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[小児科医ママが解説] SIDS【Vol.2】ミルク+母乳だと、SIDSのリスクは?添い乳はOK?

SIDSのリスクとしてよく知られる「うつぶせ寝」について、前回は書きました。

今回は「母乳」とSIDSです。SIDS対策としてできることの1つに「できれば母乳で」という項目がありましたね。

「できれば」って、じゃあ、どんくらい母乳がんばればいいのよ。

赤ちゃんも吸うのが下手で乳首がきれたり、タイミングがあわなくて胸ぱんぱんになって搾乳したり、乳腺炎になったり・・・
こんな苦労して、どこまでSIDSのリスクが下がるのよ。

母乳+ミルクの混合栄養だと、どこまでSIDSに効果あるの?

私、完全ミルクですけど何か?

いろんな方がいらっしゃると思います。


この記事を読んだあとに、完全ミルクの方もふくめたすべてのお母さんが、自信をもってSIDS対策ができるようになることが目標です。


SIDS連載すべてにおいて、共通の参考文献はこちら。

●AAP(米国小児科学会)
"SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment"
(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )

●UptoDate
"Sudden infant death syndrome: risk factors and risk reduction strategies"
https://www.uptodate.com/contents/search

●厚生労働省
「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/sids.html


どんな期間・量であっても、母乳はSIDS防止に何らかの効果がありそう。


たしかに「母乳はSIDS防止に役立つ」そんな研究は、世界中に数多くあります。

どれくらいリスクを下げられるのか?本当に母乳「だけ」のおかげでSIDSが防止できたのか、などかなり検証がむずかしいですが、一説には「母乳はSIDSのリスクを36%低下させる」という報告があります。
(Evid Rep Technol Assess (Full Rep). 2007;153(153):1–186)

また今回私が調べてみて興味深かったのは「母乳をあげている期間や量にかかわらず、母乳はSIDS予防に役立っていそう」ということです。

1966~2009年に発表された研究のうち、母乳とSIDSとの関連を検証した、18の研究を統合的に解析した結果では(Pediatrics 2011; 128:103.)、
あらゆる期間や量の母乳育児をひっくるめても、母乳はやはりSIDSのリスクを下げることがわかったということでした。

※上記の論文におけるオッズ比は 0.4や0.55。つまり①母乳をあげている子のうちSIDSになった割合②母乳をあげていない子のうちSIDSになった割合として、①÷②が0.4や0.55だったということです。

※この「オッズ比」という概念は統計学上でややこしいものですが、「オッズ比が0.4=リスクを0.4倍にする」という単純なものではないのです。なので上記のように曖昧な結論になってしまいますが、統計学上いたしかたないことなので、ご了承ください。


完全母乳だと、より、SIDS防止の効果はありそう。


一方でやはり「完全母乳だと、より、SIDS防止の効果がありあそう」という見解は複数あります。
(①Breastfeed Med.2009;4(suppl 1):S17–S30 ②Pediatrics. 2009;123(3). )

疾患や研究の特性上、完全母乳のほうが○倍SIDSになりやすい、という言い方はできないのですが、やはりより母乳の割合が多いほうが、SIDS予防の効果は高いといえます。

ただし、母乳の期間については、意外と短くても効果があるのでは?という報告が複数あります。

生後1ヶ月の時点で完全母乳だった場合、という条件だけでも、SIDSのリスクを半分にしてくれているのではないか(Pediatrics. 2009;123(3).)という報告もあります。

また最低でも2ヶ月間の母乳でも、十分にSIDS予防になるのでは(Pediatrics 2011; 128:103.)・SIDSのリスクを半分に減らせるのではないか(Pediatrics. 2017;140(1) Epub 2017 Jun 5.)という見解もあります。

※なお上記の論文(Pediatrics. 2017;140(1) Epub 2017 Jun 5.)においては、完全母乳とそうでない場合を比べても、あまりSIDS防止の効果に差はなかった(=同じくらいSIDS防止効果があった)としています。ま
た生後2ヶ月未満の母乳の期間だと、かりに完全母乳だとしても、SIDSを防止できる効果には乏しかったとしています。


上記をなんとなく総合すると

できれば完全母乳で、長い期間あげたほうが、SIDSをより予防できそう。

でも生後1~2ヶ月の母乳でも効果があったとする報告もあるし、完全母乳だからといって必ずしも(混合哺乳とくらべて)SIDS防止の効果が高い!とは断言はできなさそう。

というところです。



「添い乳」は避けたほうが良い・・・が、ケースバイケースでは。


んーじゃあSIDS対策のためにも、母乳がんばろうかなぁ。

と思って、だいたい次に出てくる問題が、添い乳・添い寝どこまでOKなのか問題です。

というのも、米国小児科学会がすすめているSIDS対策のひとつに「寝具は大人と分けるが、部屋は大人と同じにする(同室寝)」つまり、いわゆる添い寝は避けたほうがいいという点がありました。

特に生後まもない時期は、昼・夜関係なく、頻繁に授乳が必要です。
とくに母乳でがんばろうと思った場合、夜中にわざわざ起き出してあげるのも大変だから・・・と、添い寝しながらの授乳、つまり添い乳をされるケースも多いと思います。

