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[小児科医ママが解説] おうちで健診:3歳児健診の色々、まとめました。

「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。

前回は1歳半健診でしたが、今回は「3歳児健診」です。
いよいよ最後のフライヤーになりましたね。

話す、歩く、食べる、(うんちやおしっこを)出す・・・人として生きるための機能がますます発達してきて、いっちょ前!になってくる時期です。

一方で、言葉の発達や、トイレトレーニング、かんしゃくや落ち着きのなさなど、やっぱり色々と気になりますよね。

今回も過去のnoteや、ほか医学的な見地をまじえて、少し詳しく3歳時健診を見ていきます。

日々変わるお子さまを前に、悩みをゼロにするのはムリですが、少しでも前向きに悩みと付き合っていく。そんな手助けになれば幸いです。

主な参考文献はこちら。

●「正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン」
阪下和美、東京医学社、2017年

●「ベッドサイドの小児神経・発達の診かた(改訂4版)」
桃井眞里子・宮尾益知・水口雅、南山堂、2017年

●「乳幼児健康診査・身体診察マニュアル」
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/kokoro_jigyo/manual.pdf
平成29 年度子ども・子育て支援推進調査研究事業
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター


ポイント① 名前が言える
ポイント② 年齢が言える
ポイント⑥ 3語文が出る
ポイント⑦ 大小や色が分かる


1歳半で言葉がほとんど出ていないお子さんでも、3歳では単語の数が増えるケースが多いのでしたね(70~80%)。単語だけでなく「文章」が出てくるのも、2歳~3歳の特徴です。

名前や年齢も個人差がもちろんありますが、3歳1ヶ月~2ヶ月のお子さんのうち、94%が、名前(姓名)が言えるというデータもあります(言葉の遅れ, 小児科診療 75(5): 815-821, 2012.)。

★過去note:いつまでにどんな言葉を話せば・理解できていればいいの?言葉が遅れる原因は何?


また「3歳で3語文」とよく言われますが、3歳になった瞬間に、3語文が出てきていなくても、もちろん異常ではありません。
少なくとも3歳では2語文(「ぱぱ、かいしゃ」「じゅーじゅー、のむ」など)が出てこないと、いわゆる言葉が遅れていると判断することが多いです。

ほか大小や色も、3歳○ヶ月でわかってくるか・・・は本当にお子さんそれぞれです。
健診では、少なくとも2語文が出ていて、かつ2歳後半から3歳にかけて、単語や文章のバリエーションが増えてきているか、ということを確認しています。
くわえて、言葉の遅れを考えるときには、小児科医はつねに難聴がないか?を疑って見ています。

★過去note:ご自宅でできる聴覚のチェックリスト。受診の目安。

また、言葉の発達には、五感を使った遊びを通じて、まずは「伝えたい!」という思いを育てることが大事でしたね。

★過去note:言葉の遅れ。"様子を見て"って言いながら、小児科医の頭の中で考えていること。
★過去note:言葉の遅れに、言葉”以外の”遊びが大切なワケ。ご自宅でできること。受診の目安。

たしかに3歳になっても根本的なメッセージは変わらないのですが、そろそろ「ご自宅だけでなんとかやってみよう・様子を見てみよう」というよりは、スピーチセラピーや言語療法士さん、臨床心理士さんなど、専門家による療育を前向きに検討してみて良い時期です。


とくに3歳ではじめて、幼稚園などの集団生活が始まるお子さんにとっては、大きな変化の時期です。
今までは言葉が話せなくても、親御さんがメッセージをくみとって、一対一で反応してくれていた。
それが急に、先生1人に何十人という同年齢の集団に、適応することが求められます。

もちろん保育園児として集団生活をつづけてきたお子さんであっても、同年代のお子さんと言葉がかわせない・コミュニケーションが取れないというのは、ストレスになりえます。

療育と言うとマイナスのイメージが湧く親御さんもいらっしゃるようですが、お子さんの「伝えたい!」という気持ちを大切に育てながら、言葉をうながしていくプロとつながることは、親子ともどもプラスになることが多いです(もちろん人間同士なので、相性などはありますが・・・)。


地域によって療育のシステムは様々ですが、お子さんの言葉で気になる事がある場合は、まずは3歳時健診で保健師さんに相談してみたり、地域の保健センター・支援センターなどにお問い合わせしてみたりすると良いでしょう。


