残そうということになり、50分の中編映画『白い鳥』が撮られました。その完成後、長編映画も作ろう、という流れで映画化となったそうです。映画は2023年より劇場公開の予定ですが、それに先駆けて、各地での上映会が行われています。

私は時間の都合で「音声ガイド版」を鑑賞しました。どんな感じか全くわかっていなかったのですが、映像に合わせて、例えば情景を「晴天。淡い光の中の美術館」という風に説明したり、登場人物の名前を読み上げたり、テロップを読み上げたりします。

デートで美術館を訪れたことをきっかけに、全盲でも美術鑑賞はできるかもと思った白鳥さん。自ら美術館に鑑賞のサポートを依頼し、全国各地の美術館を訪れ、一緒に観る人々と会話しながらアートを鑑賞していきます。その白鳥さんとの鑑賞体験が面白いと、鑑賞会が開かれるようになります。

また、白鳥さんは散歩の合間に写真を撮っていました。その写真を展示したいという美術館からの声に応え、白鳥さんは「はじまりの美術館」で滞在制作・展示を行うことになります。

白鳥さんと共に美術鑑賞をするとなった初めての時は「ちゃんと説明しなきゃ」とか「私の説明は伝わっているのだろうか」と心配になったりもしたそうです。でも白鳥さんは「ちゃんと」を望んでいるわけではありませんでした。その人がどう観たか、どう感じたか。それを聞くことが楽しいのだそうです。

そもそも、絵画鑑賞に唯一の正解なんてありません。同じ絵や物を観ていても、見えているものは違うのです。だからもちろん、感じることも違います。その「違い」を面白がれる人だから、白鳥さんと一緒の鑑賞は楽しいのだろうと思います。

ちょっと美術鑑賞に慣れてくると「知識」に頼りがちになります。これはこの時代にこの流れの中でこういう意図で描かれているから……ということを突き詰めるのも、それはそれで楽しく、意義のあることです。でも、何にも知らないアートに、何にも知らないまま出会って、何かを感じることもまた、大切なことだと感じます。白鳥さんは(実際は長年の鑑賞活動で、美術知識も豊富なのだろうと思いますが)後者であることの勇気をくれます。

アートの映画、ではありますが、アートと出会う人、の映画であり、アートと出会う人と出会う人、の映画です。人と人が出会い、お互いの違いを感じながらも共に時間を過ごす、豊かなコミュニケーションが描かれた映画だと思います。

2023年より劇場公開の予定の他、「THEATER for ALL」での再配信も予定されているようです。お近くでの上映、または配信が決まりましたら、ぜひご覧になってください。

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