結論からいうと「たしかに添い乳・添い寝はなるべくしないほうが良い。が、ケースバイケース。」というところです。


添い寝・寝具の共有がなぜSIDSにつながるのか・どれくらいリスクなのか。これはまた別記事にしたいと思います。

が、大きなポイントととしては「添い寝・添い乳することで、赤ちゃんを、大人用のやわらかい寝具に寝かせてしまうリスクがある」ということです。

赤ちゃんが沈みこんでしまい窒息する危険があると同時に、やわらかい寝具だと赤ちゃんが自由に身動きしづらい、それによって体温が過剰にこもってしまいやすい、という危険があいまって、SIDSのリスクを高めるとされています。

というわけで、米国小児科学会AAPは「同じ寝具で寝なくても、母乳はあげられるよね。やっぱり寝具の共有は避けようよ。」っていうスタンスです。

ただし一口に「添い寝」「添い乳」といっても、色々なケースがありますよね。

パターン①
●大人も子どもも、一緒に子ども用の寝具で寝ている。
●添い寝も添い乳も、子ども用の寝具で行う。

パターン②
●大人も子どもも、一緒に大人用の寝具で寝ている。
●添い寝も添い乳も、大人用の寝具で行う。

パターン③
●基本、子どもだけが、子ども用の寝具で寝ている。
●子どもが夜泣いたら、大人用の寝具につれてきて添い乳。子どもがまた寝付いたら、子ども用の寝具で寝かせる。
(あるいはそのまま大人も寝落ちして、大人も子どもも、一緒に大人用の寝具で寝る)。

パターン④
●大人の寝具のすぐ横に、サイドスリーパー(カタカナの「コ」の字のようなサークル)をつけたり、コースリーパー(ベッドの中に入れる赤ちゃん用の小さなサークル)
で子どもを寝かせている。
●大人は大人用寝具+子どもは子ども用寝具のままで、添い乳もする。

・・・どうでしょう。

これ以外にも、親御さん・お子さんの心身のコンディションや、兄弟がほかに何人いるかとか、そういう家庭状況によってめちゃくちゃバリエーションがあると思います。

なんだか単純に考えると、上記の④、つまり大人は大人・子どもは子ども、で寝具をわけて寝て、かつサイドあるいはコースリーパーをつかえばそのままの状態で添い乳ができる。

これが一番リスクが低そうですが、「サイドスリーパー・コースリーパーがSIDSのリスクを低下させるかどうかは、エビデンスがない」というのが現状です(Pediatrics. 2016;138(5)。
ほんとに一筋縄ではいかないSIDS・・・。

というわけで、なんだかぱっとしない言い方になってしまいますが、

「夜中でもがんばって母乳をあげてSIDSのリスクを下げるメリット」

「添い乳・添い寝することで、もしかしたらSIDSのリスクを上げてしまうデメリット」

を親御さんが考えた上で、どういうふうに寝るのか・夜間の授乳をどういうスタイルでするか、決めてください。

ということになります。


いかがでしょうか?

SIDSと母乳について、ちょっと深く掘り下げてみました。

「できれば母乳で」というSIDS予防キャンペーンの言葉をみると、何が何でも母乳!みたいな感じでとらえてしまう親御さんも多いのですが、
「必ずしも完全母乳でなくても、SIDS防止に効果はありそう」という報告があることが伝わればうれしいです。

またWHO(世界保健機関)でいわれている「できれば最低でも生後6ヶ月までは、完全母乳で」という言葉に、結構くるしんでいる親御さんも多いです。
そんな方には「生後1~2ヶ月の母乳でも、SIDS防止の効果がありそう」という報告もあるよ、知っていただけたら幸いです。


そして、完全ミルク育児の方。上の記事を読んでいると「やっぱりミルクはSIDSのリスクを高めちゃうの?」と心配になる方もいると思います。
たしかに母乳をあげていることで、SIDSのリスクがいくぶんか減ります。

ただし実際には、完全母乳のお子さんでも残念ながらSIDSで亡くなったお子さんも多くいます。ミルクだから死にやすい、とか、そんな単純な問題じゃないんです。


もしSIDS予防のためだけに、本当はめちゃくちゃ心身ともにしんどいのに、母乳にこだわられている方がいたら、それはオススメしません。

お母さんが少しでも、心も体もポジティブでいられること。なにより、お子さんの体重が、お子さんなりの成長曲線をえがいて増えること。むりに母乳にこだわるよりも、よっぽど大事なことです。

7000人に1人という確率のSIDSを、しかも100%防げる保証はない母乳という手段に、自分の人生を犠牲にしてしがみつく必要はありません。
思う存分、ミルク使ってください。

母乳やミルク以外にも、SIDSのためにできることはたくさんありましたよね(前記事)。


今後も、正しく知って・正しくおそれて・自分で納得できる決断をかさねてのりこえていく、そんなお手伝いができたらうれしいです。

(この記事は、2023年2月2日に改訂しました。)


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