ポイント③ 視線が合う
ポイント⑨ ままごとで役を演じられる


以前、こちらのnoteで書きましたが、赤ちゃんのうちはとくに、目線が合わないからといって、必ずしも発達が異常というわけではない・それだけでは判断できないのでしたね。

3歳でも同様で、「目が合わない→はい、発達障害・自閉症」という短絡的なものではありません。

フライヤーにも書いてあるような「ままごとで役を演じられるか?」のほかに、人見知りや親御さんとの関係性、お友達との遊び方、言葉の発達など、様々な「社会性」を検討しながら、発達に特徴があるかどうかを見ていく必要があります。



ポイント④ 丸を描くことができる
ポイント⑤ 階段を1人で上れる


運動の発達についてです。

「3歳で丸を描ける」もよく言われる項目ですが、3歳○ヶ月で丸が描けるようになるかは個人差が大きいですし、丸が描けないということ「だけ」で何か異常を疑うことはありません。

階段については、たしかに2歳以後から徐々に、足を交互に出して登ることが多くなってきます。
が、これもまた個人差があるので、3歳で足を交互に出さないで登るから異常だ!ということにはなりません。



ポイント⑧ 虫歯の有無


3歳ころに、乳歯20本がはえそろってくるのが、典型的ではあります。
3歳○ヶ月までに生えそろっていなければいけない!という基準はありません。

極端な例ですが、1歳後半から歯の本数が全然増えない、あるいは身長や体重も成長曲線をどんどん横切って増えない、などの症状がある場合は、小児科や小児歯科への相談をいただければと思います。
まれに甲状腺の機能などが影響して、歯の生え遅れや、身長・体重の伸び悩みにつながることがあります。

歯みがき粉に使うフッ素については、下記が参考になればと思います。

★過去note:歯のあれこれ。生えてこない・生え方が気になる。歯みがきのフッ素はどうしたらいい?



受診の目安:これまでできていたことができなくなる


ちょっとピンとこないかもしれないですが、実は小児科医が発達を見るときに、どの年齢のお子さんでも注意していることです。

言葉や運動の発達は、個人差が大きいため、まだ長く経過を診させてもらっていないお子さんだと、どうしても個人差なのか・特徴的な発達のお子さんなのか、判断しかねることが多いです。

ただし「今までできていたことが、できなくなってきた」というのは、明らかに異常です。医学的には「発達退向」の状態です。

例えば、前は階段をスタスタ交互に登りきっていたのに、いつも途中で疲れたといって、全く登れなくなってしまうことが増えてきた。

2歳で2語文が出てきた・・・と思ったけど、3歳で3語文になることなく、逆に単語や喃語に戻ってしまった。

こうした「一度獲得したはずの、単語や社会的スキルが、喪失した」場合は、発達障害や、発達に影響しうる何らかの疾患(脳や染色体、遺伝子の病気など)を疑い、検査を進めていうこともあります。
(参考:Practice parameter: Screening and diagnosis of autism, Neurology August 22, 2000, vol. 55, no. 4, 468-479.)



Q.おむつが外れません・・・


3歳台で、日中のオムツが外れてくるお子さんはたしかに多いです。

ただし3歳○ヶ月で、日中のオムツが外れていないと異常、という基準はありません。
4歳になってやっと、日中のオムツが外れるお子さんもいます。

①膀胱がおしっこを貯められるだけ十分に大きくなる
②脳が、膀胱の動きをコントロールできる
③膀胱の出口の筋肉がうまくできる
…結構、大変ですよね。

強制しない・強くしからない、興味をもたせる(シール・絵本、お兄さん・お姉さんパンツ)など色々な方法やコツが紹介されていますが、医学的にどんな方法が一番トイレトレーニングが進むかという根拠はありません。

それぞれのご家庭の事情にあわせて、心身ともに無理なく、納得してつづけられる方法がベストです。

なお、集団生活もあいまって、一気にトイレトレーニングが進んだ!・・・と思いきや、クラス替えや友達の転園など、また原因もわからないけど、なぜかまたオムツに後戻り・・・というのも非常によく見られます。

また夜のオムツが取れないという相談もよくいただきますが、4~5歳いっぱいくらいまでは、夜のオムツが取れないのは正常の範囲内です。


ちなみに便秘があると、うまくおしっこが出せなかったり、お腹がはって感覚がわからなかったりして、トイレトレーニングが進みづらいということもよくあります。
便秘については、下記が参考になれば幸いです。


★過去note:便秘のあれこれ:どれくらいウンチが出なかったら便秘なの?水分や食事はどう気をつけたら良い?薬はクセになる?



