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冷たい雨の降る秋の夜に

 だいぶ日が落ちるのが早くなってしまったこの季節になんとなく思い出した4冊の本について少しだけ語りたいと思う。

東京タワー / 江國香織


  ⚪東京タワー

 タイトルと表紙だけで読みたくなってしまった。どうして、東京タワーってこんなにも惹き付けられるのだろう。

 「待つのは苦しいが、待っていない時間よりずっと幸福だ 」(「MARC」データベースより)

このキャッチコピーも美しい。

 登場人物は年上の女性に夢中になる2人の大学生。同じ不倫でも一途で真っ直ぐすぎる透と要領よく二股をする耕ニ。2人は対象的だが、どちらの恋愛も歪んでいるし脆さも感じる。

 けっして綺麗な関係ではないはずなのに、汚く感じさせない。現実味はあるけど生々しさを感じさせない。

 汚い恋愛をお洒落に描く本はあまり好きでなかったはずなのに、この本は好きだ。江國香織さんの描くお話にはそれだけ惹き付けられるものがある。

 2001年初版の本。私と同じ年に生まれた本。
LINEみたいな手軽な連絡手段が存在しない時代に私より上の世代の方はノスタルジーのようなものを感じるのだろうか。

 「恋の前で、人はたぶん勇敢にならざるを得ない」というあとがきも好きです。



私たちの望むものは/ 小手鞠るい

⚪私たちの望むものは

 これは図書館で借りて読んだ本だけどもう1度読みたいと思えるくらいお気に入りの本。

 何というか、、この本の文章や世界観が好きなのかもしれない。読み終えると綺麗な映画を見たあとのような気持ちになれる。

 ニューヨークで生涯を閉じた叔母の千波瑠。
書くことと恋愛に溺れていた彼女の人生が描かれている1冊。

 「大事なことは、あなたの人生は他人には生きられないし、裁けないということ。ついでにもうひとつ言い添えておくと、だいたいにおいて恋愛とは相手とするものじゃない。自分とするものなんです」

この文章に千波瑠の人生に対する苦悩が感じられる。



 人ってどんなに幸せでも完全に満たされることはないんだろうなあ、とこの本を読んで改めて思う。どんなに幸せでもそれ以上を求めてしまう。だからこそ人は成長・進化してきた生き物なんだろうけど。

 でも恋愛においては、「それ以上」を求めてしまうと常に満たされないままで苦しい。この本の千波瑠も情熱的な性格であるが故に、どうにもならない現実にぶつかった時に絶望してしまったのかな・・・

でも、どちらかと言うと非恋愛体質であり何に対してもあまり本気になれない私にとってはそんな人生も魅力的にみえてしまう。



母影 / 尾崎世界観

⚪ 母影

 友達がいない居場所もない小学生の女の子。女の子視点で描かれる汚い現実は終始生々しい。

 特に女の子の母親が勤めるマッサージ店のお仕事は女の子を不安にさせる。カーテンの向こうで仕事中の母親に対して女の子は願う、

「もうこれ以上お母さんの変がどこにも行かないように」


 女の子からみた世界や周りの人は、少しずつ確かに歪んでいる。読み進めていくと、日常のなかに非日常さを感じ不思議な気持ちになった。

 この年くらいの女の子ってある程度世の中について理解し始めつつ難しいことはわからない純粋さも残っている。それ故に独特の感性を持っていたり小さなことに趣きを感じられたりするのだと思う。

特にふわっとした孤独感のような感覚は幼い頃の自分自身に通ずるものでもあった。

・・・どう生きていたらこんな小説を書けるのだろうと尾崎さんに感心してしまった。

純文学に興味が出るきっかけにもなった。




コンジュジ / 木崎みつ子

  2度も手首を切った父。子供の誕生日に家を出た母、そんな複雑な家庭環境で生きてきたせれな。

 あまりにも辛い現実でせれなの心の拠り所となったものは、亡き世界的なロックスター、リアン。本の中では、せれなのリアンと日々を過ごす妄想も現実のように描かれている。そして、妄想と現実の区別が曖昧になっていくのが読んでいて怖くも感じる。

 こんなに重い話なのにテンポよく読めてしまう。ただ父親から受ける性的虐待の描写は辛く読んでいて気持ち悪く感じてしまった。

 暗い話だが救われる言葉もある、と個人的には思います。ラストを美しいと感じるか酷いと感じるか特に何も感じないかについてもきっと読む人次第。間違いなく読む人を選ぶ本。それでも気になった方は是非読んでみて下さい。



 ここまで書きたいことを書きたいだけ書いてきました。

 世の中の綺麗ではない部分が感じられるような本を集めました。でもこの時期の夜に読むのには、爽やかな読了感を味わえる本よりも、ちょっと重めの内容の本がなんとなくぴったりな気もしています。

最後まで読んでくださりありがとうございました📙🍂

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