イノベーションを考える

僕はCCDO(中部デザイン団体協議会)で、事業委員会のデザインセミナーの委員を担当しています。
ここでは、デザインの活用やデザイン思考についてのセミナーを行っています。

デザイン思考という考え方が注目されるようになって10年ほどが経ちますが、この考え方については、なかなか理解されていないのが実情です。
デザイン思考は、イノベーションに必要な考え方の1つとされていますが、デザイン思考自体が理されていないので、例えば企業のイノベーション実現には程遠いということになってしまいます。

ではイノベーションについてはどうかと言うと、やはり同じように、適切に理解されていないようです。

そこで今回は、イノベーションについて考えたいと思います。

・イノベーションの意味
イノベーションについて、辞書では以下のように説明されています。

[1] 新機軸。革新。
[2] 新製品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新原料・新資源の開発、新組織の形成などによって、経済発展や景気循環がもたらされるとする概念。シュンペーターの用語。また、狭義には技術革新の意に用いる。
              (大辞泉)

 説明にあるように、言葉自体の意味は[1]の新機軸、革新です。もう少し説明すると、特に‘日本では’、最後にあるように「技術革新の意に用いる」とあるように、むしろこの意味で使われていることが多いように思います。しかし「意に用いる」だけで、近年では、これは誤訳だとされています。

特に日本の、僕は名古屋なので、ものづくり信奉が強い地域です。そのため余計に「技術革新」という間違った認識が強いようです。

この点については次のテーマで考えます。

・イノベーションの理解
「イノベーション」という言葉を生み出したのは、ヨーゼフ・シュンペーター、19世紀末から20世紀前半に活躍した、オーストリアの経済学者です。
彼は20世紀前半に示された「景気循環理論」から、どのようにしてイノベーションが起こるかを述べました。

ちなみに「イノベーション」という言葉は、シュンペーターが、いくつかのヨーロッパ言語を元に‘作った’言葉です。
彼の理論に、「イノベーションの5段階」などがあり、これがかなり有名なのですが、本質的には、その背景の理論の方が重要なのですが、日本の、特に「ものづくり」に固執する人達は、何故かこれを軽視するようです。

イノベーション理論の原則として、「技術が市場を生むのではなく、市場が技術を生む」という理論があります。結局、全ての発明は、人の欲求が生むということです。

もう1つ、「イノベーションは社会の政策的変化が生み出す」というもの。

簡単に言えば、社会が目指す方針が変わることでもたらされるというものです。
こうしたことを理解していないと、いくら技術だけを磨いても、イノベーションは実現できません。

ただ、ものづくり信奉が根強い、名古屋を中心とした地域では、こうしたことがなかなか理解されていません。
なんならこうした理論を話すと、僕がよく言う、悪しき慣習を正論として持ち出す経営者が何と多いことか。

・イノベーションの実現要件
イノベーションとは技術的なものだけを指すわけではないことはご理解頂けたかと思います。例えばそれまでの常識では考えられなかった方法や考え方、仕組みを生み出すこともイノベーションです。
こうしたイノベーションの代表的な例として、P&Gのブランド戦略が挙げられます。

元来、ブランドは高品質な製品に裏打ちされたもので、品質の高さは価格に比例します。
しかしP&Gは、生活用品という低価格の製品でありながら、非常に高品質な製品を製造することで、これまでになかったブランドの位置づけを確立しました。

・イノベーションを実現するには
イノベーションを実現するための考え方として色々な方法がありますが、先に挙げたP&Gの事例は、「トレードオフを実現する」という考え方に基づくものです。

単にアイデアを出そうとしても、勝れだアイデアが出ることはなかなかないのではないでしょうか。
これについては以前の記事、「ロジカルシンキング なぜフラッシュアイデアになってしまうのか」で記しました。

僕はよく「そのアイデアにイデアはあるのか」という問いを投げかけます。こうしたときのアイデアの多くは、フラッシュアイデアに聞こえるときです。
ましてやイノベーション、つまり何らかの「変革」を起こしたいわけですから、単なる思いつき等出実現できるわけがありません。

トレードオフとは、簡単に言うと「あちらを立てればこちらが立たず」という状態です。P&Gの場合も、「ブランド」と「低価格」という、そらまでの考え方ではあり得ない状態を実現しました。
例えば「常識にとらわれない」などという言葉を聞くことはありますが、言うは易し行うは難し、なかなかできるとのではありません。

ちなみに、スティーブ・ジョブズ氏は、未来予想の仮説を常に考えていて、そこからトレードオフを実現する製品やサービスを考えていたそうです。



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