見出し画像

高校生が繰り広げた「PKサスペンス劇場」。青森山田対市立船橋の準決勝。運任せにしない。互いに巧みな心理戦にハラハラ度が増した

高校生が繰り広げた「PKサスペンス劇場」というにふさわしい試合だった。全国高校サッカー選手権の準決勝で、強豪同士がぶつかった。優勝3度の青森山田と5度の市立船橋(千葉)による好カード。PK戦にもつれる展開となったが、お互いに運任せにしない。しっかり間合いを取って、自分のペースに引き込もうとする。巧みな心理戦に見応えがあった。

国立競技場で6日に行われた準決勝第1試合。青森山田が前半11分にコーナーキックからDFの小泉佳絃選手がヘディングシュートで先制した。

市立船橋も負けてない。後半34分に、右サイドからのパスに、FWの久保原心優選手が合わせて同点ゴールを決めた。試合は90分で決着がつかず、PK戦にもつれこんだ。

ここからが両校の真骨頂とも言えた。PKを蹴り込むのに、十分な間合いを取る。主審が笛を吹いた後も、じっとキーパーを見たままだ。

それは侍による刀の果し合いのようにも思えた。相手をじっと見据え、斬りかかる時を待つ。決して慌てない。時計は5秒、10秒と進んでいく。見ている側がハラハラするほど。キッカーはキーパーの隙をうかがう。これぞ、巧みな心理戦だ。

両校ともに最初のキッカーはキャプテンだった。青森山田の山本虎選手は笛が吹かれて14秒をかけて蹴り込んだ。右足で放ったシュートはゴール右隅に決まる。

一方の市立船橋は太田隼剛選手が18秒かけて、左足でゴール左隅を狙った。絶妙の角度。しかし青森のキーパー鈴木将永選手が横っ飛びで反応し、セーブした。

そして2人目の青森山田のキッカー、芝田玲選手は落ち着いていた。PKは失敗が連鎖しやすい。前の市船橋のキッカーがセーブされ、次は自分かもと不安に陥りやすくなるものだが、芝田選手は自分のペースに引き寄せた。

主審の笛が鳴ってからも、じっとシュートの機会をうかがう。5秒、10秒、15秒、20秒と時間が過ぎゆく中で、その時を待ち続けた。シュートしたのは25秒後。ゴール左に蹴り込んで成功した。

一方のキーパーも受け身の立場でいるつもりはなかった。青森山田のキーパー鈴木選手は主審の笛が鳴るたびに「来―い!」と叫んでいた。自らへの気合、相手へのプレッシャーをかけて、1人目と4人目のキックをセーブした。

キッカーとキーパーの巧みな心理戦。PK戦を青森山田が4-2で制して決勝進出を決めた。

青森山田の選手がキックまでにかけた時間は14秒、25秒、15秒、16秒、17秒。市立船橋も18秒、12秒、15秒、12秒。キッカーは運任せにせず、自分のペースに引き込もうとした姿勢が際立っていた。

PK戦はハラハラするもの。この試合では、さらに両校が心理戦に持ち込み、じっくり間合いをとってキックしたため、サスペンス劇のようにすら思えた。

日本代表はPK戦にあまり強くない。2022年のカタール大会でも決勝トーナメント1回戦でクロアチアにPK戦で敗れた。高校生が繰り広げた間合いを取ることによる心理戦を、日本代表が取り入れれば、ワールドカップのような大舞台でもPK戦で勝てるかもしれない。

高校生のサスペンス劇場は見応えがあった。それを日本代表も取り入れれば、今回の準決勝は後々まで伝説として語り継がれるかもしれない。両校の好ゲームをたたえたい。

この記事が参加している募集

スキしてみて

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?