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[小児科医ママが解説] おうちで健診:新生児の聴覚検査はマスト。耳の聞こえは、首すわりにも影響する?難聴の原因には何がある?


「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。

今回から2回にわたって「音の聞こえ」「耳の聞こえ」について、とりあげます。

フライヤーでは6~7ヶ月健診の項目で「テレビやラジオの音の方向を見るか」というチェックがでてきますが、音の聞こえが大事なのは、もちろん、生後6~7ヶ月に限ったことではありません。

新生児のとき、産まれた病院で聴覚の検査をしたよ!というお子さんもいらっしゃると思います。
でも、その後の健診でも、聴覚はひきつづき大事なチェック項目になります。なぜでしょう?

今回は、耳の聞こえに影響が出る原因などについて、概要をみていきます。

主な参考文献はこちら。

●UpToDate
“Hearing loss in children: Etiology”
“Hearing loss in children: Screening and evaluation”
“Hearing loss in children: Treatment”
“Screening the newborn for hearing loss”

●「ベッドサイドの小児神経・発達の診かた(改訂4版)」
桃井眞里子・宮尾益知・水口雅、南山堂、2017年


聴覚の障害は1000人に1~2人(0.1~0.2%)。


お腹のなかにいるときから、赤ちゃんの耳が聞こえていることは、ご存知の親御さんも多いと思います。

具体的には、26~28週(妊娠7~8ヶ月ころ)には聴覚が生じはじめていて、33週(妊娠9ヶ月ころ)になると、本格的に妊婦さんの声を認識しているといわれています。

産まれたばかりの赤ちゃんでも、音に反応してビックリする様子や、音が聞こえてくる方向を探すなどの様子がみられますね。
ちなみにビックリして両手を広げるモロー反射は、普通の会話よりも少し大きい60dB以上の音に反応すると言われています。


何らかの原因で、こうした耳の聞こえが障害されているお子さんは、世界的に見ても、1000人に1~2人、つまり0.1~0.2%くらいはいるのでは?と言われています。

ちなみに中耳炎などで一時的に、耳が聞こえにくい状態になるのは、11歳までにほぼすべてのお子さんで経験するようなことなので、そういった一時的な聞こえにくさは、問題にはならないことがほとんどです。
(Northern JL, Downs MP. Hearing in children, 4th ed, Williams and Wilkins, Baltimore 1991.)


ただし産まれてから実は、音が聞こえにくかった。
片方あるいは両方の耳が全く聞こえていなかった。
そうした聴覚障害は、1歳未満でとくに、言語発達や認知機能の発達に影響があるだろうとされています。(N Engl J Med. 2010;363(15):1438.)

逆にもし難聴があったとしても、生後6ヶ月くらいまでに補聴器をつけるなどの治療が行えれば、言語発達も良い可能性が見込めるという報告もあります。
(①Pediatrics. 1998;102(5):1161. ②Pediatrics. 1998;102(5):1161.など)


生後7ヶ月をこえてくると、喃語(なんご)がさらに発達してきますが、それも、耳から周りの声や音が聞こえてこそ。

言葉の発達のためにも、実は耳が聞こえていない、というのをなんとか見逃したくない、と小児科医も考えています。


新生児「全員」の聴覚スクリーニングは、世界標準。でもその後に難聴がわかることも。


そこで、現在はまずは赤ちゃんが産まれたときに、なるべく全員に、聴力の検査をしよう!というのが、国内・国外に共通した流れになっています。

具体的には、

生後1ヶ月未満に、すべての赤ちゃんが、聴覚のスクリーニングをうけるべきである。

さらにその検査で何か異常がでた場合は、生後3ヶ月未満までの間に、さらに聴覚のくわしい検査をする。

というのが、世界的な推奨です。

日本でも、2001年に厚生労働省の新生児聴覚モデル事業がはじまって以来、だいぶ多くの赤ちゃんが、産まれた直後に聴覚の検査を受けるようになってきました。
とくにここ数年は、聴覚検査の費用について助成をする自治体もでてきています(例:東京都福祉保健局


新生児のときに受けた耳の検査が大丈夫だったら、その後も大丈夫でしょ。・・・と一般的には思いますよね。

ところが実は、赤ちゃんのときの聴力検査をパスしても、その後、難聴になってしまった、というケースもあるのです。

これは検査の方法や精度がわるいのではなく、病気によっては「進行性」つまり月齢や年齢を経るごとに、徐々に聴覚障害がでてきてしまうものがあるので、致し方ないものなのです。