Q.少食や偏食があります


こちらも本当に!よくいただくご質問です。

通常は、身長や体重が、そのお子さんなりに成長曲線を描いていれば、問題ないとして様子を見ます。
というか、無理やり食べさせるのも、物理的に無理です。

偏食といっても、その時期その時期で、食べられるものの種類が変化していくこと、また食事に何らかの参加を促すことが助けになる可能性、そんな論文の報告を、過去のnoteにも書いています。参考になれば幸いです。




Q.落ち着きがないけれど大丈夫?
Q,かんしゃくを起こします


「うちの子の落ち着きの無さやかんしゃくが、個性の範囲なのか、何か発達に異常があるのか、わからない」そんなお悩みもよくいただきます。

Bright Futures(アメリカでの公式の健診マニュアルのようなもの)では、かんしゃくにどう対応したらいいか、以下のようなポイントを挙げています。

【かんしゃくの対策】

●かんしゃくが起こらないように予防する
例)おやつが見えたら食べたいといって怒り泣き叫ぶ場合
→ おやつが見える場所にあるのが、かんしゃくのそもそもの原因。おやつを見えないところにしまっておくなど、かんしゃくの原因でコントロールできるものは、コントロールをする。

●かんしゃくが起こっても、注目しない
かんしゃくを起こすことで、親御さんから注目されるのも、お子さんにとってご褒美になります。
なだめようと、あれこれ関わるのが、逆効果になる場合もあります。
もちろん公共の場で泣き叫んでいるのを、放置するのは色んな意味でムリがありますが、自宅内や可能な場所であれば、これは一つの手です。

逆に、普段とくにかんしゃくを起こしていないときに「注目しているよ」と伝えてあげられるとなお良いです。
ちゃんと手つないで歩けたているね!座って食べられてるね!と、落ち着いて行動できているときに、現在進行形で・その場で、ほめてあげられると良いですね。

●周りの大人が一貫した態度をとる
両親や祖父母などで、かんしゃくに対する態度が違うと、お子さんも混乱します。
家族とはいえ、子育ての方針を決めるのは難しいですが「お菓子をほしがってもあげない」など、いくつかは明確なルールがあると望ましいです。

●子どもに期待しすぎない
変な言い方かもしれませんが、知らず知らずのうちに、年齢相当でできること以上を、お子さんに求めてしまっているケースは実は多いです。
3歳というとだいぶ成長して見えますが、何かを我慢したり・気持ちをコントロールしたりする脳の機能は、まだまだ発達途上です(思春期をこえても、まだ発達過程なぐらいです)。
過度な期待をしない、というのも、かんしゃくや親のイライラ対策で、とても大事なことです。

参考:「正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン」


正常か・発達に特徴があるのか、判断ができない、というのは、なかなか難しいところです。
ひとつ基準になるのは「日常生活でどれくらい困るか」という指標です。

たとえば幼稚園でまったく集団生活ができない(列を待てない、話を聞けない)ので、園の先生から「もうお子さんを見ることは難しいです」と言われてしまった。

お友達をケガさせるなど、親御さんが出て解決しないといけないトラブルが頻発している。


色んなケースがありますが、日常生活のどんな場面で・どれくらい困っているのか、というのは、療育などの介入が必要かを判断するのに大切なポイントです。

「お子さんは落ち着きがない・かんしゃくを起こしすぎだから、発達障害でしょう」という診断を受けることが、大切なことではありません。

言葉や運動の発達と同じく、療育や医療機関に通う意味は、「お子さんの発達の特性・特徴・長所短所を理解して、それに合わせた関わり方を周りがすること・環境をととのえることで、お子さんやご家族が前向きに生きられる」ことです。

長期的にお子さまの様子を把握し、またどう関わったらいいかを一緒に探っていける、そんな繋がりをもつことは、親子ともども大切です。

地域によって療育のシステムは様々ですが、お子さんの落ち着きやかんしゃくで気になる事がある場合は、まずは3歳時健診で保健師さんに相談してみたり、地域の保健センター・支援センターなどにお問い合わせしてみたりすると良いでしょう。



いかがでしょうか?

0歳のときと比べると、3歳って本当に成長したな…と思う反面、また違う悩みがでてきますよね。

少しでも、安心していただける材料になれば、幸いです。

(この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)

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