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奇術師 《詩》

「奇術師」

僕は彼女の微笑み方が好きだった 

理由なんてない

本質的な部分で奇形だと

定義された世界の片隅で

彼女の事をずっと見ていた


何かが僕の
記憶の端に引っかかっている

僕自身の古い影と

遠い昔に見た彼女の仕草 


そして ただ曖昧に肯く


過去に知られたくない

不都合の無い
人間なんて何処にもいない

彼女の背後に立つ奇術師が

帽子から鳩や花束を取り出す


ぼんやりと眺めていた 


真夜中に僕を呼ぶ電話は 

いつもと同じ調子でベルが鳴り

僕の鼓動は
いつもと同じ調子で命脈を保つ


ベッド側の読書灯はまだ燈っている

僕は朝が来るのを待ち扉を開けた

何もかもが過ぎ去っていた


ある種の好意が蜃気楼を見せる

あの黒い奇術師の帽子が
曖昧な結論を導く


理由なく始まったものは

理由なく終わると

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