1歳や2歳になって、実は難聴だと分かったお子さんのうち、約20%は、新生児のときに受けた聴覚のスクリーニング検査はパスしていた・問題なかったというデータもあります。
新生児聴覚スクリーニングによる難聴診断と問題点

こういうお子さんの場合、発達の遅れや、聞きまちがい・発音の悪さ、テレビの音が大きいなどといった症状があり、乳幼児健診などから医療機関への受診につながっているケースが多いです。


なお米国小児科学会は、新生児のほかにも、4・5・6・8・10歳時点でも、すべてのお子さんが聴覚の検査を受けるべきだと推奨しています。
(①Bright Futures, ②Pediatrics. 2009;124(4):1252.)
また10歳以上においても、とくに高音域の聴覚チェックについては、ひきつづき定期的に聴覚チェックを受けることをすすめています。

過去にチェックしたから大丈夫、と一筋縄ではなかなかいかないのが、聴覚なんですね。



聴覚に障害が出る原因・・・山ほど。1/3は原因がわからない。


ではなぜ、聴覚の障害がでてしまうのでしょうか。
耳の構造にわけて分類することが多いので、まずはお耳の図から。

耳の構造
「健診とことばの相談―1歳6か月児健診と3歳児健診を中心に」(中川信子、ぶどう社、1998年)より改変

耳の構造は、

①体の外から~鼓膜までの範囲を「外耳(がいじ)」
②鼓膜から内側にある3つの小さい骨(耳小骨)の部分が「中耳(ちゅうじ)」
③さらに内側で三半規管などがある場所が「内耳」

の主に3つにわかれています。

場所にわけて、聴覚に障害がでてしまう原因を見てみましょう。

【難聴の原因】

①外耳
・耳垢塞栓(栓塞):耳あかがつまっている
・外耳道炎:ケガなどで外耳が炎症を起こしている
・外耳閉鎖:生れつき外耳が閉鎖している(つまり耳の穴がない)

②中耳
・中耳炎:お子さんで(通常は一時的に)耳の聞こえが悪くなる、最も多い原因

・鼓膜穿孔、側頭骨骨折:ケガや事故などで、鼓膜が破れたり、頭の骨が折れたりしてしまった
・耳小骨奇形:中耳にある3つの小さい骨(耳小骨)に奇形がある(遺伝子や染色体などレアな病気)

③内耳・そのほか
※内耳そのものに障害があるというよりは「①外耳や②中耳以外に、聴覚障害になる原因」というニュアンスです。
・先天性(妊娠中の)感染症:サイトメガロウイルス、風疹、梅毒など
・遺伝子や染色体の病気
・内耳の構造の障害(蝸牛神経が狭窄しているなど)
・産まれた時に様々な治療が必要だったお子さん(交換輸血をするほどの高ビリルビン血症=黄疸、抗生剤の点滴など)
・髄膜炎
・腫瘍


もっと医学的に細かく見れば、ここに書ききれないものもありますが、ざっくり耳の構造にわけて原因をみると、上のようになります。

とくに前述の「産まれたときは聴覚に問題なし。でもその後、じつは聴覚障害が進んでいた」という原因としては、先天性サイトメガロウイルス感染症や内耳の構造の障害、遺伝子の変異などが多く報告されています。(①Audiology Japan Vol. 61, No. 5 2018, ②Audiology Japan Vol. 60, No. 5 2017 ③Audiology Japan Vol. 62, No. 5 2019など)

また内耳には三半規管など、体のバランスをとる大事な機能があります。
なんらかの内耳の異常があると、まず生後4ヶ月の「首すわり」の遅れがみつかり、そのあとに検査するなどして難聴に気づかれるケースもあります。(首が座っているかどうか、については過去の記事を参照ください。)


なお聴覚障害の1/3は生まれつき、1/3は生まれた後の様々な原因と言われていますが、残りの1/3は特発性=つまり原因がわからないとも言われています。

めちゃくちゃ色々検査したけど、結局、聴覚障害の原因がわからない、そんなこともあるんですね。


いかがでしょうか。

まずは産まれてすぐ、新生児「全員」に聴覚のチェックができるように、助成や無償化がこれからどんどん進むとよいなと、個人的にも思っています。

そして産まれた後に、少しずつ聴覚に障害がでてくる病気もあるので、やはり定期的な乳幼児健診はとても大事ですね。

「まぁ日常で聞こえる音とか声には、反応していそうだな~」と思われる親御さんは多いと思いますが、具体的に○ヶ月で・どんな音に・どう反応するか。ご自宅でも見られるチェックリストや、受診の目安を、次回は紹介していきたいと思います。

(この記事は、2023年2月2日に改訂しました。)


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